だいよんわ!
やっほー高校生でございます。読んでくれると嬉しいな。
俺様はひたすらに強さを求めてきた。自分の存在意義を探してきた。必ずや入学し軍隊長となり王族の権威を取り戻す。しかしその夢の始まりは一人の平民によって打ち砕かれた。水塊の主導権は奪われ、それは逆に己の身を蝕んだ。今の俺様はどうなっているんだったか。溺れて、もがいて、苦しんで、記憶はそれきりなのだ。するとふと浮かび上がってくる触覚。俺様の唇もといその周辺に何か柔らかいものが触れる。くすぐったくて、笑ってしまいそうだ。そうしてようやく意識が戻ってくる。ゴボァっという自らの水を吐く音と咳の混じった音が最初に聞こえてきた。
「俺様とお前の勝負は……どうなった?」
眼前には覗き込んでくる顔、ジロジロと見られる。
「お前の負けだ」
そいつは俺様が”ギリギリのギリ“負けた相手だった。無礼だぞ。俺様の負け。わかっていても認めたくはない。水を吸い込んで調子の悪い肺で呼吸しながらどのようにしてあれを打ち返せたのか、聞こうとする。
「どうやって……ゴホゴホ!」
しかしまだ調子は戻りきっていないらしく俺様の聞く意思を邪魔される。
「しかしヒヤッとしたぞ……死んだかと」
まさか心配されているのだろうか。
「誰のせいだと思っている!」
仕方ないだろ、俺が手加減はしたんだし俺も危なかったしなと言い訳をし出すメルなるやつは水に濡れた髪の毛をブルブル弾く。さっきまでの厳しい顔つきと目つきはどこへやら、笑みを浮かべるそいつはほんの少しだけ可愛い……のかもしれない。いや平民ごときに何を思っているのだろうか。脳にまで溺れた影響が来たのかもしれない。
「なんとか人工呼吸が間に合ったらしいな」
……なんだと?人工呼吸???まさかこいつが俺に……ということはあの感触は、こいつの……俺様のファーストキスが……平民の男なんかに……嘘だ嘘だ嘘だ。しかし何故だか熱い気持ちが込み上げてくる。これはメルごときに負けた悔しさだ。絶対にそうだと形容し難いモヤモヤした気持ちを押し込む。
「ちゃんと軍医さんに感謝しろよ?」
「なんだと?」
「そりゃ……人工呼吸してお前を助けてくれたんだからさ」
ほらあそこと言われた方向を見るとどう見てもしわくちゃのババア。目が合うとパチン⭐︎とウィンクを返してくる。
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いやあ人殺しをすることなく済んで良かったぜ、とホッとしてロノファの方を見るとブクブクと泡を拭きながら倒れる。
「二次溺死には早すぎないか!?」
どうしたんだ???え見てない間にトドメでも刺されたのかと思っていたが息はあるようだ。急いでもう一度軍医さんを呼んだところでアナウンスが耳に入る。
「第十八試合、フワネ・ネミスティ対ノーラヒ・ターミフ!」
ノーラヒの実力を安全圏から眺める絶好の機会だ。王子のことは軍医さんに任せて、見に行こう。やり切った気持ちがえもいわれぬ高揚感を引き出す。さらにフルコースの条件を達成したのだ。テンションがみるみる上昇していく。今の俺には勝てるやつなんていない、多分。なんて誇っていたら、クシュン!......いやはやお恥ずかしいことに、びしょ濡れになっていたことを忘れていた。まああとでなんとかしよう。今は観戦だ。
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「最後の……どうやって水塊を飛ばし返したのですか?」
試合の始まる直前、横からパワーでゴリ押し勝ちしたらしい少女がやってくる。
「企業秘密ってやつだな」
こいつに本当のことを言うにはまだ信頼関係が足りないだろう。これ以上触れないでいてくれるといいのだが。
「教えてくれないとフルコースを作らないと言ったらどうでしょう」
「それは話が違うくないか!?」
それはずるい。条件はあくまで勝ったらだったはずだ。流石にそんなけったいなことはしないだろうと瞳を潤ませてレノンの目を見つめる。
「冗談ですから、そんな顔しないでください」
小悪魔的にいじわるそうに笑う。だよなだよな。うん、そうだと思ってたよ。お前はそんなことしないはずだ。可愛いから許してやるが、こいつ俺の反応見て楽しんでやがるなとジト目で見つめていると目の前の戦いが始まる。
試験とは思えないほどノーラヒはリラックスした表情だ。プレッシャーとかないんだかろうか。戦いなれすぎていて、戦闘は日常ですけど?っていうタイプかもしれない。目がキマってるしな。超偏見だけど。開始と同時に相手のフワネ?ってやつは跳躍し空を舞う。そして落ちてくることはない。はっきりと言えば空をふよふよと飛んでいる。
「悪いけど〜一方的な試合になっちゃうかも〜」
ごめんねぇなんて言って上に吸い寄せられていく砂埃。そうして回転しながらその小竜巻はノーラヒの方にヒュンッと向かっていく。
「僕もその通りだと思うよ」
ノーラヒもすぐさま竜巻を出して相殺する。俺の知る限りでは一般魔法の中でも人によって適した魔法というのは違うはずで、その差は規模という形でわかりやすく現れる。
「わかってるなら降参しちゃえば〜?」
ヒュババと音を立てながら風の刃とトルネードは連射して上から下へと振り落とされていく。この数を一気に操れるなんて大したものだ。さああいつはこれに対処出来るのかと品定めする気持ちで目を向けると……ノーガードだった。馬鹿だろうか。まあ流石に避けるだろと思っていてもそいつは一歩も動かなかった。全弾が炸裂し、土埃が舞い上がる。こりゃ死んだか?いや意味がわからんだろと視界が戻るのを待っているとフワネは自慢げだ。
「本当に変な人……腰が抜けちゃったってわけ?」
嘲笑うがごとく高度を下げる様子が目に映る。完全に勝ちを確信したらしい。まあ聞こえてないか、と付け加えてそいつが笑っていると、
「肝が座ってるだけだよ」
と聞こえるはずのない声が聞こえた。そうだとは思っていたけども。薄らと見えたその姿が露わになっていく。どう見てもノーダメージだ。目を擦ってもそこにはノーラヒが悠然と佇んでいる。どうやったらそうなる。直撃したのを俺も見たぞ。あんぐりとしていると信じられないものを見た顔をしたフワネが言う。
「まあ軍隊長様の甥だものね、血統魔法は違うらしいけど……これはどうかしら?」
手のひらを組み挑発気味に顎を引いたそいつの周辺から大気を切り裂く音と空気の歪みがノーラヒが周辺に集まっていき全方位を取り囲む。
「そろそろ……攻撃していいかい?」
そういえば先ほどからずっと何もしていないのだ。ついに攻撃が始まるのかなんて期待が湧いてくる。
「残念……もう遅いよ〜」
手を絞り切ると同時に収束していった空気の膜は膨張していく。
「は?意味わかんない」
もう一度操作しようとするも動きはなくその膜はフワネの体を切り裂く。墜落した体はまだ動く意志を持っていて、腕が地面を握りしめ立ち上がる。
「何が起きて……」
「血統魔法かもしれないしそうじゃないかもしれないね?」
そいつはモルモットを見るかのような慈愛の目で近づき見下ろす。
「そうだね……メルくんに倣うかな」
唐突に俺の名前が呼ばれ胸がドキりと弾む。何をする気だ?なんて考えているとそいつは……
「魅せてよ、全力の一撃」
俺は絶句した。自分がやっている時は気づかなかったが側から見ると驚くほどイタい。イキリにイキリを重ねている。え?俺こんな風に見えてたの?穴とかあったら入りたい。泣けるぜ。黒歴史が時間差で刻まれたことをしみじみと感じているとフワネがまたもや空を舞う。
「言ったからね?」
至る所から血が滲み出ているなかでその目はノーラヒと違って死んじゃいない。地面から上に向かって巨大な旋風が円柱状になる。大きさは強さなのかもしれない。それで終わりかと思われたが、追加で右腕から一筋の赤が光。消えたと思った瞬間、巨大竜巻は真紅を帯びる。そういうことか、なかなかに相性がいいのだ、風と火というのは。正確にいうと魔法か。まあ本来は火なんて消えるところだが、同じ魔力から放たれる魔法は相性が良く組み合わせによっては新たな力が顔を覗かせるらしい。
「さあ焼け死になさい!」
その火旋風が向く相手はというと既にいなかった。いや正しくは地面にはいなかった。
「貴方も……飛べるの!?」
確かにそいつは空にいた。しかし挙動がおかしい。上へ下へとバイブレーションしているかのようだった。風邪でも引いたのかな。これじゃフワネの浮遊魔法?も可哀想だ。火柱は空中を捉えるようにして地面を抉りさる。
「降りなさい!」
「ああは言ったけど、汗かきたくないんだよね」
これが本気ということならとため息をついたノーラヒは拳を構える。まさかこいつもレノンと同じようなパワータイプか?ゴリラは2人もいらんだろう。しかし拳はフワネの逆を向き空を切る、と同時に加速。変な動きだがそれは思ったより速い。すぐにでもフワネの目前に辿り着き肩に触れる。
「じゃーね……」
その少女は遙か上空へと加速的に移動していき、見えなくなる。どんな血統魔法なのかますますわからなくなった。その直後とてつもないスピードで地面に向かって落ちてくるのが見え始める。既に意識のない落下物と地べたとの距離は縮まっていき……あと数メートルというところまでいく。このままじゃ死んじまう。けどどうすることもできない。ロノファと戦ってわかった。これは立派な戦いなのである。そのとき
「やめ!」
の一言がミギウデから飛び出る……と今までの速度はなんだったのかというくらいのっそりと少女は上に上昇してふわりと落ちた。戦いは終わったらしい。風圧で俺の髪の毛はすっかり乾いていた。
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夢でも見ているのだろうか。空を飛び、加速して、触れた相手の体を自在に操作する。少なくとも現実でできていい挙動ではないし、ノーラヒという男の謎は深まるばかりだ。今は結果発表待ちだ。レノンと校舎内の空き教室で時間が過ぎるのをひたすらに待つ。あんまり待たせないでほしいよな、なんて駄弁っているとガララと教室の扉が開く。
「見ていてくれたかい?」
戦闘直後には思えない落ち着きだ。気分屋イカれ野郎ことノーラヒのお出ましだ。不可解なことに衣類さえ汚れひとつついちゃいない。というかなんでここにいることがバレたんだか。
「お前のことがますますわかんねえよ」
「じゃあ、ますますこれから知れることが増えていいね」
なんて返される。上手く返したつもりかよ。レノンが隣から口出しする。
「構うだけ無駄ですよ……」
全くもってその通りだ。ヘッドバンキングで肯定しておく。
「そんなに知りたいのなら身をもって知るかい?」
「……挑発か?ずいぶん元気なんだな」
喧嘩を売られたら買う主義の俺なのだが、相手の手の内が未知すぎる。できれば穏便にいきたいところだ。
「ごめんごめんそういうわけじゃないんだ……ただヒントをあげようと思っていねてね」
怪しさしかない提案だ。横からのるわけがないですよね?という視線が突き刺さる。いつもの俺なら絶対に乗らない。確実に。しかし本当に殺気が感じられなかった俺の興味が勝った。
「本当に攻撃しないんだな?」
「メルさん!?」
「君にだって、神にだって誓うよ」
神なんて信じてなさそうなくせして。胡散臭い笑みに気を取られていると、耳に向かって全力でレノンからの止めがこしょこしょと聞こえる。くすぐったいしやめてほしい。意外とマジかもしれない。もし何かあってもここにも監視魔法はあるんだ。さらに言えばこいつならそれさえも理解の範疇にあるはず。
「さっさと教えろ……」
レノンに目配せして意味ありげに真剣な顔をする。ようやくといっていいのか耳攻撃が止む。戦闘せずとも情報が得られるのは願ったり叶ったりだ。何が起こるんだろうか。じゃあと正面に近づいてきたノーラヒは俺の肩に手を置く。緊張が高まってくる。肩を触ることがこいつの発動条件なのか?いやでも最初の方の攻防の説明がつかない。自らの肩を触っているようにも見えなかった。どうしようとオロオロとするレノン。最悪こいつをブン殴ってもらおう。まだか……と急かそうとしたときに肩にのった手は素早く移動して!?
「なっ……」
反応する間もない。しまった。こいつが監視魔法をどうにかできる可能性について失念していた。軍隊長の甥という肩書きに未知の能力はその可能性を高めていた。反撃のナイフをポッケから取り出すも間に合うことはなく
……そいつの手は俺の顎に置かれた。
「あ?」
なんだなんだと目線を揺らしていると目を見開いたそいつから予想外の一言が飛び出す。
「君……やっぱり可愛いね」
即座にナイフを変態の脇腹に突き刺す。あっやべつい反射でやっちまった。まあ当然の仕打ちだ。緊張を返してほしい。サカるならひとりでやってろ。膝から崩れ落ちたそいつに意外なことに俺のナイフ、かわいソードは確実に突き刺さっていた。自業自得である。そこにいる全員が事態を飲み込むまで数秒気まずい時間が流れる。
「気持ちは分かりますけど!死んじゃいます!」
レノンの言葉で冷静になる。治癒魔法の準備をするため駆け寄るレノン。ノーラヒの出方を伺っているとそいつは言葉をこぼす。
「……反抗的なところもいいね」
「なあもうこいつそのままでいいんじゃね?」
「……ッ気持ちは…………わかります」
とうとう肯定された。しかし血は溢れてきているのでギリギリ残っていた良心がゆえに対処することになる。
「メルさんはナイフを抜いてください、瞬間に治癒魔法をかけます」
なんていう指示に渋々従って思いっきり引っこ抜く。グチュ……という音と共にかわいソードはその血に濡れた刃を現す。未だに嬉しそうな顔をするノーラヒにこれ以上ないくらいにドン引いていると傷口が塞がる。魔力による制限回数のことを考えたとしてもやはり強い血統魔法だ。
「有難う、満足したしお暇するよ」
なんてほざいた気分屋イカれ変態野郎は何事もなかったかのように、扉を開けて帰っていく。結局どんな力だったのかもわかりゃしなかった。なんか疲れた。腹ぺこだ。さっさと飯が食いたい。にしても、ああ、ああ、今回ばかりは…………
「レノン、お前が正しかったよ」
「懲りてください」
どんどんノーラヒのあだ名が増えていく......




