軍人
アンタレスの誕生に市民が逃げ惑う中、別動隊の三人は避難誘導をしつつ攻撃をしてくる兵を退けていた。四魔獣の一体であるアンタレスが誕生したにも関わらず兵たちは国を守るために戦うどころか、アンタレスを抑えようとしている自分たちに攻撃を仕掛けてくることにエルは確信をもった。
「この事態は国絡みってことか。」
自分たちが相手にしていたのは組織一つではなく国一つだったことに冷汗が流れる。
「どしたの?もしかして今更気づいたの?」
エルの横にフルガナが瞬間移動で現れる。
どこか余裕そうな顔に少し腹立たしく感じるが、それを抑えて目の前のことに集中する。
避難誘導をしながら敵兵を退けるのは容易なことではない。
「任せたよ、タクト・・・。」
最後の望みの拓斗に縋ったそんな想いは暗闇に消えて行った。
氷と雷と衝撃波による怒涛の攻撃はアンタレスの強靭な肉体の前では傷一つつけることができない。
どれだけ打ち込もうとも、どれほど力を込めようとも怯む素振りすら見せぬことに焦りを感じる三人であったが、そんな三人をアンタレスは見向きもせず街に侵攻を進める。
「デルベ先生!!他の教員はまだ来ないんですか!!」
「来るも何も学園長の指示でここまで来てるのは俺だけだ!!あの野郎いつも扱き使いやがって!俺を何だと思ってんだ!!」
「無駄口叩いてる暇があるなら手を動かせ!!」
デルベとアリエッタは戦闘を既に行い最も疲労を感じている拓斗より前衛に立ち攻撃を仕掛けているが、相変わらず傷のつかないアンタレスに心が絶望に包まれていく。
「どうにか打破できる作戦は無いんですかッ!!」
「そんなもんあるなら最初から使ってる!!」
怒鳴り声が戦場に響く。
アンタレスの歩む先は分からないが、少なくともこのまま進んでいけば何処かの国に最悪の厄災が降り掛かることになるのだけはわかる。
「無くはないぞ。」
絶望に包まれた中一つの希望が差し込む。
「・・・詳しく聞こう。」
デルベが神妙な趣で言う。
封印の一族を使うことで漸く封印することができた四魔獣を制圧できる策が、代償なしの策とは思えなかった。
「核を潰すんだ。四魔獣には核があると昔研究者たちの話を小耳に挟んだことがある。」
「核?そんな物があったとしてどうやって壊すんだ?」
「そこが問題だ。私の全てを込めたで核に衝撃を加え、怯んだどころをタクトの渾身の一撃で核を貫けば封印どころか倒せるかもしれない。」
「・・・タクト、魔力は持つか?」
「魔力よりも俺の攻撃力で貫けるかが問題だな。」
今まで傷をつけれなかった相手にこれから放つ魔法が効くとは思えない。まして体内にある核を貫くとなるとそれは夢物語に過ぎない。
「無理でもやるしかないだろう。今できる作戦はこれしかないしな。」
「作戦を確認する。デルベ先生は奴を引き付けていている隙に私がアンタレスの身体に向かって全魔力を込めて打ち込む。」
最後の希望がかかった作戦に空気が張り詰める。
「その隙にタクトがアンタレスの核をぶち抜け。」
本当の最終決戦が始まる。
城の屋根に立ち不敵な笑みを浮かべながら三人の戦闘を眺めているシュトルのもとに電撃が走る。
シュトルはそれを涼しい顔で避けるとデルベと対峙する。
「やっぱり君が相手になったかぁ。戦場の迅雷とか呼ばれて殺しに関してはプロ中のプロなのは知ってるけどさ、俺の相手には役不足なんだよね。」
「言ってくれんじゃねぇか、そうことはあんまり言うもんじゃないぜ。負けた時に恥ずかしくなる。」
「ハハハ!笑わせないでよ。俺が負ける?ありえないありえない。」
殺伐とした空気の中、場違いすぎる愉快な笑い声が響く。
「最愛の人を亡くして力を封印した君程度が俺に勝てると思うなよ。」
その狂気的な笑みにデルベの背筋に悪寒が走る。
「・・・何故それを知っているかは聞かないが、相手にしてきされると意外と腹立たしいものだな。」
デルベは頭を掻きながら言う。
何時ものようにだらしのない態度ではあるが、いつもよりどこか寂しそうで、悲しそうで、そして怒気に満ちている声色であった。
「悪いが俺の八つ当たり兼鬱憤晴らしに付き合ってくれ、俺を怒らせた責任取れよ?」
左手に纏った雷を右胸に当てる魔力と共に流し込む。
デルベは苦痛の声を少し漏らすが、それと同時にデルベの右胸に描かれていた小さな紫色の魔法陣は何処かへと消えて行った。
「簡単な仕掛けの封印魔法だけどよ、一度掛けちまうとなかなか外す気になれないもん何だよなぁ。」
「封印を外した程度で勝てるとでも?」
「ああ、勝ち目は少なからずあるだろうよ。俺も伊達に軍人やってないしな。」
「楽しみだよ、その自信を粉々してあげるよ!!」
腰に掛かった剣を抜きデルベに切りかかるが、デルベは足から電流を流しシュトルに向かわせる。
しかしシュトルはそれを簡単に避けると再びデルベの方を向こうとするが、デルベは既に先程の場所に立ってなどいなかった。
「何処見てんだ?」
跳ぶことで電流を避けたシュトルの真下にデルベはいたのである。
シュトルの腹に重い蹴りを入れると、上空に吹き飛んでいく。
「墜ちろ。」
シュトルの上空から一つ雷が落ちる。
デルベは屋根の上に着地すると、後から落ちてきたシュトルを見下ろす。
やや焦げているシュトルは立とうとするが再び雷が落とされる。
「どうした?自信を粉々にするんじゃないのか?」
戦場の迅雷と呼ばれた男の真の姿はまさに冷酷な軍人であった。




