種族
拓斗がこの世界にやってきて一日が経過した。
拓斗が寝袋ですやすやと気持ちよさそうに寝ていると腹に強烈な痛みが走った。
「ごふッ!!」
腹の上へと落ちてきた足は、見事に拓斗の溝を突いていた。
痛みに目が覚めると目の前には制服姿のサリアが怒り心頭といった表情で立っていた。
そんな怒り心頭な相手には冷静な言葉が一番。
「おはようサリアいい朝だな。」
再び踏まれたことは言うまでもないだろう。
ようやく痛みが引いて立ち上がった拓斗はサリアに起こっている原因を聞く。
「なんで朝からそんな不機嫌なんだ?」
カルシウム足りてねぇのか?とは口が裂けても言えなかった。
「貴方自分が今朝やったこと覚えてないの?」
ゴゴゴと後ろから効果音聞こえてきそうな程怒っている。
そんな目に見えてわかるほど怒っている理由がわからないどころか身に覚えすらない拓斗は反省している色を全く見せていなかった。
「貴方が気持ちよさそうに寝ていているからゆっくり起こしてあげようと思って近寄って起こそうとした。でも貴方は起きなかった。その後何度も起こそうとして全部起きなかった。それだけならまだいい!!でも最後に起こしに行ったとき貴方は私になんて言ったか覚えてる!?」
サリアの勢いは驚くほどで、拓斗は落ち着けと手を出しサリアをなだめる。しかしサリアの勢いは止まることはなかった。
「貴方は私の、私の・・・。」
プルプルと怒りに身を震わせ始める。
「私の足を掴みながら、今年もいい大根が取れた!って言ったのよ!!!」
遂にサリアの怒りが頂点に達した。
(え!?寝てる俺めっちゃいい経験してね!?超ラノベ主人公感でてんじゃん!)
女性に寝ぼけて足を触ったにも関わらず大根などと言った最低男は更に自分の評価を下げる考えをする。その考えは最早救いようはないだろう。
そんな下種な考えをする自称ラノベ主人公はなんとかサリアの怒りを収めるために謝罪の行動をとる。それは綺麗な45度であった。
「寝ぼけていたとはいえ本当に悪かった!心から謝りたいと思っている。」
そんな拓斗の謝罪を受けてサリアは一時停止すると、ムスッとした表情になる。
「今度からはしっかり一回で起きる。それができるなら今回の件は許してあげるわ。」
相変わらず不機嫌な表情であるがそれで許してくれるならそれに越したことはない。
拓斗は顔をあげてもう一度申し訳なさそうに謝罪した。
「本当にすまない。」
「もういいわよ、準備してさっさとカフェテリアに行くわよ。」
ドアの方へ向かっていくサリアを寝袋の横に落ちているグリモワールを拾ってから追いかけるのであった。
サリアと拓斗がカフェテリアに着くとかなりの賑わいであった。
友達同士で朝食を食べる者もいれば、眠そうに目を擦りながら食べる者。
拓斗は周りを見よう見まねで食べ物をトレーに乗せて先に席に座っているサリアの横へと座る。
「そんなもんで足りんのか?」
サリアのトレーを見るとそこには小さな手の平サイズほどのパンが一つとサラダが置いてあった。
「私はこれで足りるのよ。そういう貴方も結構少な目なのね。意外だわ。」
サリアはちらっと拓斗のトレーを見てから言う。
拓斗のトレーにはサリアと同じパンが二つとベーコンが二枚であった。
「朝はあんまり食べれないほうでね。」
それ以降この場で二人が話すことはなかった。
食事を済ませて授業を受けるのかと思いサリアの後をついて歩いていたが、サリアはどこの教室にも入ることはなかった。
(どこ向かってんだ?もしかしてサリアって不良?)
教室に生徒が入るなかひたすら廊下を歩いているサリアを見て思う拓斗。
するとサリアは学園長室と書いてある扉の前で止まった。
ノックをして中に入る。
そこには高級そうな椅子にすわり頬杖をつく男がいた。学園長である。学園長は屈強で、魔法使いというよりは舞踏家に近い体格をしていた。
厳つい顔が学園長室に入ってきた二人の方を向く。
「サリア・ルシュレだな?」
「はい。そうです。」
先に口を開いたのは学園長の方であった。その声は顔からわかる通り低い声であった。
「お前が使い魔を召還して成功したことは聞いた。ついでに人間を召還したこともな。」
「はい。」
「そしてお前は決闘で9位であるバルターを破ったとも聞いた。間違いはないな?」
「はい。」
拓斗はサリアと学園長のやり取りを静かに見る。
「なら話は早い。今後サリア・ルシュレが9位となる。バルター・ガッカスは10位に転落だ。」
学園長は机の上に置いてあった小さな箱を開ける。そこにはローマ数字で9と書かれたブレスレットが入っていた。
その箱を開けた状態でサリアの前まで持ってくる。サリアは箱の中にあるブレスレットを取出し右手首に着ける。銀色のブレスレットはサリアによく似合っていた。
「それでは授業に戻りたまえ。要件はこれで終わりだ。」
席に戻ってく学園長。サリアは一度礼をすると学園長室から出ていくのであった。当然後ろから拓斗もついて。
学園長室を出ると緊張の解けたサリアはハァと息を吐き出す。余程緊張していたのだろう。
「そんなに緊張したのか?」
「当り前よ。学園長は国が認める国直属の魔法使いなのよ。」
あまりピンとこない拓斗であったが適当に返事はしておくのであった。
「そんなことより私は学園長が貴方について特に何も話さなかったことが一番驚きだわ。」
「俺も何か言われるとは思っていたけどまさか何も言われないとな。」
「国直属の魔法使いでも人間は珍しいものだとは思うけど。」
サリアの人間が珍しいという言葉に拓斗は反応する。人間の以外は何がいるのか気になったのである。
「なぁサリア。なんで人間ってそんなに珍しいんだ?」
「そういえば話してなかったわね。そもそもこの世界で最も優れた種族である神族、魔族、人間はもうこの世にいない存在なの。絶滅した種族なのよ。」
「絶滅したのに強いのか?」
当然のような疑問をサリアに投げかける。
「何千年も前に絶滅したらしいのよ。でもその三種族は絶滅する前はとても優秀だったそうよ。まぁ今でも優秀なんだけどね。」
学園長室の前から移動し廊下を歩きながら話し始める。
「タクトが戦った竜人族っているじゃない?あの種族って数は少ないけどまだ絶滅してないのよ。絶滅してないから会って直接契約できる。でも絶滅した三種族はどこか異世界にでもいる生き残りを召還しなければならないのよ。でも異世界から召還するのは簡単なことではないわ。それこそ国の魔法使いでも失敗して普通なぐらい。だからタクトみたいな人間はかなり珍しいのよ。」
(なるほど。だから俺は珍しいのか。)
納得した拓斗はふむふむと頷く。
説明が終わりはしたがなかなか目的地に着きそうにもないことからサリアは別の話を始めた。
「そういえば使い魔であるタクトにいいことを教えてあげるわ。」
得意げな顔で言うサリア。
「私が知る限りの使い魔になりえる種族の話よ。」
興味のそそられる話であるので拓斗は真剣に聞くことにした。
「さっきも話した通りこの世で最も強い種族は神族と魔族と人間よ。そしてここで大きな差が開いて次に強いと言われているのが竜人族と吸血鬼と精霊族よ。そしてその僅かに下が小人族と幻獣族と妖精族。さらに差が開いてその下に位置するのが獣人族と私たち亜人よ。亜人は下に位置しているけれど学園長ぐらいになると竜人族ぐらいとならいい勝負ができるはずよ。まぁ私が知っている種族はこんなものよ。」
学園長の強さに驚く拓斗。
拓斗が一人で驚いているとサリアは先ほどまで見てきた教室とは少し作りの違う扉の前で止まる。
「それぞれ特徴があるのだけれどその話は長くなるわ。目的地には着いたし気が向いたらまた今度話すわ。」
扉を開くサリア。そこで二人を待っていたのは5人の亜人とその使い魔たちであった。




