何が相手でも
肌に不快感を与える程湿気に満ちた薄暗い洞窟の中、サリアは独房の中で手足を拘束され、初めは外そうともがいたものの今はじっと動かないのであった。
長い拘束に手の感覚が麻痺し始めるが、拓斗が来てくれるという希望だけを頼りにこの環境を耐えているのであった。
「タクト・・・。」
拓斗たちが戦闘をする中、サリアは精神的な苦痛との戦いをしているのだ。
そんな折れるつもりが微塵もないサリアの独房前に一人の男が現れる。
「気分はどうだ?」
深くかぶったフードから薄ら笑いを覗かせる。
「最悪よ。」
その一言には激しい憎悪や怒りが込められていた。
「解放の時は近い。それまで余生を楽しむことだ。」
男はそう言うと独房の前から姿を消す。
サリアの胸騒ぎと嫌な予感はとどまることを知らなかった。
馬車に乗ってから数時間が経過し、オスタの前まで到着し、オスタの城下町へと行くため門の前で検問を受けているのであった。
「身分を証明できるものを提示してください。」
検問をしている兵士の一人が言う。
エルとアリエッタは学生証を提示し、セレシアと拓斗は使い魔である証明書を提示する。
兵士は四人の身分証明書をじっくりと見ると、もう一人の兵士に何やら指示を出す。
「ここに来たのが間違いでしたね。」
先程指示を出した兵士が十数人の兵士を連れて四人を取り囲む。
「お前らには王様から指名手配が出ている。いま投降すれば武力の行使しない。」
兵士が四人に指名手配された四人の名が書いてある紙を向ける。
「謎の組織とオスタの上層部はグルってことか。」
エルは溜息をつく。
「セレシア。」
エルが声をかけるとセレシアは無言で頷く。
すると四人を中心に暴風が吹き荒れ始める。兵士たちはあまりの風圧に吹き飛ばされる。
「正面突破か、悪くない!」
アリエッタは門の奥を塞ぐ兵士を身軽な体を行使して薙ぎ倒す。
「さぁこれ以上ゆっくりはしてられない!僕についてくるんだ!」
エルは先陣を切り走りだす。突然の出来事に拓斗は放心するが、その手をセレシアが掴み走り出す。
街の中は悲鳴やどよめきが四方八方から聞こえるが拓斗たちがそれに構っている時間はない。
エルは建物と建物の間にある裏路地を幾つも通り人気の全くない場所へ移動するのであった。
「ひとまずここまで来れば大丈夫かな。」
数十分間全力で走っていたにも関わらず拓斗を除く三人は息切れ一つしていない。
「国一つが相手になるとはな。」
アリエッタの顔に焦りが見える。
「そうだね。一応考えはしていたけど最悪の状況に近い。僕たちだけじゃとてもじゃないけど戦力不足だ。」
エルも難しい顔をし、四人の空気は暗いものでになる。
「救出は難しいかもしれない------------。」
エルの言葉にアリエッタと拓斗は歯を食いしばり、セレシアは俯く。
「それでもだ。」
震える声に俯いていた三人は拓斗を見る。
「たとえ国が敵になってもサリアを助ける。どんなに強くても、確率が限りなく低くても、サリアが助けを求めているのなら何が何でも助けるんだ。」
声と足は震え、表情は不安一色。まるで説得力のない言葉ではあるが、その言葉は暗かった四人の空気を吹き飛ばすのであった。
「まったく、貴様が動かすとはな。」
アリエッタは笑みを浮かべる。
「そうだね。諦めるには早すぎた。」
エルは頬を叩き気合いを入れなおす。
四人は再び自信を取り戻す。
「話しは済んだか?」
人通りのない裏路地から黒いローブを深くかぶった男が現れる。
「随分と早いお出ましだな。」
アリエッタは男を睨みつける。
「一人でここに来るなんて随分余裕だな。」
拓斗は溢れんばかりの魔力で男を牽制する。
「我々は四人に対して一人で来るほど愚か者でもない。」
もう一人男が建物の屋根に立っている。
その男と拓斗の目が合った瞬間拓斗の中の何かが爆発した。
「ネルディハぁぁぁぁッッッ!!!!!」
魔法を使っていないにも関わらず拓斗の周りを冷気が包む。
「めっちゃ嫌われてるじゃねぇかよネルディハ。」
建物の影からフードを被っていない野生感のある金髪の男が現れる。
三人に囲まれた拓斗たちは互いに背を向け、円になる。
「へぇ結構冷静じゃん。でも安心しなよ、俺は強えぇ奴としか戦わねぇから。」
そう言うと四人をじっくり見て、その目がアリエッタを捕らえた瞬間、男の口が三日月の如く歪む。
「君が一番強い感じかぁ。しかもこの中で抜けて。」
腰に掛けられた剣を鞘から抜き出す。
「俺はあいつと戦うから手ぇ出さないでよね。」
金髪の男は二人に言う。
「待てシュトル。陣形を崩すな。」
ネルディハはシュトルを威圧するがそれ以上の圧でシュトルは返事をする。
「あぁん?ネルディハの分際で何命令してんの?これ以上口出ししたら先に殺すから。」
自分を凌駕する圧を加えられたにも関わらずネルディバは表情一つ変えずにいる。
向かい合うアリエッタとシュトル。エルとセレシアと拓斗はネルディハともう一人の男と向かい合う。
「貴様らの命はここまでだ。先に地獄へ行くといい、女も後で送ってやる。」
ネルディハの安っぽい挑発に拓斗の中の何かが爆発した。
「グラーシアッ!!」
怒りに任せた氷柱がネルディハに向けて放たれるがネルディハに全て叩き落される。
「戦闘において先手と言うのは今後の戦況全てに関わる。甘いな人間。」
横薙ぎに払われた槍は拓斗に触れていないにも関わらず拓斗の胸を切り裂いた。
「タクト!!」
血飛沫が舞う中拓斗を助けようと動くがそれはもう一人の男の奇襲によって妨害される。
もう一歩前に出ていたら腕を切り落とされていたであろう一閃にエルは冷汗を隠しきれない。
「邪魔をするなッッ!!ラマデビドッ!!」
放たれた風の弾丸は至近距離にも関わらず全て弾かれる。
「読みやすい攻撃だ。命のやり取りをするにはまだ青い!」
右腕に隠された仕込み刃がエルを襲うが、その前に渦巻く風が男を襲う。
「助かったセレシア。」
セレシアの援護により傷を負わなかったエルは焦りを感じていた。
(このままじゃタクトがッ!!)
永久凍土の世界は一対多でこそ真の強さを発揮する魔法であり、多対多では味方への被害を考慮して使うことができない拓斗は、一方的にダメージを負っていく。
「ラマデビド!!」
セレシアと共に風の刃を放ち時間を稼ごうとするが、男は身体のいたるところから現れる刃で全て叩き切る。
そうしている間に拓斗の急所を狙った一撃は容赦なく身体を貫こうとした時。
「お、もしかしてこれってナイスタイミングってやつ?」
一瞬で拓斗とネルディハの間に立った男は剣で槍を抑えながら言う。
「フル・・・ガ・・ナ?」
赤髪が風でなびいている。
「ダーゲルト様の命令と可愛い妹のお願いで助太刀に来たよ、人間。」
少し前まで敵であった男がそこには立っていた。




