アリエッタ・メニム
核の一部を砕かれ痛みと怒りで暴れ出すアンタレス。
「封印って言ったってどうすんだよ?簡単にはできないんだろ?」
「ああ。以前の四魔獣はとある二人によって封印されたんだ。」
「二人・・・?」
アンタレスが暴れ地響きがする中、苦い表情をするアリエッタ。
そんなアリエッタの姿に疑問を持ちながらも拓斗は質問をした。
「その二人は今この近くにいるのか?」
最後の望みを込め聞く。
「・・・もう死んでいる。四魔獣を封印したときに力を使い切って死んだんだ。」
最後の希望は尽き、絶望の色に染まった拓斗を見てアリエッタは口を開いた。
「だが、まだ希望はあるぞタクト。四魔獣を封印した者の血族ならいる。」
「本当か!?そいつはどこにいるんだ?」
「お前の目の前にだ。」
拓斗の中の時が一瞬にして止まる。意外だったということよりも大切な、重要なことに気づいてしまったからだ。
「ほ、本当なのか?でもそれは・・・それは・・・・ッ!!」
「私が犠牲になるということだ。」
アリエッタを、今まで共に戦ってきた仲間を犠牲にしなければならないという事実に拓斗は感情がぐちゃぐちゃになる。
「そんなことやらせないッ!!」
涙が出そうになる。
それしか方法はないのに、そうと分かっているのに否定しないと心が張りさせそうだった。
「そんな顔をするな、私はもとより覚悟をしていたんだ。」
「でも、アリエッタはそれで納得するのか?」
「ああ。四魔獣を封印して世界を救う、親と同じ指名を辿るんだ。後悔はないさ。」
「え・・・?」
アリエッタから次々と溢れ出す新事実に拓斗は頭の整理が追い付かない。
どこか涼しい顔をして拓斗と向かい合うアリエッタは優しい笑みを浮かべていた。
「私の両親は封印の一族の末裔なんだ。そして私の両親が四魔獣を封印したのが、幼き封印の器であった私たち四兄弟、いや四姉妹という訳だ。」
右手の甲を拓斗の前に見せ、赤い魔法陣が浮かび上がる。
「私に封印された四魔獣はレグルス。サリアとは違い私は封印されたレグルスから無理矢理魔力を奪い取ることができる。」
「それが今までの力の源ってことか?」
「そういうことだ。」
今まで見せたアリエッタの力の数々を思い出す。純粋にアリエッタが強かったこともあるが、四魔獣の魔力を使っていた為、使い魔を使役していなくても二位という座についていたのだろう。
「じゃあアンタレスを封印してたサリアはもしかして・・・・アリエッタの妹?」
「まぁそうだ。あいつはその時の記憶と私と過ごした記憶は消しているがな。」
「記憶を?どうして?」
「小さかったサリアにあの記憶は酷だからな。」
「じゃあアリエッタとの記憶は?消す必要はなかっただろ?」
その質問にアリエッタは暗い表情を見せる。
「仕方がなかったんだ。記憶操作系の魔法を上手く扱えるものは国によって管理されていて、国に通しても承諾されなかった私は裏ルートで知り合った半人前の記憶操作を得意とする魔法使いに頼んだらこのざまだ。」
昔のことを思い出し拳を握りしめる。
「聞きたいことはそれだけか?もうないのなら私は行くぞ。」
「待て!!」
寝ているサリアを抱きあげ拓斗の横を過ぎ去ろうとした時、拓斗はアリエッタを呼び止めた。
「・・・なんだ。」
「お前は・・・アリエッタはそれで満足なのか?」
「どういう意味だ?」
「四魔獣に人生を狂わされ、大事な思い出も消えて、それで終いには封印するために死ななきゃいけないなんて・・・。そんな人生でいいのかよ!」
過ぎ去ろうとしたアリエッタは拓斗と向き合う。
「良いも何も私は大切なものの為に生きられた。それだけで満足だ。」
今まで見たことの無い程のアリエッタの笑顔。そこに偽りも曇りも何一つない純粋な笑顔だった。
サリアを抱えてアンタレスのもとに歩み寄る。
「最後に聞かせてくれ。」
絞り出すように声を出す。
「なんだ?」
返事はするが歩みを止めないアリエッタ。
「名前、アリエッタ・メニムじゃないんだろ?本当の名前を教えてくれ。」
大した質問でもないその言葉だったけれどもアリエッタには思うところがあったのか再び立ち止まる。
少し間を開けるとアリエッタは地響きがなる中透き通った声で言った。
「エイナ、エイナ・ルシュレだ。」
名前を聞いただけでモヤモヤとした気持ちが晴れた拓斗は、心を決めエイナを見守ることにした。
エイナは一歩一歩アンタレスのもとに歩み寄り、自分たちに被害の加わらない位置でサリアを横たわらせる。
「サリア、最後にお前とゆっくり話したかった。」
サリアとエイナを中心に魔法陣が浮かび上がる。
禍々しいものでもなく攻撃的なものでもなく、優しい魔力が溢れ出す。
「鎖よ、破滅を呼ぶものに束縛を与えよ。汝の鎖は我が命を使い走る封印の戒め!」
魔法陣の枠から数本の青い鎖が現れ螺旋を描く。
「戒めの鎖!!」
螺旋を描いていた青い鎖は真っ直ぐにアンタレスへと放たれる。鎖はアンタレスの目の前まで行くと分裂し、至る所へと絡みつく。
「これで、終わりだァァァァッッ!!!」
魔法陣の中心に手を叩きつけると、鎖は一斉に引っ張られ始める。
アンタレスは抵抗を試みるが鎖が解けるどころか徐々に引っ張られている。
そしてアンタレスが魔法陣まで近づくと、アンタレスの姿は赤い光の玉となりサリアの足の付け根にあった魔法陣に収められた。
「これで・・・全部・・・・。」
エイナは膝から崩れ落ちる。
魔力を使い切り命を削ってまで封印を試みため、エイナは呼吸するので精一杯であった。
「エイナ!サリア!」
二人のもとへと拓斗は駆け出す。
エイナのもとへに両膝をつき、涙を流す。
「泣くなタクト、これで良かったんだ。アンタレスは封印できてサリアも救出できた、きっと皆も無事だから最高の結果じゃないか。」
「その結果にエイナがいないだろ!!」
親しいものの死を始めて体感している拓斗の目からは涙が止まらないのだ。
そして拓斗の叫びに目を覚ましたのかサリアがゆっくりと身体を起こす。
「うーん・・・どうなったの・・・・?」
目を掻き周りを見渡すサリア。
「サリア!」
サリアが目を覚まし嬉しいはずなのに涙は相変わらず止まらない。
「どうしたのよタク・・・・。」
起き上がったサリアは拓斗に声を掛けようとするが、突然の頭痛に頭を抑える。
「何よ・・・何よこの映像。」
駆け寄りたい気持ちはあるがエイナのもとを離れられない拓斗は、サリアを見守る。
「嘘、そんなアリエッタが、何で、エイナ、お姉ちゃん、どうして、私たち・・・・姉妹なんて。」
頭痛が止まると全てを思い出したサリアは拓斗のもとで横たわるエイナに気づく。
「お姉ちゃん!!」
サリアはエイナと拓斗のもとへと駆け寄りそっと座った。
「お姉ちゃんごめんなさい。今まで・・・今まで気づかなくて。」
サリアは涙を流す。
そんなサリアにエイナは柔らかな笑みを浮かべる。
「二人揃って泣き虫だな。息ぴったりだ。」
呼吸が浅くなっているエイナは絞り出すように言った。
「お姉ちゃん約束覚えてる・・・?」
「ああ、覚えてるとも。むしろサリアが覚えてることに驚きだ。」
「お花畑連れて行ってあげる約束守れなかった。」
「サリアが小さい頃、一人で散歩をしていたら見つけたんだよな。」
昔を思い出すエイナ。
「その約束を思い出してくれただけでも私は幸せだ。」
サリアに向けられた優しくて柔らかな笑みは、拓斗へと向けられた。
「タクト、お前と過ごした一時、苦難や戦闘は沢山あったけど・・・楽しかったぞ。」
「ああ、俺もエイナに出会えてよかった・・・。」
涙は溢れ出すが、エイナに向かって笑顔を浮かべる。
そんな拓斗を見てエイナは小さく笑うと再び泣きじゃくるサリアを見る。
「いつまで泣いているんだサリア。姉の最期ぐらい笑って送ってくれ。」
それを聞くとサリアは嗚咽を無理矢理止める。
笑顔を浮かべてしまえばエイナが逝ってしまうと思いはしたが、涙で濡れた顔でぎこちない笑みを浮かべるのであった。
「ああ、二人共いい笑顔だ。さようなら愛しき妹、戦友。」
ゆっくりと瞼が落ちていった。
ここに今、一人の英雄の物語が幕を閉じたのであった。




