雷帝
雷により黒焦げたシュトルは何事もなかったかのように立ち上がる。
その姿は、今まで受けてきた攻撃をまるで感じていなかった。
「いったいなぁー、流石に直撃は無理あったかー。」
デルベの魔法を直接受けておきながら一切の動きの鈍みが見えないシュトルに驚きを隠せない。
「さっさと済ませるつもりだったんだけどなぁ。」
「あんなへなちょこ電気で倒せると思われるなんて心外だ。」
「あぁん?へなちょことは言ってくれんじゃねぇか。」
「間違いじゃないだろ?」
放たれる一閃。首を捕らえたその一撃はデルベを絶命させることに躊躇いがない。
「危ねぇな、ちょっと切ったじゃねーか。」
首を傾けて避けたことにより剣が頬を薄く切り裂く。
頬から垂れる血は剣を伝う。
「それで避けたつもり?」
頬から垂れる血は剣の上を伝っていると、流れた血は剣に染み込んでいく。
やがて剣が血を吸い取ると赤く輝きだす。
「さぁ目覚めの時だよ。」
赤く輝く剣は、柄から赤黒く染まりだし禍々しさを増す。
「万物を切り裂け、血を吸う魔剣。」
振り下ろされた赤黒く染まった魔剣。
殺気や悪意とは違った何かを魔剣から感じ取ったデルベはとっさにその攻撃を避ける。
「避けられると思うなよ!」
シュトルは一歩また一歩とどんどん踏み込んでデルベとの距離を縮める。
(何っつー無駄のない動きだ!?余計な隙を見せた瞬間殺られる!!)
後ろに跳んで距離を放そうものならその間に殺される。
(まさに絶体絶命ってやつか!!)
その瞬間デルベは肩の鋭い痛みに苦痛の色を見せる。
切り裂かれた肩の傷口から鮮血が流れることはなく、全て魔剣に吸い取られる。
「キタキタキタキタキタぁぁぁぁぁ!!!!」
速度、技術、鋭さの全てが上昇する。
致命的な傷はないが徐々に追い込まれ小さな傷が幾つも増えていく。そしてその度に相手の攻撃の勢いは増していく。
「ほらほら!早く何とかしないと死んじゃうよ!!」
「うっせぇ!!テメェになんか言われる筋合いはねぇッ!!」
魔法を使う隙すらない絶体絶命の状況の打開策を練るが一向にいい案は思いつかず、最悪の状況にどんどん向かっていく。
そんな中とうとうデルベの脇腹に致命傷には至らないが鋭い一撃が加わる。
「ちょっと浅かったかー。」
シュトルは手を止め魔剣をそっと撫でる。
普段ならそんな隙すら見せないシュトルだが今回は慢心から手を止めてしまった。
「グロールヴリックス。」
シュトルの直上に現れた魔法陣から放たれた雷は青白い光を放ちながら真っ直ぐに落ちた。
直撃を受けたシュトルは涼しい顔をしてはいるが雷のせいで上手く身動きが取れずにデルベとの距離を開かれてしまう。
「モード雷帝。」
深呼吸をしてからそっと呟いたデルベ。
そして手から電気を収束させシュトルに向かって放つ。
「そんなへなちょこ攻撃効かな・・・ッッ!!?」
電気の槍がシュトルの腹を貫通している。
「な・・んで・・・。」
「何でも何も、俺の雷帝を使った状態の電気は物体化してその場に残る。今から俺の放つ魔法は電気としてお前の中を流れるんじゃなくて、電気の槍となってお前を貫くのさ。」
次々と放たれる魔法はシュトルの身体の様々なところを貫く。
「カハッ!!」
吐血するシュトルはデルベを見上げる。
しかしそこにあったのは憎悪に満ちた表情でも、殺意に満ちた表情でもなく、楽しそうに笑顔を浮かべるシュトルの表情であった。
「この剣って自分の血を吸うことを許可したら自分の血も吸えるんだよ。」
身体の至るから血を流していたシュトルであったが、その血を全て魔剣が吸い上げる。
「あーでもこれ以上は制御が効かないや・・・。」
狂気に満ちた笑みにデルベは、今まで体験してきた中で最も死を身近に感じた。
その瞬間シュトルは動き出し、迎撃を試みるが掠りもせず、避けようとした時には既に遅かった。
「すばしっこい獲物を狙うときは脚からだよねー。この魔剣もよく分かってる。」
右脚を貫かれたデルベはその隙に雷で貫こうとするが呆気なく避けられ片手で首を絞められる。
「これで動きは封じたから後はゆっくりと血祭りにあげるだけ。」
片手で持ち上げられたデルベの腹に魔剣を突き立てる。
「じゃあね、デルベ先生。」
嫌味のように言ったシュトルはこの戦いで一番の笑顔だった。
シュトルは魔剣をデルベの腹を貫こうとするが違和感に気付く。
「あれ?何で俺の右腕・・・無いの?」
魔剣を握っていたはずの右腕は、肩から切り落とされ地面に落ちていた。
シュトルが放心していると左腕も肘から切り落とされる。
「ケホッ、言ったろ雷帝状態の時は電気が物体化するって。」
息の出来ぬ状況から解放されて咳き込むデルベの右手には電気が纏ってあり、それを手刀にしてシュトルの両腕を切り落としたのだ。
「詰めが甘いんだよテメェは。」
膝をつきブツブツと何かを呟くシュトルに向かって言う。
「これで勝ち目はなくなったぜ。抵抗しなければ一瞬で終わらせてやる。」
せめてもの慈悲を与えるデルベであったが、シュトルはそれに対して反抗的な目で見上げた。
「こんなことで・・・・勝ったと思うなッ!!」
足で地面に転がる魔剣を蹴り上げ、口で加えて切りかかる。
大人しく殺されてくれるとは思っていなかったが、ここまでして反撃をしてくることにデルベに目の前に魔剣が迫った。
そして鮮血が戦場を舞った。
「詰めが甘いとは言ったものの・・・俺も人のことは言えねぇな。」
焦点の合わない目でシュトルを捕らえるデルベはそう言った。
魔剣は肩から胸にかけてを切り裂き、手刀は心臓を貫いていた。
手刀を身体から抜き取ると、目の光を失ったシュトルは力なく崩れ落ちる。
「わりぃなタクト・・・・そっちに行けそうにねぇわ。」
膝から崩れ落ちたデルベの視界は真っ黒に染まるのであった。




