兄妹
学園の保健室。
決闘などが頻繁に行われるため使用率はかなり高めであったが、いざ自分たちが使うとなり、しかも自分の友人が使うとなるとあまりいい気持ちはしないものだ。
「俺がいない間にそんなことがな・・・。」
フルガナの奇襲について一通り話し切った拓斗は俯いていた顔を上げると、ベッドに横たわるリリアとそれを心配そうに見るイヴが視界に入る。
「俺がもう少し早く動いていればこんな状況にはならなかったんですよ。」
フルガナの存在を誰よりも早く気づいていたのに行動に移せなかった拓斗は自責の念に圧し潰されそうになっていた。
「そいつは違う。俺が追う方の判断を間違えていなければこんなことにはならなかった。」
誰もが責任を取りたがる。
それぞれ思うところがあり、自分に責任がないと言われてしまったら後悔の思いが自分を飲み込んでしまいそうなのだ。
「先生は正しい判断をしましたよ。先生がそっちを監視していなければもっと最悪のケースに陥ったかもしれませんからね。」
拓斗はデルベの目をしっかりと見る。
「それでも生徒が傷ついたことは変わりない。教師が生徒を守れないなんて教師失格だな・・・。」
誰も悪くない。だからこそ皆辛いのである。
「二人共止めてください。リリアが傷ついたのはお二人の責任じゃありません。」
イヴは目に涙を貯めて二人の方を見る。
悲しくて辛くて、後悔しても遅いと延々に語り掛けられているような感覚に襲われているイヴは、恐らくこの中で最も辛いであろう。
「そうそう。弱い奴が一番悪いよねー。特にそこに寝てる子とか。」
怒りを買うような言葉と共に保健室の扉が開かれる。
そこには先ほど教師陣に連れて行かれたはずのフルガナが立っていた。
「なんでお前が出歩けているが知らないが、今の言葉を今すぐ取り消せ。」
デルベの殺気がフルガナを襲う。その尋常ではない殺気の量と質は軍人時代のそれであった。
「へぇ、戦場の迅雷が本気で戦ってくれるなら取り消してもいいかなー。」
軍人同士がお互いを牽制し始める。
「なら相手になってやるよ、奇術師。」
一触即発の空気の中、フルガナの頭をキリュハが叩く。
「何をしている?」
キリュハはフルガナの胸倉を掴み威圧する。本当はフルガナをすぐさま裁きたいのだが、学園長とダーゲルトが自分の後ろに居るためそれはできない。
「学園長どういうことだ?なんでこいつらが自由に歩いている?」
回答次第ではお前も許さないといったデルベのその言葉に学園長は表情一つ変えずに答えた。
「この問題は学園内だけに抑えることにした。これ以上の深読みは認めん。」
誰もが納得のいかない返事にデルベは怒りを剥きだす。
「それで納得しろっていうのか?」
デルベの身体に電流が僅かに流れ始める。怒りを抑えきれない証拠であろう。
「納得しろとは言わん。ただ今は抑えろ。」
学園長は圧を持った声色でデルベに告げる。
その言葉から何かを感じ取ったデルベはゆっくり深呼吸をして怒りを抑える。
「ダーゲルト王、貴方とその部下の学園への入場を暫く禁止にします。それを了承のうえ即刻学園からお引き取りをお願いします。」
学園長の無機質な言葉を向けられたダーゲルトは何も言わずに二人を連れて学園から出ていくのであった。
「君たちも早く部屋に戻るといい。」
そう言い残して学園長は保健室を出ていくのであった。
フルガナの奇襲があった日から一日過ぎた。
サリアは遅くまで考え事をしていた為やや寝不足で、昨日の疲れが取れ切っていない拓斗の二人はお互い酷い顔をしていた。
そんな二人が身支度をしているとドアをノックする音が聞こえる。
「はーい今行きます。」
拓斗がドアを開くとそこにはティーリアが顔を俯けながら立っていた。
「朝早くから申し訳ございません。ですがどうしても謝りたくて・・・。」
ティーリアの目元には若干クマができていた。どうやら朝方まで悩んでいたようだ。
「この度は私の兄が迷惑をかけて申し訳ございませんでした。」
頭を深々と下げて謝罪する。
自分が悪いわけでもないのにここまでの謝罪をするティーリアに拓斗は逆に申し訳なってくる。
「別にティアは何も悪くないよ。そこまで謝られるとこっちが申し訳なくなりそうだ。」
拓斗は気まずい空気に耐えられなくなりそう言う。
ティーリアは頭を上げて拓斗にグイっと顔を近づける。
「いいえ!兄の問題は私の問題でもあります!何かできることがあったら何でも申し付けてください。」
密着するティーリアから甘い匂いが拓斗の鼻孔をくすぐる。更にティーリアの豊満の胸が押し付けられる。
「うちの使い魔を誘惑しにきたんだったらさっさと帰ってくれないかしら?」
不機嫌そうなサリアが部屋の奥から顔を覗かせる。
「そんなつもりはありませんの!本当に何か謝罪をしたいのですわ!」
更にグイっと拓斗に近づく。心臓が破裂しそうな拓斗の顔はどんどん赤くなっていく。
そんな二人をサリアは引き剥がし間に立つ。
「誘惑するなら早く帰れって言ってんのよ!」
胸を睨みつけてからティーリアの顔を睨む。
「そんなつもりは本当にないんですの・・・。」
ティーリアは申し訳なさそうに俯く。
「どうしても何もないと言うんでしたら私と兄の魔法についてお教えしますの。」
その言葉に拓斗とサリアは反応を示す。
「私の得意とする魔法は距離を弄ることなんですの。相手の視界に映る私と私が放つ魔法の距離感を狂わせるのが得意なんですの。」
サリアはその言葉に納得の表情を見せる。
サリアが拘束しようとして放った魔法にティーリアが当たらず一瞬で消えたのは、瞬間移動をしたのではなく、距離を弄って自分がそこにいるように見せていたのだ。
「兄の得意とする魔法、いえ兄が使える魔法は身体強化と瞬間移動だけですの。」
瞬間移動という言葉に拓斗とサリアは驚きを示す。
「身体強化は常にかけていて、瞬間移動は視界内ならどこでも一瞬で移動できるというものですの。」
使える魔法の数の多さと戦闘力は比例しないと感じる拓斗。
「これが今の私から言える全てですの。」
全てを言い終わったティーリアはホッと息を吐く。
「ティアは何も悪くないのに大切な情報をありがとう。」
「い、いえとんでもございませんわ。」
顔を赤らめて焦るティーリア。
その様子に無性に腹が立つサリアは拓斗の横腹に肘をぶつける。
「何すんだよ!?」
突然横腹に肘をぶつけてきたサリアに文句を言う。
「別に!何でもないわよ!!」
サリアは不機嫌になるとズカズカと部屋の奥に入って行った。
(なんなんだ?)
サリアが自分の気持ちに気づくのも、拓斗がサリアの気持ちに気づくのもまだまだ先になりそうであった。




