だいにわ!
どうもです暇でも暇じゃなくても見ていってくださいね。
暗闇の中で朧げに見えてくるものがある。何やら騒がしい様子でうずくまってぴくりともしない男、フードを被った女性が部屋の中で変な動きをしている。見たことのある軍服が部屋に少しずつ近づいていった。少し間をおいてフードを被った女性が焦ったように動かない男を持ち上げて…………俺???
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その瞬間体が飛び跳ねると同時に体が起こされた。夢から覚めた俺は辺りを見渡す。さっきまで何してたっけと自分自身に問いかけていると体にかかっていた毛布が力無く地面に落ちる。周りには白い壁と純白のベッドが2つほど、そのほかには年季の入った本だけが積み重なっている机。窓からは夕日が差し込んでいる。
「……そうだ!」
俺はさっきまで軍学校の試練を受けてたはず…………着地の衝撃で気を失っていたのか。あの時確かに聞こえた声によると合格したはずである、俺も彼女、レノンも。となればここは学校のどこかだろうか、というか試験はどうなっているのか。そんなときに俺の体は待ってくれないようで腹がグゥーと空腹を訴えかけてくる。考えているだけじゃ埒があかないので、この場所を探索してみることにしよう。情報が欲しい、あと飯も。部屋のドアには鍵などかかっておらず簡単にノブは回る。廊下に出ると向いにも同じドア、右を見ても左を見ても曲がり角まで同じようなドアが続いていた。ここはどこなんだ?と混乱していると向かいのドアから見知った顔が出てくる。
「あら、お目覚めになったのですね」
「お前は……レノン……だったよな」
そうとなればやはり学校のどこかなのであろう。
「あの後どうなったんだ?」
「貴方が気を失ってしまったので二次試験は明日ということで寮に運ばせていただきました」
元気だったのならよかったですと嬉しそうに微笑む姿はまあ可愛らしかった。よくみると美人である。
「ありがとな……」
運んでくれたのなら感謝はすべきだ。
「いえいえ、貴方がいなければ私も不合格になっていたはずなので」
「お前の馬鹿力がないと無理だったよ」
互いに感謝し合うのはなんともむず痒いもので静かな空気と時間が流れる。それを破ったのは俺でもレノンでもなく
「グゥー」
というなんとも気の抜けた音だった。
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「うまい!うますぎる!」
「それほどでもないですよ」
現在俺は寮の共用キッチンでレノンの手作り煮込みハンバーグをご馳走になっていた。店出せるだろコレ。幸せを全身で感じる。飯にばかり夢中になっていた俺だったが目の前にいるすーぱーシェフの発するセリフで現実に引き戻される。
「二次試験の話なんですけれど、筆記試験らしいですよ」
絶望的ともいえるその宣告にフォークを落とす。
「ひ、筆記試験???」
何を隠そう俺はただの平民。教養だろうが知恵だろうが持ち合わせているわけも持ち合わせる術もなく、それこそ不合格の烙印を既に押されたようなものだ。俺は諦めたように目を細ませながら言う。
「レノン、学校生活頑張れよ、応援してるからな」
「諦めるまでが早くないですか!?」
最低限の読み書き程度しかできない自分に、そう言われても無理なものは無理である。
「ああ、そういえば貴方は平民でしたものね」
「どうやって突破すりゃいいんだよ!」
「一日二日で民俗学や魔法史、国学の知識なんてつきませんよね」
お力になりたいところですがと頭を悩ますレノン。その通り、もう俺には明日を待つことしかできないらしい。
「そういえば、聞き忘れていました。貴方の名前は?」
そういや言い忘れていたので伝えることにする。
「俺の名前はメルだ、宜しく」
「なんとも可愛らしい名前ですね?」
かっこいいと思うんだが、とむくれてみる。微笑する少女を横目に今はこのハンバーグを味わおうと再びフォークを手に持ち肉に突き刺そうとしたとき、背後から殺気が飛んでくる。即座にフォークを持ち直し気配のする方向に体を捻り椅子から乗り出す。
「命名:ブスブスフォーくん!」
叫びながら殺気の主の首元にフォーくんをかざし、目を向けるとそこにいたのは……
「いやごめんごめん、おどかすつもりじゃなかったんだけどね」
あの暴れ男だった。合格していたのか。まああの強さならそりゃそうであろうが。
「……何の用だ」
あれだけの魔法を扱える男だ、油断するとあっという間に首をかかれる可能性もある。しかし、そこで語られた内容は思ったよりも角の丸まったものだった。
「挨拶に来たのさ……君に」
「わざわざあれだけの殺気を向けてか?」
目を細めて睨み合っていると会話の輪に入っていなかった少女が口を開ける。
「貴方、一次試験中に私に襲いかかってきた方ですよね」
それは思ったより冷静な発言だった。怯えたりはしないらしい。
「そうだね……あれは試験だったからだよ、今はただの受験生仲間だろう?」
ニコリとした顔でされど狂気が入り混じった表情でそいつは告げた。
「名前も教えずに挨拶とは面白いな」
「これはこれは失礼、僕の名前はノーラヒ・ターミフ、しがない魔法使いさ」
おろしてくれるかい?という要望に答えフォーくんを首元から離す。しがないって何だろうなと自問自答している俺の横で目を見開いて話すレノン。
「ターミフ家ってあの有名な……」
いかにも名家であるような口ぶりだ。
「知ってるのか?」
「知ってるもなにも現軍隊長の家系ですよね!?」
「彼は僕の叔父さんだね」
死んだ目は答える。まさかのまさかこの交戦的なイカれ野郎はいいとこの坊ちゃんらしい。会ったこともない軍隊長の株は右肩下がりである。
「あーでも眠くなってきちゃったよ」
そう言って口に手を当てわざとらしく欠伸する。なんとも掴みにくいやつである。
「じゃこれから宜しくね?メルくんとレノンちゃん?」
さっきまでの会話も聞いていたのかよ……心底嫌そうな顔でせめてもの抵抗をしておき、寮の就寝スペースの方向に歩き出した男は気分良さそうな足取りで見えなくなる。
「俺あいつにはもう会いたくねえわ」
正直な心情はこうである。
「それは同感ですね」
実際殺されそうになっていたレノンからそんな感想が出るのも必然的だ。逆によく喋れているまである。さっきまで寝てたはずがなんだか疲れた俺はとりあえずはハンバーグで目直し口直しすることにした。
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遅めの夕食を済ませて談笑の後、部屋に帰った俺はレノンと別れる。
「おやすみ、上手かったぞハンバーグ」
毎日口にしたいくらいだと言葉をこぼすと恥ずかしそうに
「おやすみなさい、メルさん」
との返答が向かいのドアから返ってくる。ドアノブをひねりドアを閉じた俺は独り言を言う。
「一日の密度が濃すぎてしんどいぞまったく」
返ってくるはずのない感想に言葉が聞こえてくる。
「おや、お疲れかい」
「……は?」
さっき聞いた声。もう聞きたくもない声。ぎこちなく振り向くとそこにはベッドにノーラヒが腰掛けて笑っていた。そんな信じがたい光景に俺は……
「お前がルームメイトかよ!?」
と返すしかなかった。そういえばベットが二つあったのを忘れていた。どんな奇跡だよ。
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今日の俺は災難だ。三度気を失いイカれ野郎ノーラヒと同じ部屋で寝ないといけない。いつ襲われるかたまったもんじゃない。
「疲れているらしいじゃないか、寝たらいいのに」
「お前がいんのに寝れるかよ!?」
眠るどころか目が覚めそうだ。
「最初寝た時はぐっすりと寝ていたはずだろう」
最悪だ、意識を失っていたとき寝顔を見られていたのか。え、俺何もされてないよね?爆弾とか仕掛けてられないよね?不安が不安を呼び心配スパイラルが加速しそうである。
「今日はもう寝ない、起きておく」
もはや覚悟は決まっていた。
「メルくん明日の試験大丈夫かい?」
嫌なことを思い出させる。筆記試験だ。出来るはずがない。
「馴れ馴れしいやつだな……大丈夫じゃねえよ」
「尚更寝ないと、嫌なことでもあるのかい?」
そいつは貼り付けたような困った表情を浮かべる。お前のせいだよ!という数十秒前の台詞は聞こえていなかったらしい。ああもうどうにでもなってくれと自暴自棄になっているうちに夜は更けていく。
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朝の光が窓から差し込んでくる。結局俺は寝れなかった。寝れるわけもなかったが。ノーラヒは途中で腑抜けた声で
「おやすみー」
とか言いながらベットに包まれて眠りについた。おそらく本当に寝ていたのだろうが、安心なぞ出来るはずもない。まだ試験の時間には数刻早かったので図書館へ向かい勉強することにする。足掻くことは大切だ、うん。それに魔法についても調べたいしな。寮にあった地図片手に図書館へ向かうと特に迷うことなくたどり着く。数人が静かに机にしがみついて読書をしている光景が目に入る。この学校は三年制らしい。無論ただ本を読みにきた二年生以降のやつもいるはずで、やはり必ず同じことを考える仲間もいるもので、なんだか親近感が湧いてくる。えーっと魔法についての本はと本の区分けを見ながら棚と棚の間を行き来していると目の前に一人上の方の本を取ろうとしてぴょんぴょんと跳ねている人物が現れる。
「と、取れない……」
「ほらよ」
身長がそんなに高くない俺もジャンプ力はあるので取り出してやる。なんだか小説でよくみるような状況だ。身長を除いて。これで合ってるかな?と思いつつその少女と目を合わせる。黒く揺れる髪の毛と左右で眼の色が違うそいつは数コンマの後目を見開いて本を奪い去るようにしてそっぽを向いてかけて行ってしまった。なかなか疾走感のある動きだ。状況についていけずどんな顔をしたらいいのかわからなくなる。素早いのに跳躍力はないらしい。俺の顔に恐ろしいものでもついてたのかなと思いつつ自分の目的を思い出す。これか、と魔法についての初級本を開く。
「魔法とはそれぞれに備わった魔法因子に魔力を消費することで使える血統魔法と魔力と出力する才能さえあれば使える一般魔法がある。前者は家柄によるものが大きくその力の程度は個人による。この国を治めたログヴァール王家の初代国王は…………」
数時間かけて読み進めて行くにつれてつくづく思う。魔法ってやっぱり才能なんだなあと。俺には勿論のこと魔法を使う才能だって魔力だってない。そういう人々はみんな魔法のせいで比較的地位と権威を下げることとなった。このままでは魔法以外の才のある芽を潰しかねない。果たして今の魔法社会はどうなっていくのかなあとこれからの国を案じていると周りの詰め込み仲間らしきものたちが立ち上がり出す。もうそんな時間かと昨日レノンに告げられた試験会場に行こうと本を納め歩き出す。ちょっと急ぐかと、気合を入れて図書館を出て廊下に差し掛かったとき、声をかけられる。
「そこのお前さん、今暇か?」
同じ受験生だろうか。
「暇に見えるか?」
こちとら試験しに行かないといけないのである。
「今消化不良でよぉ、昨日の試験でも全く戦えなかったんだ、そんで機会を伺ってたんだがよぉ、ここの廊下は丁度監視魔法がないという情報を得た」
既に嫌な予感がする。
「そこでだ!俺と手合わせしてくんねえか?なに疑わなくてもあくまで手合わせだ、怪我しても“自己責任”だがよぉ」
ニヤつきながら男の目に取り出されたナイフの輝きが反射する。数日間嫌なことが続いていた。今まさにチンピラに絡まれているのもその流れなのかもしれない。もっといいことが起こったっていいだろう。ああむしゃくしゃする。監視魔法がここにはないという男の台詞を信じることにしよう。ずっとまともな戦いができちゃいなかったんだ。うずうずと体を揺らす男が言う。
「可哀想なお前に、俺の血統魔術を教えてやろう、金属に毒を付与する能力だ……」
馬鹿正直に教えてくるなんて阿呆か余程自信があるのか、ブラフか。まあ丁度いいものを持ってくれていた。
「用意はいいな?」
男がこちらにナイフを振りかざす。自信に満ちた顔だ。しかしめちゃめちゃに遅い。止まって見える。俺は即ナイフを奪い名付ける。
「命名:かわいソード!」
やはりまともな武器は手に馴染むなと思いつつ男の背後に回り込む。
「は?どこに行った?……ナイフもねえ」
振り向く男にかわいソードを向ける。
「……今俺のものになった」
「……どんな手を使ったか知らねえが……死ね!」
相手の手からは光る棒?がそこそこのスピードで伸びてくる。やはりブラフか。だがやることは変わらず、俺の頭めがけて飛んでくる閃光をかわいソードで弾く。閃光は壁にぶつかりキィィィィンという耳障りな音をたて消えた。
「ナイフ如きで弾けるはずが……」
何か言っているような気もするが容赦はしない。
「……ちょっと眠っとけ」
男の横に飛んでナイフの面を首にしならせ意識を落とす。やはり俺の命名センスは最高だ、と自画自賛しながら優越感に浸っているとハッとする。
「今何時だ?」
時計などなかった俺は倒れている男の手首から腕時計を剥いで見る。
「試験開始の五分前じゃねえか!?」
ああこの馬鹿野郎、お前のせいで遅刻しそうじゃねえかと恨みついでにもう一撃頭を蹴り飛ばして俺は走った。
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なんとか試験には間に合ったが、俺に問題がわかるわけもなく。
Q”第七代国王の名前を答えよ“
問題には白いヒゲのおっさんが写っている。知るかよ!もうチョビヒゲおじちゃんでいいだろ!
Q”生まれたときの魔力と将来的な魔力の大きさの相関関係があるという法則を発見した人物の名前と法則名を答えよ“
普通に知らん。魔力がないやつには関係ねーしもう俺の名前と適当な名前でも書いておこう。
A.メル。魔力ツリアーうの法則。
こんな調子で進めていると最終問題だ、やっぱ無理だろこれ。頭を抱えてペンを折りそうになっていると最終問題に辿り着く。何々、現在のログヴァール王国の在り方についてどう思うか述べよ?急に抽象的だしめちゃくちゃに記述形式だ。最早適当になっていた俺は魔法以外にも目を向けろとだけ書いておいた。暇になって絵を描いていると
「試験終了!ペンを置け!」
という野太い声がこだまする。いやあ、これからどうしようと不安にかられながら寮に戻る。
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二次の発表は明日らしい。採点早すぎないか?分身魔法が使えるやつでもいるのだろうか。レノンはどうせ大丈夫だろうなと思い眠くなった俺は部屋に入る。
「おかえり、メルくん」
笑顔でコーヒーらしき何かを飲んでくつろぐノーラヒ。ただいまとはあんまし言いたくない。しかしながらやはりといったところかノーラヒは余裕そうな顔だ。まあそうだろうなとは思っていた。
「やけにげんなりとしているね」
「お前のせいで寝れなかったのもあるんだけどな?」
うん、俺の筆記がボロボロだったのはコイツのせいにしよう。そしてさっさと寝よう。こいつを疑う気力ももう持ち合わせちゃいない。そっぽ向いて布団を被ろうとしたとき、ドアがノックされる。誰だ?ノーラヒは中にいるしなと思っているとすぐにそれはわかった。
「レノンなのですが、メルさん、夜ご飯はいかがです?」
飛び起きて上着を羽織りアホ毛を整える。神速ともいえようスピードで音を置き去りにしてドアを開ける。途中で人型の何かにぶつかった気がするがんなこと知らん。飯が俺を待っているのだ。マジでこの瞬間のレノンは癒しでしかない。
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「で、どうだったんです?筆記試験は」
「聞くな」
誰にも彼にも触れてほしくないことはある。今の俺の頭にはレノンの作ってくれた鶏肉のシチュー以外の情報なんか入れたくなかった。
「最後の問題だけ”変”でしたよね」
最後の問題といえばあの記述だろう。
「思想を聞いてたんじゃねえの?」
軍に必要な人材かどうかの見極めは重要なのだろう。そのうえで思想は重要だ。扱いやすいやつで、今の魔法主義の軍部に合っているやつを登用したほうがいいに決まってる。……あれ俺なんて答えたっけ????魔法以外のことにも目を向けろ?アッ、終わった。今俺の言ったことの真逆をいっている。流石に我が道を行きすぎた。どうでも良くなってたからって危険思想として抹殺される可能性すらある。もう今のうちに逃げようかななんて思っているとレノンは言う。
「私……結構心細かったんです……後がない状況で危うく死にかけて」
そりゃあそうである。一人の少女に実質家族、さらには領地の命運がかかってるんだ。そう思うと俺は気楽だな。
「でも……貴方がいてくれたおかげで生きていますし……少々気持ちが晴れました」
その後のありがとうございます、なんていう感謝の言葉は真に俺の心に伝わっていた。
「貴方も合格できればいいんですけどね」
なんて遠くを見るように言う。こうも言われたら逃げ出すわけにもいかず、俺は明日を待つこととなった。シチューうめえ……現実逃避してえ……
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昨日は部屋に帰ると先にノーラヒがベットで先に変な体勢で倒れていたか寝ていた。寝息を確認した俺は安心して寝た。そのおかげで頭は割とスッキリしている。先に部屋を出た俺は、今は受験生の集まる合格者発表所にいた。
「合格者にはそのままこの先に進んでもらい、最終試験を受けてもらう」
無慈悲なことに直ぐに発表は始まる。試験監のおっさんにより順番に名前が呼ばれていき、聞き覚えのない名前が上がるなかノーラヒも奥へと進んでいく。やっぱあいつは通るよな。ヘラヘラしながら門を進む中で目があったので百八十度回転して逸らす。なんか嫌だったのだ。俺と一緒に落ちてたらオモロかったんだけどと思っているともう一人の名前が上がる。
「レノン・ドグロフ!」
どうやら受かったららしい。良かったなと目線を送ると少々悲しそうな目線を送り返されて歩いていく。ここでお別れっぽいもんな。じゃあなサンドイッチにハンバーグ、シチュー美味かったぜと記憶を辿るとこれ以上あいつの飯が食えないことを心から悲しむ。すると発表を終えたらしいおっさんは急に気づいたかのようにもう一人の見知った名前を口走る。
「今年の筆記試験作成者による推薦、特別合格者、メル!」
「……は?」
読んでくださり有難うございました。感想など書いていただけると助かります。割とマジで。あと次回バトル中心です。




