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怒りと悲しみ

教室からサリアと拓斗が出てから数時間が経った。サリアと拓斗は校舎の外にあるベンチに座っていた。

サリアは教科書のような物を読み耽っている。その横で暇すぎる拓斗は空に浮かぶ雲を見て何の形か考えるという何とも寂しい一人遊びをしていた。

(あれはクジラ、あれは馬、あれはフライパン、ああ・・・そろそろ帰りてぇ・・・。)

そろそろ雲の形を考えることに拓斗が飽きを感じ始めていると、拓斗たちの元へエルがやって来る。

「やあサリアに拓斗。また会ったね。」

綺麗な日差しに爽やかな笑顔は良く似合う。しかし勉強の邪魔をされて不機嫌なのかサリアは機嫌の悪そうな声でエルを邪険に扱う。

「何の用?勉強の邪魔をしないでくれる。」

「これは失礼をしたね。あまりにも美しかったので声をかけずにはいられなかったんだ。許してくれ。」

謝る仕草も紳士そのもの。男の品質レベルを最大限まで上げたらこんな風になろうんだろうとくだらない考えをしながら二人を見る拓斗。

「それで私たちに何の用?」

これ以上不機嫌するとマズイと判断したエルは要件を告げることにした。

エルの表情には先ほどまでの爽やかな笑顔なく、真剣そのものであった。

「サリア、君は最近のイヴを見たことがあるかい?」

真剣な声色で話すエルを見てサリアも教科書置いて真面目に聞く。

「いいえ。そもそも私はあの娘とは特に関わりはないわ。」

「そうか・・・。くれぐれもイヴとリリアには気をつけるんだ。最近君のことを嗅ぎ回っているらしい。」

順位が一個下の私を警戒するのは当然だとサリアは言うがエルはさらに表情を険しくする。

「それだけならいいんだけど・・・。嗅ぎ回っているのは君の身内のことも何だ。」

「・・・。」

サリアはエルと同じく険しい表情になる。

何故そこまで表情を険しくしているのかわからない拓斗は思い切って二人に聞くことにした。

「サリアの家族について知られるのってそんなにマズイことなのか?」

「特にマズイ訳じゃないんだが、勘違いをされると面倒なんだ。」

「勘違い?」

エルが出した勘違いというキーワードに反応する拓斗。

「ああ、四魔獣の事件は知っているだろう。あの魔獣は全部オスタから出現したんだ。そして封印されたのもオスタなんだ。そしてここからが問題なんだ。魔獣が誕生したのも封印されたのもサリアの家の近くなんだ。」

なるほど。察しのついた拓斗はエルにそう返答する。しかし拓斗はにはまだ大きな疑問が残っていた。

「でも魔獣が出現した場所には他にも家があったんだろ?サリアだけが怪しいなんておかしくないか?」

「普通はそう考えるだろう。でもサリアを除いたルシュレ家の兄妹は行方不明なんだ。」

疑問はどんどん解けていくがまだ最大の謎が残っている。

「そこが今回の問題なんだ。イヴはサリアが本当は四兄弟なんじゃないかって疑っているんだ。」

サリアとしては不本意すぎる疑われように拓斗は、イヴと一度話した方がいいと提案するがエルはそれを否定する。

「それはダメだ。イヴは四魔獣の事件で両親を亡くしている。その恨みの矛先は今サリアにあるんだ。二人を会わせるのは危険すぎる。」

エルの顔は暗くなる。

彼にとって倒すべきライバルとなり得るサリアの心配をするエルは人が良すぎる。

二人が暗い顔で俯いているとエルの後ろに仕えていたセレシアが拓斗の肩をチョンチョンと突く。

耳を貸せとジェスチャーをしてきたのでセレシアに耳を貸す。

「・・・・・・一か八かだけどそれが一番良いかもな。」

セレシアから何かを聞いた拓斗は、今聞いた内容をサリアにも教えるのであった。


数時間が経過して辺りはすでに真っ暗であった。

街灯なんてものは無く、月の光が辛うじて照らしている程度であった。

そんな月明かりの中二人の男女が歩いている。

「ちょっともう少し離れて歩きなさいよ。」

ブルブルとサリアの体は震えている。どうやら暗闇は苦手みたいである。

「そっちから近ずいてきてるんだろ・・・。」

先程から何度も距離をとっては近づかれる拓斗は呆れ気味でサリアに言う。

そろそろ二人で歩き始めて三十分になる。そして三十分間サリアはもう帰りたいと弱音を吐き続けていて、さらにサリアにくっつかれながらである為なかなか前に進めていないのである。そんなサリアを見て拓斗は溜息をつくのであった。

結局サリアを引っ張って校舎裏に行くと暗闇から足音が近づいて来る音が聞こえた。

「ようやくお出ましか?」

「・・・。」

暗闇から現れたのはイヴとその使い魔であるリリア。銀色と麻色の髪が月明かりでキラキラと輝いている。

美しいと拓斗は思ってしまったがイヴから放たれた殺気で現実に戻る。

リリアは手を広げるとそこに光り輝く粒子が集まり弓が生成される。

「引いてくださいタクトさん。貴方は傷つけたくはありません。」

リリアは弓を拓斗に向けて警告をする。

「そこを退くなら見逃してあげる。」

幼さの残った声はイヴのものであった。イヴの声には怒りが込められていた。

しかしサリアの使い魔である拓斗はこの場から逃げるわけにもいかない。

「残念ながら引くわけにもいかないんでね。」

やる気を入れて拓斗も戦闘態勢へとなる。

リリアは拓斗は返答を聞くと一秒もかからないうちに何十もの矢を放つ。大量の矢が拓斗とサリアを襲うがその矢が拓斗たちに届くことはなかった。

「イズバグ。自分に害を為す攻撃が来たら発動する氷壁だ。事前に使っておいてよかったー。」

氷壁に矢が刺さり終えると氷壁は音を立てて崩れる。

「フラムリア。」

横から回り込んでいたイヴが火球を飛ばす。

(いつのまに!?)

矢を防ぎきり気を抜いていた拓斗の目の前まで火球が迫る。

「デルフッ!」

拓斗の前に防護魔法が展開される。サリアが咄嗟に張ったのである。

しかしその防護魔法はビキビキと嫌な音を立てて徐々に亀裂がはいっていく。割れる前に拓斗は移動するが移動した先にはリリアが既に矢を放っていた。

「うおッ!」

咄嗟の判断で身を屈めた拓斗は矢を避けることに成功するが背中を僅かに掠める。しかし気にしている暇のない。

「シェイディアッ!」

地面から氷の鎖が二本現れるイヴとリリアに一本ずつ放たれる。

リリアは鎖を矢を放って砕き、イヴは鎖を避けようとする。

「フラム!」

イヴが避けた先にはサリア火球を放っていた。避けようがないとイヴは目を瞑るが火球はイヴに届かなかった。

ツタの壁が火球を防いだのである。

「このツタはフラム程度では燃えませんよ!」

サリアに矢が放たれる。

「イズバグッ!」

氷壁がサリアに放たれた矢を防ぎ切る。しかしリリアは矢を放ち続ける。

(このままじゃジリ貧だ。殺傷能力の低い魔法ないのか!?)

グリモワールのページを何度も何度もめくる。そして氷壁が今にも崩れそうになった時拓斗のページをめくる手が止まる。

「ピエラレッ!!サリア!屈めッ!!」

四メートル程の氷の柱が現れるとその柱は横薙ぎに払われ屈んでいるサリアを通り過ぎリリアとイヴに直撃する。

二人は地面に叩きつけられて声を漏らす。

「シェイディア。」

倒れた二人に氷の鎖を放ち縛り上げる。リリアは抵抗をしないが、イヴはサリアを睨みつながらけ歯を食いしばり暴れている。

「くぅッ!私はお前を許さない!」

今イヴを解放したらすぐさまサリアを殺すであろう勢いである。

「お父さんとお母さんを殺したお前らを許さないッ!」

勘違いを続けたままであるイヴは怒りに飲まれている。

拓斗は冷静さを失ったイヴの横へと屈み宥めるように言う。

「お前は勘違いをしてるぞ。サリアは四魔獣の事件には関係ない。」

「違う!あいつは私の親を・・・。」

「サリアは三兄妹だ。」

「あいつは嘘を・・・。」

声はだんだん小さくなり、落ち着きを取り戻し始めた。

そんなイヴの頬を涙が伝って行く。

「分かってる・・・。サリア先輩がやっていないことなんて分かってる。」

嗚咽の混じった声はイヴの本心を写していた。

「私の怒りはどこにぶつければいいの?お父さんもお母さんも一瞬で殺されたの・・・。でも復讐をする相手なんてわからない!でも誰かに怒りと悲しみをぶつけなきゃ私は救われないのッ!!」

イヴの心の叫びであった。誰も理解してくれなかった怒りと悲しみを吐き出しているのだ。

拓斗はイヴとリリアの拘束を解き、イヴを抱きしめる。

「怒りはもう今日十分ぶつけただろ。悲しみは俺が一緒に背負ってやる。」

イヴはギュッと拓斗の服を握りしめ、喉から声を絞り出す。

「ありがとう・・・ありがとう・・・・・。」

今にも消えそうなイヴの声には溢れるほどの礼の気持ちが込められていた。

こうして今回の事件は少女の怒りと悲しみとともに終わりを迎えるのであった。

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