約束の果て
浮いたような感覚の中漂っている。それが死ぬ寸前であったか、死んだ直後であったかどうかは定かではない。
聞こえる少女の声、目を閉じていても分かるほどはしゃいでいる。
アリエッタ・メニムもといエイナ・ルシュレはゆっくりと目を開けた。
「お姉ちゃん!早く早く!」
前方を走る少女は、くるりと一回転してエイナの方を向く。
「今行くよサリア。」
止めていた足を動かし走るサリアの後を追う。
これは昔の記憶だろうか、それとも夢だろうか、何にせよエイナはこの瞬間を楽しもうと思った。
「こっちこっち、もうすぐ着くよ!お姉ちゃんも見たらビックリするよ!」
森の中、僅かにできた道を辿っていくうちに広い場所に出た。
そこには紫色の花で埋め尽くされた大きな花畑があった。
「凄いでしょー!!これがお姉ちゃんに見せたかったの!!」
花畑の中を駆け回りはしゃいでいる。
踊るように回っているサリアのいる花畑に一歩一歩入って行く。
僅かに香る甘い匂い、風で舞い散る紫色の花びら、視界に広がる美しい世界に魅了される。
「お姉ちゃんお姉ちゃん。」
花畑に見とれているとサリアが裾を引っ張ってきた。
「お花の冠作ってあげる!」
花の冠をせっせと作り始めたサリアを見ていると、心が穏やかになるようだった。
真剣な表情で花を摘んでいるサリアは花の冠を完成させると無邪気な笑顔でこちらに差し出した。
「はい上げる。」
「ありがとうサリア。とっても綺麗だよ。」
お礼を言って頭に冠を乗せるとサリアが嬉しそうな表情を浮かべた。
優しい風が二人の間を吹き抜けて行く。
「そろそろ帰ろうか。」
「うん!今日のお昼ご飯何だろね。」
二人は手を繋ぎ家へと歩き出す。
家に着き扉を開けるといい香りが鼻孔をくすぐった。
「わー!いいにおーい!」
サリアは家に着くとキッチンの方へと駆けて行った。
エイナはそれを微笑ましそうに見届けるとリビングの椅子に腰かける。
温かい陽の光にウトウトしているとサリアがキッチンから現れた。
「お姉ちゃん、お母さんがご飯まで時間あるから待っててだって。あれ?眠いの?」
ウトウトしているところをサリアに見られたエイナは起きようとするが、それをサリアに止められる。
「寝てていいよお姉ちゃん。疲れてるでしょ。」
優しく背中を撫でられるエイナは再び睡魔に襲われる。
「じゃあ・・・・ちょっと・・・・・寝よう・・・かな。」
ゆっくりと眠りに落ちていく。
いま瞼を閉じれば長くて安らかな眠りにつくことなど分かっていた。でもそのことにエイナは少しも未練を感じなかった。
「おやすみお姉ちゃん。またいつかお花畑に行こうね。」
眠りに落ちそうな少女にそう声を掛ける。
「ああ・・・きっとな・・・・。」
妹の為に全てを掛けた少女の戦いと人生は終わりを告げたのだ。そしてそれと同時に少女たちの約束は、ハッキリとしない微睡のような世界であったが果たされた。
彼女に未練なんてきっとなかった。
それは眠りに落ちる前の穏やかで幸せそうな表情が物語っているのだから。




