板挟はかなり大変
イヴの襲撃の翌日。
昨夜の戦闘で無理をした拓斗は身体中が痛むが、そんな身体に鞭を打ち寝袋から芋虫のように出てくる。
寝袋から抜けて立ち上がるとサリアの姿はどこにもなかった。
(サリアのやつどこ行ったんだ?)
とりあえず部屋にいないことを確認した拓斗は浴室を確認しに行く。
シャワーを浴びる水音が聞こえない為いないことは重々承知であったが、もしサリアが中にいて何かをしていたらマズイと思った拓斗は、ゆっくりと片目で覗けるぐらい扉を開いた。
拓斗が浴室を覗くとそこにはスカートを脱ぎ白く滑らかな脚が露わになったサリアが居た。
「・・・。」
サリアは今までにない程難しい表情をしている。その難しい表情をが見ているのは脚と腰の付け根である。
右脚と腰の付け根の間には赤い魔法陣が浮かんでいた。
浴室を覗く拓斗はその魔法陣に嫌な感覚を覚える。今までに感じたことがない嫌な感じ。それは生理的に嫌なのではなく、拓斗の全感覚と脳が訴えかけてきているのだ。
嫌な感覚に拓斗が囚われていると、サリアはスカートをはいて浴室から出ようと準備を始める。
当然覗いてたことをバレるとヤバイと感じた拓斗はすぐさま寝袋の上へと胡座をかいて座る。
ガチャっと音が鳴り浴室の扉を開けてサリアが出てくる。
「起きてたの?今日は早いのね。」
「お、おう。」
覗いてたという罪悪感のある拓斗は返事が曖昧になってしまう。気温は高くもないのに汗は吹き出て明らかに怪しいのが目に見えてわかる。
「どうしたの?昨日の戦闘で体調崩した?」
「いや、別に・・・。」
「そう、ならいいけど。さっさと朝ご飯食べに行くわよ。」
サリアは肩がけのカバンを持って部屋から出て行く。部屋からサリアが出て行ったのを確認した拓斗はため息をついてサリアの後を追うのだった。
朝食を済ませ昨日行った教室に向かうとそこにはイヴとエルとその使い魔たちしか居なかった。
最初に来て居た二人は特に話すこともなくお互い教科書を読んで居た。しかしイヴはサリアと拓斗が来たのを見ると顔を赤くして教科書で顔を隠してしまった。
リリアはそんなイヴを見てそっと微笑むとこちらに向かって来た。
「先日は本当にありがとうございました。サリアさんとタクトさんのおかげでイヴ様は救われました。感謝してもしきれません。」
「別に貴女の為にやったわけじゃないわよ。しかもほとんど拓斗のおかげだしね。」
照れた表情でリリアの横を抜けて席に座るサリアの姿は、明らかに照れ隠しだと誰が見ても分かった。
「イヴが救われたなら何よりだ。」
リリアに笑顔で答えてサリアの後を追おうとするがそこをイヴによって遮られる。
イヴはモジモジとしていて顔も赤く染めている。
「あ、あのタクト先輩・・・。」
勇気を振り絞って出したであろう声は少し震えていて、小柄なこともあり小動物を彷彿とさせた。
「お願いがあるんですけど・・・・聞いてもらっていいですか・・・?」
胸に手を当て上目遣いで聞いてくる。
女の子の上目遣いを断れる男などこの世にはいないだろう。当然拓斗に断れるはずもなくいつの間にか頷いていたのだ。
頷いた拓斗を確認したイヴはホッとして言う。
「私の・・・・私の使い魔になってください!!」
場の空気が凍る。リリアは泣きそうな表情になりサリアは怒りが目に見えてわかる。外野であるエルは笑いを必死に堪えている。
「ちょ、ちょっと待ってくれ!イヴにはもうリリアがいるだろ?リリアとの契約を切るのか?」
「いえ、リリアにはまだ契約していてもらいます。でも使い魔を二人使役しちゃいけないルールなんてありませんからタクト先輩を使い魔にしても大丈夫です。」
確かに言っていることは間違っていないと感じる拓斗。
イヴのお願いを叶えてしまったら、拓斗はサリアを裏切ることになってしまう。でもイヴを最後まで救うのが自分の責任であると感じる一面もあり板挟みの状態である。
そんな困惑している拓斗とイヴの間にサリアが無理矢理割り込んだ。
「ちょっと待ちなさいよ!タクトは私の使い魔よ、貴女に譲る気なんてない!」
サリアは何故か凄く怒っている。冷静にイヴに言えばいいのに、サリアの胸にあるモヤモヤとした感覚がサリアの怒りを増幅させているのである。
「タクトは私のなの!」
「それはタクト先輩が決めることです。サリア先輩は下がってください。」
サリアとイヴの間に火花が散る。二人の使い魔である拓斗とリリアは困りきっていた。
「タクトはどうなのよ!?」
「タクト先輩はどうなんですか?」
二人が拓斗に詰め寄る。拓斗はまぁまぁと二人を落ち着かせるが、二人の気迫は収まりそうにない。
「ええっと、そりゃサリアを選ぶよ。契約を切るつもりなんてないしね。」
拓斗の返事を聞いてサリアは勝ち誇った表情で胸を張る。対するイヴはしゅんとしてしまう。
「これで分かった?タクトは私といる方がいいの。」
サリアはドヤ顔でイヴを見下す姿とサリアを悔しそうに見上げるイヴの姿はとても微笑ましかった。
「タクト先輩!私はいつでも来てもらって大丈夫ですから!」
行くよリリアと言って教室から出て行くイヴ。後ろ姿をずっと勝ち誇った表情でサリアは見ているのであった。
イヴとリリアが出て行ったのを確認するとエルがこちらにやって来た。
先程まで笑いを堪えていたイケメンは笑顔で話しかけてくる。
「いいものを見せてもらったよ。これからも頑張ってくれよタクト。」
エルが去って行くとセレシアが一礼しエルの後を追って行った。
サリアと拓斗は教室に取り残され、今日も教師は来ていないので二人は帰ることにするのであった。
二人は寮への道を歩いている。
「ねぇタクト。」
「何?」
「本当にイヴの方に寝返らない?」
先程までの教室でのやり取りに不安が残っているのかサリアはそんなことを聞いてくる。
「ああ、裏切るつもりなんてない。」
「本当に?」
不安そうにこちらを見るサリア。
「おう、サリアと最優秀生徒を目指す。」
他愛のない返事であるのにサリアは機嫌を良さそうにする。
サリアが機嫌を良くしていると二人の前に第2位アリエッタ・メニムが現れた。
アリエッタは無表情でこちらを見据えている。
「何の用?」
「・・・。」
サリアはアリエッタに対して聞くがアリエッタはただ二人を見据えている。
返事のないアリエッタの横を通過しようとするサリアと拓斗。
「これ以上で出しゃばるなよ。」
すれ違う瞬間にアリエッタは冷たく言い放つのであった。
「どういう意味よ?」
サリアはアリエッタの方に振り返り聞き返すがアリエッタは何も答えず去って行くのであった。
その言葉に違和感を覚える拓斗は、深く考えずにサリアを連れて寮へと帰るのであった。
結局その日は何事もなく過ぎて夜になった。
拓斗は既に就寝していて部屋は静かであった。サリアはなかなか寝付けないでいた。
(結局あいつは何が言いたかったのかしら?)
今日のアリエッタの言ったことを思い出し考えるサリア。
アリエッタの考えていることが理解できないサリアは別のことを考えようとイヴのことを思い出す。
(タクトは絶対にあげない・・・!!)
固い決意をするが、イヴと話してデレデレとする拓斗を思い出すとイヴと話していた時と同じモヤモヤとした気持ちになる。
(何よこの感じ・・・。)
どこか不快で気に食わないこの感覚を胸に抱き布団に顔を埋める。
この感じは全部拓斗が悪いと決めつけると、サリアはゆっくりと寝付けるのであった。




