だいきゅうわ!
ういういうい読んでってね。授業だりゅい。
砕けたバッヂの前にレノン本人は勿論のこと、少し前まで殺し合っていたはずのイグレナと俺も息が合うかのように無言になる。
あたりに漂う土埃の浮いているうちは誰一人として言葉を発そうとはしない。
そんなときにストーカーがファーストペンギンとなった。
「ごべんなざい......!レノン様ぁぁぁ!私を助けるためにぃぃぃぃ!」
「壊してしまったのは私なのです......気にしないでいいですよ」
「このまま時間制限になったらマズいよな......」
「こうなったら......レノン様のため!
貴様のバッヂをよこしなさい!」
イグレナが俺の胸元めがけて血走った目で接近してくるが遠慮願いたい。
というかせめて自分のを渡せや。
ひょいと避けるとあっ......と声を出して
「いたた......なぜ転んで......?」
しっかりとすっ転んだ情緒不安定なそいつの足元にはデチャフがいた。
「そいつだ!そいつから奪え!」
「それですわ!」
「良いんでしょうか......」
レノンの迷いを晴らすようにして、キタコレと言ったふうにブヨブヨ(元から)になった大食漢からきらりと光る希望をブチっと剥ぎ取る。
戦闘開始直後に溶かされてたせいで忘れていたがデチャフを、俺は恨んでいたはずである。
これであいつが食料を食い尽くす心配もない。
さらばクチャラー。
そうしてなんとか生きていた宿敵に思い出した恨みで唾をぺっと吐いておく。
レノンに2ランクのバッヂをつけようとするイグレナ。
「さあさあレノン様、これを......」
明らかに顔を紅潮させ、聞こえるほど荒い鼻息でじっくり、ねっとりと近づいていくイグレナ。
事案にしか見えない。
当の本人は後ずさりながらドン引いている。
それもそのはず、正直見てる俺ですら同情できる程なのだ。
「あの......自分でつけますから......」
そう断った瞬間鮮やかな紅が放物線を描いた。
その噴水の向きはすぐに変わる。
「蔑視するお顔すらも......美しいですわ......」
まるで噴水のような半楕円が止まるとともにバタリと倒れる変態が一人。
非常に幸せそうな顔をしている。
鼻血を噴き出して倒れたわけだが意識を失いながらも血を“レノンサマ”にかけない努力は認めることにする。所で今の俺の服を見てみよう。
真紅に染まったその外見は座れば被害者、立てば弁慶、歩く姿は殺人鬼としか言いようがない。
鼻腔を錆びた臭いがつく。普通に泣きたい。
泣く権利があると思う。
「......前会った時はこんな方ではなかったのですが...」
「んなことある???」
バッヂを自分でつけ、可哀想な顔で俺を見つめる彼女は語る。
「少なくとも社交パーティーで出会った時の彼女は淑女そのものでしたよ......」
「何がこいつをそうしたんだろうな」
いやただ隠していただけだろうが。
もう会いたくねえしこいつのバッヂ砕いとこうかなと迷うもとりあえず弔っておこう。
「来世はマトモなやつに生まれてこいよ」
「勝手に死んだことにするのは失礼......まあいいですね......」
優しいレノンでももう諦めちゃったよ。
一番動いたはずの俺より疲れた顔しちゃってるよ。
変態の呼吸を確認して残念に思った俺に地下の入り口から一心に真っ直ぐに進む密かな気配が二つ。
「うおぉぉぉぉぉ!!!」
イグレナ戦で五感が研ぎ澄まされていた俺にとってそれが誰のものかはすぐにわかるものだった。
舐め腐ってもよいと判断しよう。
その二つのチンピラの顎に平等に腕を伸ばした俺に予想通りの声が聞こえる。
「ふんっ!」
「あごべぁ!」
やらせなんじゃないかと言うくらい先ほどの鼻血と良い勝負をするくらいに弧を描き地面にへばりつくチンピラ。
「姉さん!大丈夫ですかい!」
「まさか追いかけたら兄貴の腕を吹っ飛ばした野郎がいるなんて......」
「姉さんに手を出すなんて俺たちルンラン兄弟が許さねえぜ!」
「いやお前らが最初に手を出してきたんだろうが」
両者片膝をついているとは思えないほど威勢がいい。
というかなんかももげた腕治ってね?
そして一番気になると言っても良い“姉さん”。随分綺麗なレノンに似つかわしくないものだ。
「レノン、兄弟いたんだな」
「そんなわけがないでしょう!困ってそうでしたので治癒魔法をかけたところ何故か姉御呼びされてるんです!」
あれというかあの傷全部メルさんの仕業だったんです?と続けるもチョットナニイッテルカワカンナイ。
「姉御!こいつに何かされませんでしたか?」
「貴方たちは事態をややこしくしないでください!メルさんは何もしていませんし、何もありませんでしたよ......」
溶け出した巨漢と辺りに撒き散らされた血痕。
血まみれの男に服すらも小綺麗な人が一人。
どんな名探偵ですら何もありませんでしたと推理するには無理があると思う。
「そんなに庇うなんて......まさか姉御の意中の相手なんスか!?」
「もう黙っていてください!」
おいおいまさかとレノンに近づくテンパった二人は瞬間空を舞う。
今度は10点満点をやろうと思うほど天高く(地表に向かって)上昇した体×2は地面へと叩きつけられることとなった。
「よりカオスな空間にしてどうする」
「ついカッとなりました......」
息を荒くするゴリラヒーラー。
ちょっと申し訳なさそうにするも俺もめんどくさかった上にレノンを責められる人間はいるとしても起きちゃいなかった。
「こいつら......4ランクなのか」
「それがどうしたのです?」
「いや......ランクが上がると強いやつ多いじゃん?」
「当然そうですね」
「別にランクによっていい飯食えるわけでもねえし......こうしよっかなって」
俺が腕を切ったやつのバッヂを奪い俺のバッヂと交換する。
「そういえばメルさんは1ランクのバッヂを持っていたんですね......誰かに打ち勝ったのですか?」
「ノーラヒと......」
「よく倒せましたね!?」
「ちげーよ......なんか知らんけどとっかえっこしてくれた」
「最初は恐怖もありましたが中々に面白い男ですよね」
正直俺もその通りだと感じる。
イカれ野郎ではあるけど話はまだ通じる方なのかもしれない。
俺の服の色を変えたやつのことを考えると尚更そう思えてきた。
「私がこの2人を倒したと言うことでいいんですよね」
「いんじゃね?」
死んでいないことが奇跡なくらい綺麗に顔面に入っていた。
今見てもぶっくりと腫れているその面は痛々しい。
「なら……私も」
そう言って俺と同じように自分のバッヂを伸びてるそいつと付け替える。
「……いいのか?出世のチャンスだぞ?」
「私では上のランクで生き残れるか
わかりませんし......それに」
そう付け加えられるがなんとも気まずそうにしているうちにその先のセリフは
「試験終了!!!!」
という4人の寝ぼすけと2人の4ランクのいる地下にさえこだまする終了の号令によりかき消された。
結局何が言いたかったのだろうか。
しかし聞いてもいいようには思えなかったので忘れることにしよう。
とりあえずはぎこちない笑顔で勘弁してやることにした。
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「我がログヴァール軍事学校は!!!
未来ある軍にふさわしい若者を育成し!!!!
この王国を守り続け、国民が侵略の恐怖に怯えることのないように!!!!!
高め合う学び場であり訓練場であり選抜の場である!!!!!!」
ミギウデの激しいスピーチが耳を刺す。
正直言ってうるせえ。
はよおわんねえかなあと質素な椅子の足をなぞる。
溶かされそうになったり血みどろになった訓練は終わりを告げ、軍部のお偉いさん方の熱心なお話がかれこれ2時間ほど続いていた。
周りに縦横整えられた椅子に座る生徒は意外にも熱心に拝聴している。
時間じゃないが俺はせっかちなんだ。とてもじゃないが真似したくないし、既に帰りたい。
どこにだよって話だが。
長ったらしい鼓舞もたけなわとなり
「最後に軍隊長からのお言葉......でしたが急遽出張ということで伝言を預かっております」
流石は国のお偉いさん。
「御入学おめでとう、惜しいことに直接はこれなかったが、私はこの場の新軍人の卵は例年に比べても途轍もない粒揃いで優秀と聞いている。そこでだ、毎年の終わりに用意された軍の現役隊長への入れ替わりの挑戦権をかけた2-3年生のみが出る選抜、特別に一年生の成績優秀者4名にも参加券を与えよう」
よくわからんが軍隊長への挑戦権!?
実力制とは聞いていたがまさかトップすらも例外ではないらしい。
「うぉぉぉぉぉ!」
「絶対入ってやる!」
「隊長と手合わせするのは私よ!」
「おいおい毎年隊長には誰も敵わないって噂だぜ」
様々な声が聞こえる。
少なくともテンションが下がっているやつは見受けられない。
ほとんど全員が野心を持ってここに来ているのだ。
俺?飯しか勝たん。
「らしいよメルくん」
「どう返せってんだ」
隣にノーラヒがいることを忘れていた。
この席もランク順になっているらしく、1ランクの奴らは隊長なるやつの話を聞いても特に動じた様子ではない。
相当な自信があるようだがそれも当然だ、イグレナのようなやつがゴロゴロといるんだろう。
しかしなんでノーラヒといいレノンといい4ランクに行きたがるんだろうか。俺も人のことは言えないが。
「まあ俺たちには関係のない話だろ」
学年トップ4なんて無理な話である。
「ということだ......隊長はやってくれるな......」
頭を抱えて下を向くミギウデの様子を見るに伝えられていなかったらしい。
どうやらこの軍は報連相がなっていないようだ、一学生として心配とミギウデへの同情がしみ出してくる。というか先に普通見ておくだろ。
「とりあえずは今のトップ4を発表する......これらは今までの試験の成績を加味したものだ」
疲れていそうな声で、しかし歓声が上がった室内のボルテージは収まることなく。
「第四席......ロノファ・ログヴァール!」
いやはやまさか......あの傲慢王子くんが、ズボンを必死に探していた女顔王子が入っているなんてな。
「第三席......レーン・ロロス!」
おいおいまじかよ......あの距離感バグった図書館のやつ、そんな強かったのか?次から敬語使おうかなとどうせしないし感じてもいない敬意を感じていると
「第二席......ノーラヒ・ターミフ!」
「呼ばれたから行ってくるね」
「お前かよ!」
意外にもランクだけがみられているわけじゃないらしい。その証拠にコイツが選ばれた。
八百長かもしれないけどノーラヒの目は堂々としていて一片の謙遜を感じない。
更にはその姿勢が清廉潔白を証明している
......気がしなくもない。ごめん否定しきれん。
順番に3人が登壇していくなか
「第一席......ミアレ・シックザール!」
そうして聞き覚えのない学年の顔が文字通り頭角を表して中央に立つ。
争いに来たとは思えない純粋無垢な白を塗りたくられたような動きにくそうなひと回り大きい服。
それを纏う人物は丈はノーラヒの2/3くらいの女。
蒼い目は余裕と自信に満ちておりそこそこの長さの髪は風に揺られているのか風に揺らさせているのかわからない。
そう形容できるほどに体の大きさに対して圧倒的な力と威圧感を放っていた。
「ロノファよりこいつの方が王向いてんじゃねえの」
そうとしか思えなかった。ビビっているわけじゃないが、出来るだけ敵に回したくはない。
第一席であることから相当な血統魔法の持ち主なのだろう。
その女が生徒が多く腰を据えるこちらを一瞥すると笑みを浮かべた。
ふと目が合った気もするがその瞬間、瞬間だ。
「キャァァァァァァ!!!!!女王が私に微笑んでくださったわ!!!」
「何を言ってるの!全試験で満点を取ったとされるお方よ。あんたなんかに向けられたわけがないでしょ!私よ私!」
「いや俺だ!」
「私だ!」
と続々と名が上がって立ち上がっては一触即発の状態。
女王というフレーズに妙に納得はしたが一種の宗教なんじゃないかコレ。
まだ入学直後というのに凄まじい人気である。こんなふうにはなりたくない。
状況に置いてけぼりになっていると代表して女王ことミアレのスピーチが始まる。
「静まりなさい」
激しい喝もいらずに落ち着いた一言が場を支配した。
「改めまして、私はミアレ・シックザール。貴方達がどう思っているのかは知らないけれど軍隊長は私がなるわ、以上」
「えぇ......」
そんな簡潔で端的な挑戦状はその場の全員を呆けさせるのに十分だったらしい。
二から四席の3人はノーラヒを除いて動揺を見せつつもやれやれと戻っていく。
「女王様だもの......そうなるでしょう」
「かっけえ......」
なんて感嘆する人が多いがしかし、威勢のいいやつがいないわけもなく。
「中々に喧嘩を売ってくれるなぁ......あんまり調子に乗るなよ」
バキィという激しくも短い音と共に肌の焼けた巨漢が勢いよく立ち上がりイスをへし折る。
備品を壊すなよ。
「たまたま第一席に選ばれたからいい気になってるらしい......ならば俺がお前を殺せば俺が第一席だな?」
おいおいマジでかよというざわめきに怯まずズンズンと進む女王の目の前に立った男。
今にも血管がプツんと切れそうである。
もうキレてはいるが。
睨み合いが続くがミギウデが制止しようとするのを女王が手を横に開いて止める。
「こんなにおつむが弱いんですもの......少しの愚行ごとき許して差し上げますわ」
「舐めんじゃねえぞ......うぎぃあぁあ!」
すると男の腕が3、いや4倍に膨れ上がる。
まるで風船のようだがその力は本物なのだろう。
「あの世で悔いろ!」
大きく振りかぶられた腕が振り下ろされるが女王は顔色を一ミクロメートルたりとも変えやしない。
答えるかわりに人差し指をふと差し出して前にしなやかに突き出す。
パンッと想像の何百倍も静かでスケールの小さな音がした。どういうことだ?
は......?という男のこぼした素の声に加えて
「なぜだ......なぜに受け止められた」
信じられないものを見るようにして目を開いては閉じてを繰り返す。
「コレは......夢だ!そうだ夢なんだ!醒めろ!はやく!」
もう片方の腕もビキビキと膨れ上がり半狂乱となりもう一度振り下ろそうとしたその時ようやく返答がなされる。まるで期待はずれかのように。
「今夢にしてあげましょう......醒めるかは保証しかねるわ」
次の瞬間男はそこにいなかった。
いや俺ははっきりとみていたのだ。
第一席、ミアレが指を少しばかり、蝶を扱うかのように前に倒した後、男は既に大講堂の壁に突き刺さって昏倒している。一回の瞬きはまるで場面を2回切り取ったかのように光景を瞳に映した。
ノーラヒもそうだが能力の幅が見えない。
どんな力か想像も及ばない理不尽な暴力が慢心の巨漢をあしらうのは容易なことだったらしい。
ヨンデクレテアリガトー




