だいさんわ!
はい長めのバトル回です。ゆっくりしていってね。
「……は?」
現在俺ことメルは過去最大級に困惑していた。何せ絶対受からないと思っていた最後の最後で推薦合格したのだ。何が評価されたのか思い当たる節がない。そして当然のこと周囲もざわめいていた。
「推薦ってなんだよ!?」
「もしかして賄賂……とか」
不穏なワードがチラチラと聞こえてくる。いや一番戸惑ってるのは俺なんだけどね?その場に居づらくなった俺は爆速で門をくぐり先へ進むことにした。賄賂を払うだけの金も素晴らしい学も持ち合わせちゃいないのだが。
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看板と案内誘導に従い進んでいくとレノンの姿が見える。このまま声をかけても良かったが、何だか話しかけにくかったので追い越さないように進んでいく。ストーキングしてるみたいで後ろめたい。その後十分ほど歩いているとバカ広いスタジアムのようなところに出た。昔この国で流行っていたスポーツ。今も残ってはいるが魔法を使った模擬戦闘の方が関心を集めているのが現状だ。更に言えばここは軍部学校である。前者な訳がない。そうなるとここは何をする場所なんだ?と考えているとその謎は一人の男の登場によってすぐさま解消される。
「私が最終試験を担当する者だ」
「あの人は……!」
「右腕様じゃないか……」
周りはまたもやざわつき出すが何やらテンションの上がった様子だ。俺と同じくらいには身長の低い男が威厳のある目で周囲を見渡す。ミギウデなんて名前なのか、変な名前だ、センスしかない俺が命名し直してやろうかと思ってしまう。ミギウデ?なるやつは
「最終試験の内容は模擬戦闘だ」
なんていう。まあわかっていた。軍部のちゅよいちゅよい人材を選定するためのものなのだ。一次試験に至っては隠密スキルさえあれば合格できたしな。え?俺が魔法が使えないのはピンチなんじゃないかって?何もなかったらそりゃ危ないしもうとっくに逃げ出しているさ。しかし今の俺にはチンピラから奪ったかわいソードがある。おそらく大体のやつを魔法発動までに落とすことができるだろう。しかし相手の血統魔法によっちゃそりゃ何があるかわからない。折角ここまで来たのだ。出来れば5体満足でくぐり抜けたいところ。この間あまり男の話を聞いてなかったがまあいいだろう。十分後に第一試合が開始されるらしい。いっちょやりますかと拳を固めて気合いを入れたところで対戦表が発表される。えーと俺の名前は……あった!そうして名前の横に書いてある対戦相手を見て
「嘘……だろまさかあいつとなんて……」
なんてことにはならなかった。今の状況ならあり得そうなところが怖いところだった。ロノファ・ログヴァールって誰だよ。うんログヴァール?なんだか最近目にした気がするぞ?どこだったっけ。物忘れがひどいもんで、そろそろ歳かななんて言っていると誰かが近づいてくる。
「やあ……まさか合格しているとはね、嬉しい限りだよ」
ノーラヒだった。やけに構ってくるこいつはイカれかまちょなのか。長身男で死んだ目のイカれかまちょにどのような需要があるのだろうか。いや、ない。
「推薦かなんかで合格したらしい……」
「ふむ、珍しいね去年はそんな特殊な合格聞いたことないけど」
流石は軍隊長の甥。俺が全く知らないような情報も腐るほど持っているのだろう。思えばこいつの血統魔法も知らないな。興味本位でわざとらしく首を傾げながら聞いてみることにする。
「お前どんな血統魔法なんだ?」
勿論そんな簡単に答えてくれるわけがないだろう。そう思っていたがそいつの返答は斜め上を行っていた。
「僕に興味を持ってくれるなんて嬉しいよ、メルくん」
ニコニヤとも形容できるご様子だ。
「ねえ僕たち友達になれるんじゃないかな?」
なんとも面白い冗談だ。なれるかボケ。
「なりたくねえ」
とキッパリと断るひどーいと間延びする言い方をして後ろ頭に両手を組み
「じゃ、君の戦い期待しているよ」
相手が相手だしねと付け加えて去っていった。最後に滅茶苦茶に気になる言葉を吐いていく。追求したいところだが、もう話したくはない。あれというか上手いこと避けられたな?なんて気がつく。つくづく油断できないやつである。やられたこりゃとため息を吐こうとしているとまた後ろから声がする。
「……メルさん?」
今度はいい方だった。少し自慢げに、そして気だるそうにレノンに事を語る。
「なんか知らんけど合格になった」
最早説明はめんどくさいものとかしていたので適当にまとめているのも許せ。
「まさか、いえ、メルさんなら合格すると思っていましたよ。」
対戦表の名前を見て驚きましたけどねと返すそいつは嬉しそうだ。最初の方の三文字は聞こえなかったことにする。やっぱりこいつはいいやつだ。
「まあ今度はこの試験という壁が迫ってきてるけどな」
苦笑いしながら言うのも当然で俺は魔法が使えないのだ。まあ負ける気はないが。
「あれだけ強いんですから……大丈夫なのでは?」
いやいやそんなことはないと謙遜気味に受け流す。どちらかというとレノンの方が心配だ。
「お前は……いけるのか?」
パワーはあるがトロいし頼みの治癒魔法も厳しめの回数制限があるときた。
「精一杯頑張ります……私の方が早いようですので、応援よろしくお願いしますね」
そうとなれば応援歌を歌うことすらやぶさかではない。こいつが負けて不合格になると上手い飯にありつきにくくなるのだ。いやちゃんと本人の優しさも含まれてそう思ってるけどね?そろそろ時間ということでお互いに握手を交わして会場に目を向ける。右腕もげるかと思った。なんつーパワーだよ。
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戦いが始まる。両者一般魔法から始まり火や水の塊の撃ち合い、押し付け合いとなっていた。茶化すようで申し訳ないが必死な顔が面白かった。まあ家の存続がかかっているんだから当然か。それぞれが少しずつ血統魔法を出していく。ある意味スペシャル武器のようなものなので、できるだけ奥の手を見せたくないのだろう。俺にもおとぎ話に出てくる伝説の武器でもあればなあと思っていると変化が訪れる。片方はおそらく加速魔法でも使っているのだろう。ときおり動きが不規則だ。血統魔法は被ることも稀にだかがあるらしい。奇跡か不可思議かおそらくその相手も加速魔法だ。しかし本にも書いてあった通り、レベルがやはり違うらしい。一人は自分の体にとどまらず一般魔法にすらもその効果が及んでいる。徐々に追い詰められていく一人。
「私の勝ちだ!」
という叫びと同時にその身をしならせるのに限界がきたのか、変に加速してくる火球は相手の判断を鈍らせて体に直撃した。
「がっ……」
これじゃあ大火傷である。さながら子供はみちゃいけませんというようにレノンの目を隠す。そこそこに惨い。
「ひゃっ……なにするんです!?」
急すぎたかと反省していると
「そこまで!」
ミギウデの気迫に満ちた声がその戦いの幕を下ろさせることとなった。
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「では……行ってきます」
覚悟の決まった声のレノンの背中を押そうとしたとき呼ばれる俺の名前。
「第十二試合!ロノファ・ログヴァール対メル!」
どうやら場所は分けられて同時並行でやるらしい。全くタイミングが悪い。すまない、俺も行かなきゃならんらしいと苦々しくいうと、それはいいのですがという言葉に続けて言われる。
「メルさん……相手の方王族だったんですね……」
「はえ?」
どういうことだ、そんなバナナと思っていると気づいた。この国の名前はログヴァール王国。そりゃあ聞いたことあるよなハハ。絶対注目されてまうやん、となかばダルくなりながらもお互いに頑張ろうぜと言葉を残して歩みを進める。魔法が使えないことがバレるのは蔑視される可能性もあるので避けたいのだ。決闘場に上がり相手はどんなやつだと見てみると、驚いたことに女らしい。線が細く静かな顔つきをしている。俺的感覚においてはロノファなんていうのは男っぽい名前だったのだが。試験の相手なのだ。当然の如く。互いに睨み合うが相手がその静寂を破る。
「どんな相手かと思ってきてみれば女の平民か」
おいおい、マジかと。その声は確実にその事実を示していた。
「お前男!?」
「お前こそ、平民の男!?」
鏡写しのように指を差し合いながらいや平民は余計だろうと思いつつ、びっくらこく。どう聞いても声が男だ。マジかよ。比較的タフだろうから力を調節する心配がなくて助かりはするんだが。そしてこいつも俺を女だと思ってたのかよ。俺もやっといていうのはなんだけどよ。早速珍事じゃねえか。バツの悪い始まり方に嫌気がさしながらも、お互いにお互いを再認識してガンを飛ばしあい、
「試合初め!」
の一言と共にその戦いの火蓋は切られた。目の前の敵はさっきまでと打って変わって優越に満ちた瞳でこちらを見下した顔をして腕を組んでいる。なんだこいつ。もう勝った気なのか?気のはええやつだ。
「俺様に跪くといい。そうしたら生きて帰れるぞ愚民」
びっくりするくらいの上から目線だ。王族はこんなやつばっかなのか。国外逃亡でも図ろうかと迷っていると思い出す。今の地位は軍部の方が上のはずで国王は傀儡状態なはずだ。つまりこいつにはここにきた狙いがあるはず。そう、権力の奪還だ。となればつつこう。あまり長引かせたくも無い。
「おちぶれた王族が権力者気分とはな」
「貴様などに言われる筋合いは無いわ!」
一層激しく睨みながら身振り手振りでその怒りを表現するロノファ。
「でもお前の父ちゃんは軍部のYESマンになっちまったんだろ?」
「黙れ!父様は優しいんだ!そして俺様が軍隊長となり地位など奪い返す!」
結構酷めのことを言ってしまったのかもしれない。いやにしても煽り耐性が低すぎる。え?わざと乗ってるとかじゃ無いよな?こうも順調だと逆に怖い。
「雑魚は黙ってろ!」
目元に血管を厚くして叫ばれる。この調子ならすぐにでも血統魔法を使ってくれるだろう。もう一度くらい喧嘩売っとくかと思って相手の方を見るといない。どこ行ったと普通はなるところだが気配でわかる後ろだ。かわいソードを抜剣し体を捻った勢いで前に押し出す。直後水がバシャ!という音を立ててナイフの上で弾ける。
「少しはやるようだな平民も」
そいつの顔にはまだ怒りもあったが少々楽しそうだ。感情がコロコロ変わるのも子供みたいである。さておそらく移動系の血統魔法だろうか。また背後を取られた。馬鹿正直に振り向こうとするとそいつの反対側から何やら物質が近づいでくる。バシャッという音と共に炸裂する水球。水というのは意外にも質量を帯びていて、背中にミシミシと衝撃をもたらす。直前まで水球はロノファの目の前にあったはずだ。イテテと背中をさすりながら腰を低く据える。考えろ、メル。相手の血統魔法は何なのか。移動速度強化系だとするならロノファと水球の移動が俺が捉えられないほど早かったことになる。有り得るわけだが俺は俺の感覚を途轍もないものだと自負している。だとすると直接正面から一般魔法をぶつけられるはずだが、あいつはそれをしていない。
「もう根を上げるとは、期待はずれな愚か者だな、今のうちに靴を舐め、許しを乞えば優しく殺してやらんこともないぞ」
ドヤァという効果音がつきそうなイキリぶりだ。普通にイラッとする。ならばチャレンジだ。重い腰を上げ痛む背筋を伸ばしかわいソードを構える。手痛い一撃をくれたお返しだ。這いつくばらせてやろう。
「何度やっても同じことよ!」
そうして俺は地面を蹴る、が今回は自分の後方に回りながら下がる。ナイフの面を“来るであろう場所”に向かって大きく振りかざす。ミシシッという鈍い音と共にそれは傲慢王子の背中に直撃する。
「な……に……」
命中と同時に確信する。こいつはおそらく瞬間移動をしている。背後にばかり移動するのもおかしな話だった。自分の感覚を信じた俺の勝ちで、
「お前の……負けだ」
普通にいけすかないやつだったので容赦はしない。クールタイムが切れたり意識が確かになる前に四連続で頭に重い一撃を叩きつける。ガッ……ドッ……ゴゴッ……最後の音が鳴り終わる前にそいつの頭が地面に崩れ落ちる。
「王族が聞いて呆れるぜ」
やれやれと両腕を横に振る。ムカついていたからってキザすぎるだろうか。まあ何はともあれ決着だ。こいつの反射神経が良かったらマズいところだったな。と勝手に一人で感想戦を始めていると、そいつの体が立ち上げられる。いや体勢が急に直立になったと言った方が正しい。マージで???
「俺様は……まだ負けてなんかない……」
またもや瞬間移動だろうか。まさか起きるとは思っていなかった俺は少し身と心を引かせる。一般人なら死んでるかもしれないくらいの強さで四回も殴りつけたのだ。見るに効いていないわけでもなかった。
「何がお前をそうさせるんだ?」
純粋な疑問だった。そいつは頭から血を垂らしながら答える。
「俺様はこの国を変えるんだ、軍隊長となって……まだ終われないんだ」
父親が傀儡となった彼にとっては自分の躍進こそが王家の逆襲の唯一の頼りなのだろう。最初はただの傲慢クソガキだと思っていたが訂正することにする。こいつは立派な“王”の器だ。見直した褒美代わりだ。そうとなれば全力を受け止めよう。
「なら……一撃……全力の一撃を受けてやろう」
さあ楽しくなってきた。おそらくあれはあいつの本気なんかじゃない。
「……後悔するなよ、平民」
なんとか立っているようなそいつは土魔法で自分の周辺の地面を高く盛り上げる。
「メルさん……正気ですか!?」
観戦場からレノンの声が聞こえる。どうやらあちらは先に終わったらしい。おそらく勝ったのだろう。まあ言ってしまったのだ。受けるしかない。今にも死にそうな王子は何やらボソボソと呪文を唱え出す。その光景は異様な空気を醸し出していた。水球が現れてはそいつの体の周りを瞬間移動し続ける。そうして数を増やしていった水球は一つになる。いやデカすぎね?元来あんなサイズの一般魔法は打てない。しかしそれを可能にしているのがあいつの魔力の莫大さと血統魔法なのだろう。本来落ちていくはずの主を失った水球を空中に生かし続け結集させる。成程こりゃ必殺技だ。顔程度の水の塊であの威力だ。とんでもないことに、というか観客席にも被害がでかねん。そうなれば対抗するしかない。この状況の打開策を考えてみる。かわいソードじゃ受け切れるわけがない。仮にもサイズが100倍になっても難しいだろう。考えているうちに詠唱を終えた王子の水塊が遥かな高さから落ちてくる。
「俺様を舐めた罰だ、死ぬといい」
死にかけのくせしてタフなもんだ。もうちょいしばいときゃ良かったかななんて考えても無駄。正直にいって俺はこいつをそこそこに認めた。まあ多分死にはしないだろう。ミギウデってやつが観客への被害は考えているはずだ。そんな楽観的思考でようやくそいつを王子だと思った俺はその技を受け入れようとする。
「見事だ……ロノファ王子」
そうして全てをくらい切る覚悟で目を閉じようとしたそのとき、一人の声が耳に入る。
「もしその方を倒せたのなら、私がドグロフ家相伝のフルコースを作ります!」
よし勝とう。……当然傲慢我儘自尊心肥大クソガキなんて鼻から“わからせる気”だった。ナイフで自分の指を切り血を垂らす。そして……
「命名:跳躍血刃」
ナイフにも満たない俺の血を元にした刃で何ができるのかって?こうする。目前に迫る水塊に跳躍血刃を飛ばす。
「舞え、血刃」
溶け出したのを確認した俺は操作する。水塊をだ。魔法を使えているようで中々面白い。地面につくギリギリで跳ね返るようにクソガキに向かって水塊は飛んでいく。
「嘘だ、これは僕の......」
そいつの漏らした言葉は言い切ることなく身体と一緒に水に沈んでいく。勢いが強すぎると殺してしまう可能性があったので弱めてやったのだ。ガバゴボゴババ……と溺れる音がする。水塊ごと地面に近づけて解除してやる。あたりに水が弾ける。まあ何と綺麗な様子。観客はポカーンとしている。俺は俺で深く切りすぎた指が痛む。まあ仕方ない。さあ最後に一言くらい煽っといてやろうと満面の笑みで髪の色と同じく薄水色に近く長いまつ毛の先に水が滴りぴくりとも動かない王子に近づく。あれ、やばい、息してない。えやっちゃった?この若さで?
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