東へ
鈍い痛みが走る。
全身が痛みに悲鳴を上げ言うことを聞かない。
もがきたくてももがけない不快感が余計に身体に負担をかける。
(もう少し・・・もう少しだけ、休んでいたい・・・。)
そんな拓斗の願いに答えるように意識は更に沈んでいくのであった。
「・・・知ってる天井だ。」
目が覚めて視界に映ったのは保健室の天井であった。
数回ほど目にしたことのある光景にテンプレのような言葉を思わず口にしてしまう。
「目が覚めましたか!今学園長を呼んできます!」
目覚めた拓斗を目の当たりにしたイヴは慌てた様子で保健室を出ていく。
呼び止めようと手を伸ばすが右腕に痛みが走る。
「包帯?」
右腕に巻かれた包帯をまじまじと眺め、全てを思い出した。
全身を見ると、そこには右腕と同じように包帯が巻かれている。それがどれ程の大怪我だったかを示していた。
「タクト・サカガミ、怪我の確認は済んだか?」
学園長の声に我に返り、顔を上げる。
「これまでのことを全て話してもらうぞ。」
拓斗はその言葉に静かに頷くのであった。
全てを話し終えると学園長を顎に手を添え、ゆっくりと話し出した。
「なるほど、お前ほどの者が手も足も出ないとはな。」
人間が呆気なく敗北したことに驚きを見せる。
「しかもあいつはまだ本気を出していないようでした。」
情けないという気持ちが心を締め付けるが、喉から捻りだすように言う。
もはや自分だけでは解決できないと、助けを求めるようであった。
「ふむ・・・話を聞いておいて申し訳ないんだが、お前に伝えなければいけないことがある。」
ポケットから一通の手紙を取り出し拓斗に渡す。
拓斗はそれを受け取ると手紙を開くが、当然読めない。
それを察した学園長は溜息をつく。
「簡潔に言おう。」
学園長の目には拓斗を突き放すようであった。
「本校の序列八位であるサリア・ルシュレに救援部隊は送れない。」
その言葉は拓斗にとって刃となった。
何故?そんな誰もが持つような疑問が拓斗の脳内を駆け巡る。
「なぜ・・・です、か?」
言葉が震える。
「その手紙は東の国オスタの王直筆の手紙だ。反発をすれば武力による鎮圧を行うと書いてある。」
一国の王から直接の手紙に拓斗は怒りを覚える。
「なんでッ!!なんでですかッ!!サリアはこの学園の生徒でしょ!!貴方が守らなくて誰が守るんですか!!大人の自分勝手な理屈を押し付けないでくださいッ!!!」
心からの叫び、そう形容するのがもっとも正しいであろう。
そんな心からの叫びを吠えながら今にも掴み掛りそうな拓斗に学園長は再び溜息をつく。
「主人を守るのは使い魔の役目だ。子供が勝手な理屈で我が儘を言うな。」
お互い睨み合う。
拓斗はそんな学園長の顔すら見たくなかったのかベッドから起き上がり、保健室の扉へと向かう。
「何処へ行く気だ?」
学園長は振り返ることなく聞く。
「貴方が救援を出さないと言うなら俺一人でも行きます。」
拓斗は保健室から出ていくのであった。
保健室から出るとそこにはイヴとリリアが不安そうな顔をして立っていた。
「タクト先輩、今の話って本当ですか?」
どうやらイヴは全て盗み聞きをしていたようだ。
「ああ、本当だ。」
イヴは胸元をぎゅっと握りしめる。
「私も連れて行ってください。」
決意に満ちた目をしていたが、拓斗はそれに対する許可は出せなかった。
「駄目だ。」
突き放すような拓斗の言葉にイヴは絶望の色を見せる。
「何故ですか!?私とリリアがいれば多少の戦力になるはずです!!」
イヴとリリアは不満といった表情である。
「また、また私は何の力にもなれないんですか・・・。」
涙が溢れる。
そんなイヴの頭に優しく手を乗せ、髪をなぞるように撫でる。
「イヴとリリアには十分助けてもらってる。でも今回は駄目なんだ。生き残れる確率は多分ゼロに等しい。そんな危険なところにイヴとリリアは連れて行けない。」
イヴはそっと顔を上げとそこには自分が憧れ、好意を抱いた優しい先輩の顔があった。
「だからさ、ここで待っていてよ。俺とサリアが返ってきたときにただいまって言えるように。」
優しさの籠ったその言葉にイヴは小さく頷く。
「はい。」
笑顔になったイヴを拓斗は優しく撫でるのであった。
寮へ準備を済ませようと足を運んでいると拓斗の前にアリエッタが立ち塞がる。
「何の用だ?」
そう聞かれたアリエッタは睨むように拓斗を見据える。
「サリア・ルシュレの救出に私も同行させてもらう。」
拓斗は驚きに目を見開く。
「集合は深夜二時に校舎前だ。」
アリエッタはそう言って拓斗を横切りどこかへ行ってしまった。
深夜二時。誰もが眠りにつき物音しない闇に包まれた時間。校舎前に四人が姿を現す。
「来たか。」
アリエッタが最後に来た拓斗に言う。
しかし拓斗はそんなことよりも驚いていることがあった。
「何でエルとセレシアがここに居るんだ?」
ニコニコとしているエルと無表情なセレシア。
「増援だ。戦力は多い方がいい。」
アリエッタは当然と言ったかのように言う。
「よろしくタクト。」
律儀にエルが挨拶をすると、横に立つセレシアもお辞儀をする。
「御託はいいか?そろそろ出発するぞ。」
アリエッタが歩き出すと、その後を追うように他の三人も歩き出す。
しかし校門を潜ろうとした瞬間、四人が耳にしたことのある声で止められる。
「夜中に出回る不良は誰だぁ?」
四人は振り返る。
「デルベ先生・・・。」
拓斗は自分たちを止めた者の名を口にする。
「残念だがお前らを学園長から止めるように言われてるんでね。」
デルベとの戦闘は避けて通れないと誰もが思った。
「まぁでも俺は今日タクト、メニム、ファクト、セレシアの四人は見てないからなぁ。代わりに四人の不良生徒はいたけどな。」
デルベはニヤッと笑う。
「恩に切りますデルベ先生。」
拓斗がそう言うと四人は校門を潜り抜け、東の国オスタへと向かうのであった。
デルベはそんな四人の背中を見届けるのであった。




