氷の世界
拓斗とバルターは睨み合う。お互い一歩も引かず。ひたすら睨み合っているのだ。
そんな状況に飽きたのか竜人族の少女は早いところサリアに止めを刺そうと構える。
「やめろメロナ。今はそんなことよりもこの男の方が大事だ。」
竜人族の少女の名を呼びサリアに止めを刺すのをやめさせる。
ピタッとメロナは止まり不機嫌そうな顔をしてバルターの後ろに移動するのであった。
「それで、君は何者だ?見たところこの学園の生徒じゃないみたいだが?部外者が決闘の邪魔をするなど許される行為ではないぞ。」
睨む目は一層鋭さを増し、まるで剣を向けられている気分になる拓斗。
しかしそんな状況でも拓斗は冷静を取り繕う。
「俺も部外者なら良かったんだけどねぇ。生憎俺はこの子の使い魔なんでね。」
「使い魔?馬鹿なことを言うな。君の見た目は明らかに僕たちと同じ亜人だろう。」
現実世界で言う人間はこの世界で言う亜人である。
「ほんとに使い魔なんだけど・・・。」
「嘘をつくにはもう少しマシな嘘をついてほしかったな。まぁいい、この決闘に乱入したからには怪我なしで帰れると思うなよ。」
自分の後ろにいるメロナにアイコンタクトで攻撃するように指示する。
しかしメロナは様子はおかしく、動こうとしないどころか僅かに震えている。
「おい、どうしたメロナ。さっさと片付けろ。」
震えるメロナを見て不自然に思ったバルターはメロナに声をかける。
メロナはそれでも動こうとしない。相変わらず震えているだけである。
痺れを切らしたバルターがメロナに怒鳴ろうとするがその前にメロナが口を開いた。
「無理だよご主人。あれは、アイツは本物の使い魔だ・・・。」
震える声は何かに怯えるようであった。
そのメロナが怯える対象が拓斗であることは当然バルターには分かっている。
「使い魔なら尚更君が倒してもらわなくては困る。君は竜人族だ。難なく倒せるだろ?」
「だからそれが無理なんだよご主人・・・。」
俯くメロナ。俯くその表情には主人の期待に答えられない悔しさよりも恐怖の方が上回っていた。
戦況が変化しないことに会場がざわざわと騒ぎ始める。
そんな騒がしい中メロナはハッキリとバルターに聞こえるように言った。
「あの使い魔は人間だ。とても私じゃ相手にならない・・・。」
今にも消えそうな声で言うメロナはチラッと拓斗を見るが、目が合うと怯えて直ぐに目をそらすのであった。
信じられないといった表情をするバルター。
「本当に!?本当に人間なのか!?間違えだってことは無いのかッ!?」
突然焦りだすバルターを不思議そうに見る拓斗は、どうでもいいかと首を振りサリアの元へ行く。
サリアの元へ着くと彼女はこちらを驚いた表情で見ている。
「なんでここに来たのよ・・・?」
「俺はお前の使い魔だろ?ならここにいて当然じゃないのか?」
「契約も終わって初めて使い魔の扱いなのよ。」
「ならこれでいいか。」
拓斗はズボンのポケットから折りたたまれた紙を出す。それはサリアが地下室に置き忘れて行った使い魔と主人の契約書であった。
その契約書にはサリアには読めないが漢字で坂上拓斗とハッキリ書いてあった。
「これで契約成立だ。まぁ俺なんかが使い魔で不幸だったな。ちなみにこの状況を打破する計画はないので最悪二人共仲良く敗北だ。」
「人間だったら意地見せなさいよ。」
ネガティブな発言をする拓斗に文句を言うサリアは少しずづ体制を起こし、何とか立ち上がることができた。
そしてバルター側も話が済んだようでこちらと向き合う。先程と違いメロナのみならず、バルターも戦闘態勢へと移行している。
「こちらの話しは済んだ。どうやらそっちも済んだみたいだな。」
「ええ。第二ラウンドと行こうじゃない・・・。」
(そんな満身創痍で何ができるんだ?)
フラフラなサリアを見て拓斗はそう思うが、ここは漢を見せようとサリアの前に片腕を出し、通せんぼのような状態になる。
「お前は下がってろ。ここは俺が何とかする。」
内心ガッツポーズをする拓斗。アニメの主人公の様なセリフに憧れていた拓斗にとってこのセリフは言いたいセリフランキングでもトップに食い込むセリフであった。
そんな姿を見たサリアは折角立ったにも関わらず腰を下ろし任せたと言った表情になる。
「流石人間だ。竜人族と亜人程度相手にならないってことか?」
「そうは言ってないし残念ながら俺は才能がないからお前たちと戦えるかどうかも怪しい。」
「強者の余裕か・・・。ならその余裕をぶち壊してやるッ!!」
(あー駄目だこれ。完全に人の話聞いてねぇわ。)
自分が弱いと宣言しているにも関わらずそれを強者の余裕ととってしまうバルターはかなり焦っているようであった。
しかし話しを聞いていいないどうこう以前に接近してきているメロナをどうにかしないとと思う拓斗はとりあえず主人公補正的な何かでこの本が読めるようになっていないかと持ってきた本を開く。
(こいつはスゲェや。さっきまで何書いてあるか分かんなかったのに今じゃなんとなくわかるぞ。主人公補正的な何かをちょっとは信じても良いかなって思えるな。)
字は全く読めないがその文字が何を表しているのかは読み取ることができる拓斗。
(これなら勝てるかもな。あれ?・・・・これってフラグか?)
負けフラグを立てたような気がした拓斗であったが、気にせず本から頭に流れ込んできた魔法名を言う。
「グラーシア」
辺りが冷気に包まれる。拓斗の周りに三メートルほどの巨大な氷柱が三つ形成される。その氷柱は容赦なくメロナに向かって放たれる。
そんな大きな氷柱を見た拓斗本人も驚く。
(やべぇなこの魔法。氷の槍なんてレベルじゃないぞこれ。)
放った本人はメロナに放たれる氷柱を見届ける。
(まぁこれで決闘が終わればそれでいいや。)
呑気なことを考えている拓斗であったが、その考えは甘かった。竜人族も決して弱くわないどころか強い種族なのである。その竜人族にとって大きな氷柱三本程度どうってことないのだ。
そして案の定氷柱は二本避けられ一本は砕かれる。
(うっわ砕きやがったよアイツ!?何か良い魔法ねぇのか!!?)
多少減速はしたものの接近してくるメロナに焦る拓斗は急いで本のページをめくっていく。
「メロナ!!援護するから合わせろ!!」
バルターは腕を拓斗のいる方向に突き出す。
「フラムリアッ!!」
フラムよりも大きな火球が現れる。フラムよりも上位の魔法であるフラムリアは拓斗に向かって放たれる。そしてタイミングを合わせるようにメロナの鋭い爪も接近する。
(クソ!分かんねぇ魔法が多すぎる!)
本の内容は分かっても全て理解できるわけではない拓斗は自分が使用できない魔法のページに迷い込んでしまった。
拓斗は急いでページをめくる。しかしメロナの爪と火球は目の前にまで接近していた。
終わったと思った瞬間一つだけ読み込める魔法があった。
(一か八かだ!)
ハッキリと大きく口を開け魔法名を言う。
「ニヴルヘイムッッ!!!」
氷が辺りを包み込む。地面は全てが氷観客席も凍り始める。その様子に観客は悲鳴をあげながら観客席から出て行く。
一瞬にして生まれた氷の世界。地面の氷は飛んでいるメロナの足を捕える。同様にバルターの足も捕える。
「とれないッ!!」
氷を剥がそうとバルターとメロナはもがくが徐々に足から氷が浸食を始める。
そしてあっと今にバルターとメロナの下半身を凍らせ、とうとう腹付近も凍らせ始めたが浸食は止まる。
浸食が止まっても焦る二人を見て拓斗は白い息を吐きながら言った。
「これで俺たちの勝ちでいいだろう?」
バルター悔しそうに手を握りしめるがやがて両手を頭上にあげて、降参のポーズをとる。
「僕たちの負けだ・・・。」
バルターたちが降参した瞬間氷の世界はあっという間に消える。
こちらが勝ったことを信じられないといった表情でサリアは見ている。
そんなサリアの元へ拓斗は寄る。
「勝ちましたよご主人様。」
しっかりと意地を見せた拓斗は皮肉っぽくサリアに言うのであった。
「よくやったわ。」
サリアは拓斗と目を合わせると笑顔で言うのであった。
(わお。何ていい笑顔。これが見れただけで頑張ったかいはあ・・・。)
拓斗は突然視界が安定しなくなりそのまま倒れ、気を失うのであった。
最後に拓斗に聞こえたのは心配そうに声をかけて来るサリアの声であった。




