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3 ファセリの推理を検討しなさい

 入れ替えのあったテーブル席への人の出入り


・4人全員で朝食を摂る

 全員塩と砂糖を使うが、異状はなかった

・タイメリアとセーディナは席を立つ

・ファセリとロズヴァリーはそのまま残って勉強

・ファセリが先に席を立つ


午前の休憩時間

・トゥロームとロズヴァリーが同時に席につき、お茶を飲みながら打ち合わせ

・トゥロームが砂糖を使う。異状なし

・トゥロームが先に席を立つ


昼食

・タイメリアが最初に席に着き、1人で10分ほど待つ

 【ファセリ、ここでタイメリアが入れ替えを行ったと推理】

・残り3人がやって来る

 セーディナが塩を飲んで騒ぎになる

「は? お前何言って」


「ファセリ君」


 ファセリ様の言葉を、素早くトゥローム殿下が遮る。


「言っておくが、俺は女性に対して下品な物言いをする奴が嫌いだ」


 真顔で声が低い。明らかに機嫌が悪くなっておられる。

 

「は、はい、申し訳ありません!」


 傍若無人傲慢不遜なファセリ様が、殿下の威圧に本気で恐怖している。心もち声が裏返っていた。


「ありがとうございます、トゥローム殿下」


 私の方を振り向く時に、殿下のお顔は即座に笑顔に戻った。


「いやいや気にしないでくれ、君のためじゃない。

 俺は単に面白いものが好きで、不快なものが嫌いなだけだからね」


 おっしゃって、私に向かって悪戯っぽくウインクなさる。私の後方の廊下で黄色い悲鳴が上がった。

 ガラス窓越しの流れ弾でも威力が高すぎる。


「それで話を戻すよ、タイメリア嬢。

 ファセリ君の推理、どこかおかしいところでも?

 あれだけきっぱり言い切るんだ。自分は犯人ではないという、感情論でない根拠があるんだよね?」

 

 殿下は楽しそうな微笑みを浮かべていらっしゃるが、澄んだ紫の瞳はどこか冷酷さがあった。

 試されている。

 私が『面白い』反応をするかどうか観察しておられるのだろう。つまらなければ、私は『会話する価値のないその他大勢』に格下げだ。

 ……この私に向かって『その他大勢』ですって?

 そんな認識は許さなくてよ。


 私は不敵に微笑み返して、くいっと顎を上げた。


「もちろんですわ、殿下」


 ファセリ様に向き直る。


「ファセリ様。あなたの推理によると、私が昼食前の1人で待っている時間に、塩と砂糖を入れ替えたとか。

 どうやって?」


 ファセリ様が目をぱちくりさせた。


「は? どうやって?

 だから、塩の瓶に砂糖を入れて、砂糖入れに塩を入れたんだろう?」


「その具体的な手順よ」


「え、具体的って?」


「なるほど、そういうことですか」


 聞いていたロズヴァリー様が、そこで声を上げた。

 そちらを見ると、彼は納得したようにうなずいている。


「お気づきのようね、ロズヴァリー様?」


「ええ。いいですかファセリ君。

 例えば砂糖入れに、いきなり塩を入れることはできません。その逆もです。

 あの時、砂糖入れも塩の小瓶も容器いっぱいに中身がありました。そんなことをすれば、テーブルの上に中身が溢れます。

 いえ、それ以前の問題です」


 ロズヴァリー様はいったん言葉を切った。

 シャープな美貌が真摯に引き締まる。ワインのような赤紫の瞳が、さらに理知の輝きを帯びてファセリ様を捉えた。

 容赦なく格好良かった。


「具体的な手順は、二通りあります。

 まず先に塩の瓶を空にして、そこに砂糖をいっぱいになるまで入れる。次に、出した塩を砂糖入れに入れる。

 あるいは逆に、先に砂糖を塩の瓶の中身と同じ量だけ出して、塩を砂糖入れの中に全て入れる。その後、出した砂糖を塩の瓶に入れる」


 ロズヴァリー様は、己の考えに熱中して話し続ける。

 ちなみに私は愛想を振り撒く美男子よりも、人目を気にせず何かに集中している美男子の方が美しいと思う派だ。

 どうでもいい主張だったわ。


「実際には前者だったでしょう。両方の容器は大きさが違うにも関わらず、どちらもいっぱいになるよう入れ替えられていました。先に砂糖を出すと、量の調節が難しい。塩の瓶を空ける方が先だったでしょう。

 そうです。入れ替えをするためには、どちらかの容器をいったん(から)にする必要があるんです。

 つまり──」


 後は私が引き取った。


「つまり、塩と砂糖を入れ替えるためには、3()()()()()()()()()


 余裕の笑みを、ファセリ様に見せてさしあげた。

 

「あの時私は手ぶらだったわね? それは皆さんも憶えているはずよ。

 そしてテーブルにも、調味料以外には何もなかった。

 つまり、私にはあの時入れ替えはできなかった」


 両手を見せて、ひらひらと振って見せた。

 貴族学校では制服着用が義務づけられているが、女生徒の制服はワンピース型で、ポケットは左胸とスカートにしかない。しかも小さくて、入れた物の形が浮き出る。実質ハンカチくらいしか入れられない。

 男子はジャケットがある分女子よりマシだけれど、やはり物を入れれば、見てそれと分かる。


 ファセリ様の瞳にも、驚愕と焦りの色が浮かんだ。


「完全に手ぶら……確かに……いや、ハンカチくらいは持っていただろう!」


「まあハンカチは持っていたけれど」


「じゃあ、それを使ったんだ!

 ハンカチを開いてその上に塩を全部出して、空になった瓶に砂糖を入れる」


「入れるって、どうやって?

 ハンカチの上に塩を全部出しました。砂糖を塩の瓶に入れます。何を使って?」


「砂糖入れについてるスプーンを使ったんだろう!」


「あのスプーンは、先端がスープスプーンみたいにまん丸よ。あれを使って小さな瓶に砂糖をこぼさずに入れるのは、かなり難しいわ。

 ひと匙ひと匙砂糖を瓶にそっと注いでいったの? 

 砂糖をテーブルにこぼしてしまったら、どうすればいいのかしら?」


「時間をかければいいだろう。どうせ1人で待っていたんだから!」


「私を待たせていた認識はあるのね。

 それで? いつ貴方たちが来るかなんて、私には分からないわ。20分後? それとも1分後?

 入れ替え作業はどれくらい時間がかかるか分からない。その最中に貴方たちがやってきたら、そこで一巻の終わりよ。リスクが高すぎない?」


「…………」


 答えられずに、ファセリ様は黙ってしまった。


「納得してもらえたかしら?

 入れ替えは、昼食よりも前のはずよ。それは間違いないわ」


 駄目押しで宣言する。

 ふふっ、とトゥローム殿下が笑い声を漏らした。


「これは勝負あり(チェックメイト)だな、ファセリ君」


「とは言え、朝食の時は塩も砂糖も入れ替えられていませんでした。それは私たち全員が確認しています。

 それまでの間に、誰かここに来たのかしら」


「それなんだが」


 私の疑問に、トゥローム殿下が口を挟んだ。


「生徒会メンバーを使って、厨房の職員や生徒に聞いて回って、この席に来た者がいたかどうか目撃証言を集めたんだ」


 セーディナ様が、瞳を輝かせてトゥローム殿下を見上げた。胸元の前で祈るように指を組んでいる。


「そこまでしていただけるなんて……。

 ありがとうございますトゥローム様! そんなにもわたしの心配をして下さったんですね!」


 殿下は返事をせずに、セーディナ様の方を向いてただ美しい微笑みを浮かべて見せた。

 頬を赤らめるセーディナ様。


 あっ、これ、彼女が心配だったんじゃなくて、犯人捜しが面白いだけ……。

 それを面と向かって言えないから、笑って誤魔化しているだけ……。


 さてトゥローム殿下は改めて私たちを見回すと、話を戻された。


「その結果、この席に来た人間と、その時間帯が分かってきた。

 ロズヴァリー君、頼む」


 ロズヴァリー様が語ったことは、さっきの話の繰り返しだった。目撃証言によって、客観的事実として裏付けが取れたということだ。


 まず今日の朝、ファセリ様、セーディナ様、ロズヴァリー様、私の4人がここで朝食を摂った。みんな砂糖や塩胡椒を使ったから、この時点で入れ替えがなかったことは間違いない。


 朝食後、男子2人はテスト勉強をするということでそのまま残り、先に私とセーディナ様が食堂を出た。女子は食後のお化粧直しとか、女子同士のお喋りとか、色々あるのだ。

 ……ちなみに絶世の美少女セーディナ様だが、意外にも(と言っては失礼だけれど)同性との交流にも余念はない。

 表面上はみんな仲良くキャッキャしつつ、水面下ではマウントの取り合いと、男子受けするための情報収集と情報操作合戦。

 あの能力とエネルギーを、勉強にも回せばいいのに……。

 

 話を戻しましょう。

 ロズヴァリー様は朝食の時、本やノートを数冊持って来ていた。それは私たちも見ている。

 食後に食器類を片付けた後にお茶を追加注文して、本を広げて2人で勉強をしたとのこと。

 先にファセリ様が席を立ち、数分後にロズヴァリー様が茶器の片付けをして出て行った。

 

「そういえば、図書室じゃないんだな」


 トゥローム殿下が不思議そうに尋ねる。


「まあ、テスト前期間ですから。図書室は混んでいます。

 課題に使う参考資料の確認のために、テーブルを使う必要がありまして……」


 ロズヴァリー様が曖昧な説明をされた。ファセリ様が決まり悪そうな表情で、そっぽを向く。

 なるほど。ファセリ様が、自分の課題をロズヴァリー様にやらせようとしたのでしょう。図書室では人目があるから、このテーブルで。身分的に、ロズヴァリー様は断りにくい。

 ファセリ様の成績はさほど良くない。だからロズヴァリー様のような成績優秀者が全部肩代わりすれば、違和感があるからすぐばれる。けれど、分からない程度に課題を手伝うことはあったかもしれない。

 ちなみに、私もファセリ様に課題を丸投げされたことがあるが、頑として拒んだ。

 おかげでさらに嫌われることになったけど、それは私の知ったことではない。ファセリ様の方が悪い。


「そして午前の休憩時間(リセス)に、殿下と僕がこの席を使いました」


「ああ、先ほどおっしゃっていたわね」


 私が代表して返事する流れになっている。


「テスト期間後に、希望者でチェスの大会をやるだろう? ここを会場にする予定なんだよ。

 たまたま食堂の近くで会ったから、対戦組み合わせや配置を考えるために、この席で打ち合わせをしたんだ」


「殿下の普段お使いの席でなく?」


「他の生徒もいたからね。出場者の具体的な対戦相手なんかを聞かれちゃまずい。

 だから隅にある、こちらの席を使った。

 いやあロズヴァリー君、テスト前の時期に無理に引き留めて悪かったね」


「いえ、まあ、いずれ打ち合わせの必要はありましたから……」


 殿下の言葉を、ロズヴァリー様が苦笑交じりに引き取る。

 殿下は学業も優秀だから、テスト前でもマイペースでいらっしゃる。

 ファセリ様といい殿下といい、強引な方たちに付き合わされて、ロズヴァリー様も大変ね……。

 そのロズヴァリー様が、説明を続ける。


「僕たちは同時にこの席に来て、お茶を飲みました。

 殿下だけ、砂糖をひと匙使われましたが、その時は塩に入れ替えられていませんでした」


 殿下がうなずく。


「ちなみに、飲んだのはどっちもサンダランドのファーストフラッシュ。

 で、打ち合わせが終わった後は、カップの片付けをロズヴァリー君に任せて俺は先に席を立った。それ以降は、この席に近づいた者はいない。

 次にこの席に来たのは夕食時のタイメリア嬢、その後に君たち3人。ここで砂糖と塩の入れ替えが判明した、というわけだ」


「「なるほど……」」


 実際に聞き込みを行った、ロズヴァリー様を含めた生徒会メンバーの皆様、お疲れ様でした。


「……それなら」


 口を開いたのは、セーディナ様だった。


「犯人は、ロズヴァリー様じゃないですか?」


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― 新着の感想 ―
お、可憐(勘違い)美少女参戦! ロズヴァリー、機会は確かにありそうだけど、動機はどうするんだー! そもそも、まだ第一コーナー回ったところやぞ…!(雑なメタ読み)
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