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20 似た者同士






調べるのはやめておくように――――


そう言われておとなしく手を引く人間はどれほどいるのだろう。

少なくとも私は素直に引き下がるタイプではなかった。

京極さんは立派な寮長で素晴らしい人物だとは思うが、それとこれは別問題なのだ。


しかも、まるで誰かがシナリオでも描いたかのように、今夜はちょうど新月である。

真夜中の探索にはもってこいの夜だ。


深夜と呼べる時刻、私は小型の懐中電灯をデニムパンツの後ろポケットに差し、全力で気配を消しながら部屋を抜け出た。

隣人達に気付かれぬよう、細心に次ぐ細心の注意を払いながら。



5月頃から流れた幽霊の噂、

5月の新聞に記されていたメッセージ、

この二つを関連付けるなという方が無理があるだろう。

となると、もう一つの噂が気になるところで。

そういうわけで、私はまず、音楽棟を探る事にしたのだった。


消灯後の深夜に寮の出入りが可能か否かは知らされていなかったが、真夜中のピアノを聞いた生徒がいるのだから、こっそり出るくらいは問題ないだろう。

だが万が一見つかった時に、飲み物を買いに行ったら目が冴えてしまって…という言い訳が成立するように、一階の自動販売機で購入した飲み物を携えておく。

そしてフラットAの玄関扉に差し掛かったその時


「――っ?」


またもや強烈な視線を感じた。


だが振り返っても、やはり誰もいない。

こんな真夜中なのだから、当たり前と言えば当たり前だ。

京極さんに背いてるという罪悪感が、私を敏感にさせているのだろうか。

いや、私はそんなに繊細ではない。

では、本当に誰かに見られていた?

今夜はキャンセルすべきだろうか。

躊躇いが胸をくすぐるけれど、それは数秒と続かなかった。



「…館林?何してんのさ」


深夜にふさわしい小声が聞こえると、リビングへ続く柱の陰から姿を見せたのは、円城寺君だった。

ルームウェアと思しき格好で、髪もいつもよりふわふわしている。

常夜灯の薄明かりでも彼の可憐な容姿は浮かび上がってくるようだった。


「円城寺君だったの…」


私も潜め声で返しながら、思わずホッとしていた。

彼なら、悪い展開は呼ばないだろう。


「外に出るつもりだったの?それより、デニムなんて履くんだ?」


真夜中の不審な行動よりも先に服装に注意が行くあたりが彼らしいと言えるだろう。

だが決して抜け目はない。


「しかもそれ、懐中電灯?何?真夜中に探検でもするの?」


じっと私の顔を覗き込むように訊かれては、誤魔化し様もなくて。

私は片手の飲み物を見せながら


「喉が渇いたんだけど、飲み物を買いに行くついでにちょっと好奇心が出てきてしまったの」

「好奇心?何の?」

「音楽棟のピアノ」

「―――っ!」


ふんふんと耳を傾けていた円城寺君が、途端にビクッと体を震わせた。


「……本気?」


感情に正直な彼はそれを繕いもせず、自分の髪先を摘まみながら訊く。

この仕草は不安感の表れだろう。


「本気よ?もしよかったら円城寺君も一緒にどう?」

「ば、ぼ、僕?」


慌てる様子がまた可愛らしい。

高校生男子にその評価は失礼かもしれないが、彼の場合はそれを自身が望んでるのだから問題はないだろう。


「音楽棟はフラットAからだと校舎を挟んだ向こう側にあるでしょう?ちょっと遠いから、円城寺君が一緒だと心強いのだけれど」


私とほぼ背丈が変わらない円城寺君に、今度は私がその顔を覗き込むように言ってみる。


「え……ま、まあ、館林がそう言うなら、ついて行ってあげない事もないけどさ」


何とも可愛らしい反応である。

あの時私の髪を真っ先に心配してくれた事も含めて、彼はツンツン顔の内側は非常に優しい少年なのだろう。


「ありがとう。円城寺君、優しいね」

「な、そ、そんな事言っても僕にお世辞は通用しないんだからね!」


そんな態度をとっても、それこそ私には通用しない。

私は彼への好感度がまた上がったことを確信していた。

だがあまり揶揄うような事もしたくないので、適度に話題を変えてみる。


「円城寺君もそうだけど、フラットAの人はみんな優しいよね。京極さんも栗栖君も」

「え、栗栖も?」


円城寺君の言い方は、異論に満ちていた。


「うん。私がちょっと元気なさそうに見えたら、すぐに声をかけてくれたの」


京極さんと秘密会談を終えた直後の事だ。

寮に戻った私に『寮長と何かあったのか?』と尋ねてきた。

京極さんと二人でいるところを見られていたらしい。

私は曖昧に誤魔化したが、彼は深く追及したりはせず『あの人は学院の事になると人が変わる時があるからなぁ。何か言われたとしても、気にすんなよ』と困ったように笑った。


『ま、館林が元気ならそれでいいんだけどな』


最後にそう言うと、『じゃあな』と私の背中をぽんと叩いて行ってしまった。

思うに、彼は、私と京極さんが穏やかでない空気を纏っていたのもしっかりと目撃していたのだろう。

だから私を心配してくれた。

円城寺君と栗栖君、二人はよくぶつかってるけれど、案外似た者同士なのかもしれない。


だが可愛らしい同級生はあからさまに不機嫌な声になった。


「ええー。あいつのは優しさじゃなくてやらしさ(・・・・)だよ。必ず損得を計算してるはずだから」


円城寺君は唇を尖らせたが、すぐに「それより、僕も懐中電灯持ってくるよ」と、リビングの暖炉の横にある棚からちゃんとした懐中電灯を取り出して戻ってきた。

私の物より数倍は役立ちそうだ。



「じゃ、行こっか。僕が案内してあげるよ」

「よろしくお願いします」


仕方ないなという態度はどこへやら、円城寺君は真夜中の探検にウキウキした足取りで、私をエスコートしてくれたのだった。









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