最後の賭け
シュトルとデルベが戦っている間、二人はアンタレスの近くまで出来るだけ接近していた。
「それで?アリエッタにあいつを怯ませる程の攻撃が出来るとは思えないけど?」
「それはお前が私の本気を知らないからだ。そもそも私があいつを怯ませる手段を持ってなければ、この作戦を提案したりなんてしないさ。」
右手で拳を作り深く腰を下ろす。
「今から私はありったけの魔力を拳に込める。邪魔はしてくれるなよ?」
「こんな状況で邪魔できる奴なんてなかなかな神経だぜ。」
右手の拳に左手を添えて魔力を込めだすアリエッタ。
そんなアリエッタを拓斗が眺めていると大切なことを思い出す。今の今まで何故忘れていたのかわからない程重要なことを思い出したのだ。
「なぁアリエッタ・・・・・サリアは、サリアはどうなったんだ?」
最悪の事を思うと声が掠れるが、絞り出すように拓斗は言う。
「・・・・・・サリアはアンタレスに飲まれた。」
長い間をあけて決心したように言った。
「飲まれたって、飲まれたってどういうことだよ!?」
「そのままの意味だ。今サリアはアンタレスの一部にされている。」
冷静なアリエッタの様子に拓斗はさらに怒りを覚える。
「一部って、助け出す方法はないのかよ!」
声を荒げる拓斗にアリエッタは鋭い視線を向ける。
「少し黙れ。今お前がどれだけ叫ぼうが足掻こうが何もできない。それだけは理解しておけ。」
拓斗に絶望の二文字を突き付けるには十分すぎる言葉であった。
歯を喰いしばり自分の無力さを感じる拓斗は自然と俯いてしまう。
「私の一撃が成功すればまだ助け出す可能性はある。ここで気落ちして成功率を下げてくれるなよ。」
アリエッタなりの慰めであったのだろう。やや棘があるような言葉ではあったが、絶望に打ちひしがれている拓斗にとっては救いとなる言葉であった。
「サリアは今アンタレスの核の中で動力源の一部として使われている。助け出すにはお前の核を狙った攻撃の微調整が要となる。」
「微調整って具体的に?」
「・・・私が知るわけないだろう。無責任ではあるが、サリア救出はお前に全て掛かっている。」
今までにない程の無理難題。そんな難題の前に頭を抱えている暇など今の彼らには存在などしない。
「わかった。俺に任せてくれ。」
何の根拠もない。欠片の自信すらないけど、拓斗はそう言うしかないと全身が叫んでいるような気がした。
そしてアリエッタの右手の拳に十分な魔力が溜まる。
「さぁ時は満ちたぞ。後に引く道なんてない、正真正銘の最後の賭けだ。」
「あァ、必ず成功させて見せるさ。」
アリエッタは深呼吸をするとアンタレスを見据える。
「起きろレグルス、狩りの時間だ。」
アリエッタの右手の甲に赤い魔法陣が浮かび上がる。
「ここに顕現した我が拳は神界の鉄槌。大地を砕き、天空を割る一撃必殺の拳よ、彼の者を打ち砕け。」
空気が張り詰める。
「神拳一槌ッッッ!!!!!!」
アリエッタの全てを込めた一撃がアンタレスに直撃し、大地と空気が震える。
「吹っ飛べェェッッッ!!!!」
アンタレスの腹へと決まった一撃が、鈍い音と共に強靭な身体にヒビを入れ、アンタレスの体制を崩す。
「今だッ!!行けェェェェッッ!!!!」
反動で歪な形に折れた右腕を抱えながらアリエッタは吠える。
「皆が託してくれたチャンス、無駄にはしないッ!!」
顕現させた魔導書と拓斗から濃密な魔力が溢れ出す。
「行くぞコキュートス。これで全部が決まる。だからさっさとサリアを助けて皆で帰るんだ!!」
拓斗の言葉に答えるように氷の書が更に魔力を放出する。
拓斗を中心に蒼い魔法陣が地面に描かれる。
「万物を凍結させよ!コキュートスッ!!」
拓斗は氷の世界を構築すると足元から氷を出し、ヒビの入った腹まで自分を運ぶ。
そして両腕を天高く上げ、氷の槍を生成する。
「もっとだ、もっと鋭く、もっとデカく!!」
徐々に大きさと鋭さを増していく氷の槍。しかしアンタレスはその隙に体制を立て直そうと動き出す。
「間に合ってくれよ・・・!!」
アンタレスが完全に体制を立て直すその瞬間、アンタレスを貫くには十分な魔力と大きさをもった氷の槍が完成する。
「貫けェェッ!!!」
氷の槍をアンタレスの腹にできたヒビに向かって放つ。
氷の槍はアンタレスの身体を貫通し、核に氷の槍の先端が触れた瞬間。
「今だ!」
手応えを感じた拓斗は氷の槍をやや左に逸らす。
氷の槍は結局核を貫きはしたが、やや左にずらしため中心を貫くことなく貫通する。
アンタレスが叫び声をあげ、腹が崩れ始める。
「アリエッタッ!!」
「任せろ!!」
アリエッタの足元に氷を生成して崩れ始めた腹に近づける。
アンタレスの腹に着くと、至る所に飛び移りながら核に近づいていく。
「どこだ!?どこにいるんだサリア!!」
三分の一が砕かれた核に近づきサリアを探す。
すると核に半身が埋まっているサリアを発見する。
「サリア!!」
埋まっているサリアに近づき、埋まった半身を引き抜く。
「息がある!良かった・・・ッ!!本当に良かった・・・ッ!!」
サリアを抱え、自分を運んだ氷の場所にまで戻る。
戻るとそこから拓斗が見えたのでアリエッタは笑顔で大きく手を振った。
「サリアは生きてるぞ!!今すぐそっちに戻る!!」
氷の上に乗ると、それを拓斗が動かし安全な場所まで移し合流する。
あまり月日は経っていないのに久しぶりに感じるサリアの顔、拓斗は自然と涙が零れていた。
「サリア・・・ッ!!やっと、やっと会えた!!」
涙を流しながらも喜びを表す拓斗。
「喜ぶのはまだ早い。アンタレスはまだ生きているぞ。」
アリエッタは抱えていたサリアを地面に寝かせると、アンタレスを睨みつける。
「もう一度あの槍を打ち込めば勝てるんじゃないのか?」
「四魔獣がそんなに簡単に倒せていたら、昔の人たちは封印ではなく討伐を成功させていたさ。」
「核を砕けば倒せるんじゃないのか?」
「あいつの身体をよく見てみろ。一度は崩壊を始めても完全に核を砕かない限り、核ごと回復を始める。」
先程まで崩壊を始めていたアンタレスは徐々に復元を始めていた。
「じゃ、じゃあどうすればいいんだよ、折角ここまで上手くいったのに!!」
「もう一度封印する。一か八か、いやここからは、元々アンタレスの封印の器であったサリアの強さ次第だ。」
アリエッタは静かに寝息をたてるサリアを見据えていた。




