限界より高い壁
フルガナの襲撃を受けてから数日が経過したある日。
リリアの傷は完治して保健室通いだった生活に幕を下ろし、本日イヴの部屋で退院祝いのプチパーティーを開きその帰りに拓斗とサリアは珍しい組み合わせと遭遇するのであった。
「いいとこに来たなぁ人間。」
「ちょうどいいところに来たな人間。」
ヘルガ・バストゥフとアリエッタ・メニム。あり得ない組み合わせに唖然とするが、そんな余裕を二人は与えない。
「今から俺と戦え。」
「今から私と戦え。」
二人は腕を組み拓斗を威圧する。自分よりも戦闘力が高いであろう二人の威圧を真正面から受ける拓斗は冷や汗が止まらない。
「ちょっと待ちなさいよ!!拓斗は私の使い魔なんだから私に話を通してからが常識でしょ!!」
二人と拓斗の間に割って入り距離を取らせる。
「あぁんッ!!テメェに用はねぇんだよッ!!さっさと退けッ!!」
ヘルガは手でサリアを無理矢理押しのける。
ヘルガの力が強かったのかサリアは尻餅をついてしまう。
「きゃ!?」
ストンと尻餅をつき痛そうな表情をするサリア。
その瞬間である。アリエッタがヘルガを鋭い目つきで睨みつけた。
ほんの一瞬であったが拓斗はそれを見逃さなかった。
「暴力に訴えるとは野蛮だな。」
アリエッタの冷たい言葉はヘルガの怒りに触れる。
「んッだとテメェッ!!もういっぺん言ってみろ!!」
アリエッタの胸倉に掴み掛るヘルガ。
「野蛮だと言ったんだ。所詮獣の品はその程度だと学ばせてもらった。」
その言葉はヘルガの怒りどころか逆鱗に触れることになった。
「俺を獣って呼んだなぁッッ!!!」
素早い蹴りがアリエッタに直撃する。その蹴りを真正面から受けたアリエッタは寮の壁に激突する。
しかしそんなアリエッタが痛がる様子は一切なく、むしろ蹴りを受ける前と受けた後で表情は何一つ変わっていない。
「人間を倒す前にテメェを二位から引きずり落としてやるよォ。」
「ほう。獣風情が私に喧嘩を売るか、いいだろうその喧嘩を蹂躙という結果で返してやろう。」
一触即発の空気に拓斗とサリアは動きが停止する。
牙を剥きだして獣のように威嚇をするヘルガと、冷たい視線を向けてヘルガを見下すアリエッタは睨みあいを続ける。
そして最初に動き出したのはヘルガの方であった。
素早くアリエッタの背後に回り力強く握りしめた拳を放つ。
「動きにムラがあるな。」
背後からの攻撃をものともせず鮮やかに躱し、ヘルガの腕を掴み寮の廊下に所々に設置された窓に投げつける。
「ぐあッ!」
窓は割れヘルガは寮棟の外に投げ出される。そしてその後を追うようにアリエッタも窓から外に飛び降りる。
二人は外でそれぞれ着地し、睨みあう。
「カールゥゥッッ!!!!」
ヘルガは使い魔の名を呼ぶとどこからともなく小人が現れる。
「分かっとるわい。そんな大声で呼ぶ出ないぞ。」
年老いた小人はヘルガに小言を言う。
「うるせぇ!!早くしろッ!!」
自分の使い魔にも掴み掛りそうなほどの剣幕のヘルガ。
「仕方ないのぉ。スベルツィア、スベルティド。」
カールが魔法を二つ唱えるとヘルガが一瞬淡い赤色のオーラを纏う。
支援魔法がかかった証拠である。
「よォーし。リキングぅ。」
身体強化の魔法をかけ完全に準備が終わったヘルガは先程までとは比べ物にならない速度でアリエッタに攻撃を仕掛ける。
「オラ!どうした!!どうしたァ!!動きが鈍いぞ二位ィ!!」
ヘルガの猛攻に手も足も出ないアリエッタ。いや、あくまでも素人が見たらそうであろう。アリエッタはヘルガの攻撃を最小限の動きで受け、尚且つカウンターを一度もかけず、様子見を続けているのだ。
「所詮獣ではこの程度か・・・。」
溜息をつきそう呟く。
「ルーフ。」
衝撃波がアリエッタを中心に広がる。
アリエッタに猛攻を仕掛けていたヘルガは衝撃波を至近距離で受ける。
「ぐあッ!!」
アリエッタの前から弾き飛ばされる。
「ほう・・・。わしの強化がかかったヘル坊を一発で飛ばすか。」
興味深いとアリエッタを見ながら言う。
「テメェ・・・本気で俺を怒らせたなァ。」
ヘルガは立ち上がり体制を立て直す。
「その口が二度と獣って言えねェ用にしてやるぜェ!!」
獣人族の特徴は、他の種族よりも魔力が少ない代わりに身体能力が高いというものである。しかしその身体能力も亜人よりも高いというだけであって他の上位の種族に届くものではないのだ。
しかしヘルガは亜人よりも高い身体能力を生かし自身を強化する魔法を高め、支援を得意とする小人族を使役した。
そんなヘルガが行き着いた究極の身体強化。
「我が心身は鋼、折れぬ身体と曲がらぬ心が我に究極の肉体を授けるであろう。限界を超え我が身を喰らえ、限界突破。」
ヘルガの肉体はたった今限界を超えた。
溢れ出す赤いオーラは獣人族があまり持ち合わせない魔力である。
「潰すぜェ!!」
脚に力を込め踏み込むとそこにはクレーターができ、既にヘルガはアリエッタの目の前まで移動し神速の蹴りを当てているところであった。
アリエッタは受け身を取る余裕もなくヘルガ飛んできた方角とは反対側に吹き飛ぶ。
砂煙が上がるがその中から口元に血を滲ませたアリエッタが現れる。
「少し舐めすぎてたみたいだ。六位、今から容赦はしない。」
アリエッタの空気がガラッと変わる。
あたりの空気は張り詰めたなんてレベルではない、もはやアリエッタが空気すら服従させているような感覚であった。
その姿はまさに女帝であった。
「せいぜい壊れるなよ。」
右手を振り上げる。
限界突破をして何者よりも身体能力が上がったデルベはただその行動だけに恐怖を覚えていた。
そしてその恐怖は死を直感したものからであった。
しかしそんなヘルガに救いが訪れた。
「何をしている。」
二位と六位の間に現れたのは学園長であった。拓斗とサリアが呼びに行ったのである。
「決闘場以外での無許可戦闘は禁止しているはずだ。」
学園長は黙り込んでいる二人を威圧する。
「もう一度聞く。何をしている?」
これは最後の警告だと学園長の圧が伝える。
「・・・無許可の戦闘をしていました。」
アリエッタは返答をする。
流石にこれ以上黙っているとマズイと判断したのだ。
「ほう。なら処分を受ける覚悟はあるのだな?」
規則に厳しい学園長は、怒りを見せる。
「一週間の謹慎と反省文。反省文は謹慎後に私のもとに持って来い。」
そう言って学園長は去って行った。
アリエッタは何も言わずに去って行き、ヘルガは限界突破を解き膝と地面に付き荒い呼吸をする。
(化け物・・・。アレが二位の本気だって言うのかよォ!!)
本気を出したアリエッタの前に切り札を使ったにも拘らず恐怖を覚え動けなかったヘルガは、力の差に絶望する。
アリエッタ・メニムの力を拓斗たちが知る日は遠くない。
暗い洞窟に黒いローブのフードを深々と被る七人の男が集まっている。
「時は満ちた。」
中心に立つ者が言う。
「ようやくか。」
「何年待ったかわからんな。」
岩に腰掛ける者と壁にもたれかかる者が言う。
「封印されし魔獣の開放の時。」
中心に立つ者がそう言うと他の六人はそれぞれ反応を見せる。
闇に溶ける七人は最悪の計画の為に動き出す。




