牙を剥く世界
フルガナから溢れ出す狂気の量は今まで数回しか戦闘をしたことがないが、そんな経験不足の拓斗ですら分かるほど尋常ではなかった。
「あっれ?脚震えてるけど大丈夫?」
拓斗の脚はフルガナの狂気に充てられて震えが収まらない。
拓斗自身も何とか抑えようとするが、抑えようと思って抑えられるようなものではない。
「ただの武者震いだ。」
真実か嘘か以前にこう強気で自分に言い聞かせないと膝から崩れ落ちそうな状況なのである。
「そう?本気でぶつかれるなら何でもいいや。」
安堵する姿はとてもこれから戦闘をしようとしている姿には見えなかった。
フルガナは明らかに場違いな態度であるが、それが更に狂気を感じさせているのだ。
「アヴェリガ。」
拓斗の視界から姿を消し、一瞬にして拓斗の右隣に現れる。
一瞬で拓斗の右隣に現れたフルガナは横なぎに軽く剣を払うと、反応しきれなかった拓斗の右腕を軽く切り裂く。
拓斗は応戦しようとするが、そこにフルガナの姿は既になく代わりに背中に激痛が走る。
「ぐあッ!!」
一瞬にして右腕と背中に傷を負った拓斗は前のめりに倒れそうになるが、脚に力を入れて何とか持ちこたえる。
「んー?予想以上に弱いね君。」
一度距離を取り余裕そうに拓斗に話しかける。
「面白くないなー。」
片手で剣をくるくると回して片手で頭を掻くフルガナ。
その相手にならないと言った態度は拓斗の闘争心に火をつけた。
「そんなに面白くないんなら今から面白くしてやる・・・。」
拓斗の身体から魔力が溢れ出す。放たれている魔力と威圧は相手の狂気に負けず劣らずの迫力を持っていた。
「原初の巨人ユミルが統べる解けることのない氷の世界。凍りついたものは時を忘れ、血肉すら凍結させるだろう。ここは誰もが忘れた氷の極地。永久凍土の世界ッッ!!!」
氷の世界が学園の半分を包み込む。その世界は以前サリアたちが見た綺麗で優し気な氷の世界ではなく、外敵を確実に排除しようとする意志で溢れた氷の世界であった。
「へー、こんな魔法残してたんだ。これが君の本気?」
氷の世界のフルガナに対する外敵意識を感じ取ったのか、やや表情が硬くなる。
そして先程までの余裕が消えたのか、剣で遊ぶのをやめて拓斗に剣先を向ける。
「ああ、これが俺の全力だ。出させたことを後悔させてやる。」
「それは無理かな。」
言い終えると一瞬にして拓斗の前方に現れ刺突を放つ。
しかしその攻撃は氷によって防がれた。そしてその氷は剣先から剣を凍らせ始めると、フルガナは剣を手放して拓斗から距離をとる。
「うひゃー、こんな隠し玉があったなんて流石は人間だなぁ。」
拳を握りしめ、格闘術の構えをとる。しかし今更何をしようが既に遅く、フルガナの脚は凍らされていた。
「この世界で俺に勝とうだなんて無謀だぞ。」
続けて身体を凍らせるように氷の世界を動かすが、その前にフルガナが脚についた氷を振り払う。
そして距離を詰め、拓斗の視界周辺を何度も一瞬で飛び回る。
「この速さに付いてこられるか!?」
拓斗の全方向から蹴りや拳をぶつけるが、それがどんなに早くても氷の世界が自動的に防いでいく。
そしてフルガナは猛攻を止め、拓斗から距離をとり話し始める。
「予想以上に強いなぁ。これ俺じゃ勝てねーや。」
腕を頭上に挙げ、降参を示している。
「俺じゃ・・・ね。」
不敵な笑みを浮かべると拓斗の背後から数十人の声が聞こえてくる。
それはフルガナが魔法学園に来た時に巻物から召喚した武装した兵士たちであった。
「さぁて、どうする?」
勝ち誇ったように言うフルガナ。余程召喚した兵士たちの実力に自信があるのだろう。
兵士たちはそれぞれ剣を持ったり、魔法を放とうとしながら拓斗に接近する。
「凍てつく雪。」
氷の世界に雪が降り始める。それは白く綿のようなごく一般的な雪であったが、その真髄は触れてから発揮するのであった。
「うわぁッッ!!!」
数十人いる兵士の軍勢から悲鳴がいくつも聞こえてくる。
そこには全身を完全に凍らされた姿の兵士が何人もいた。
「雪に触れるなッ!!触れたところから凍らされるぞッ!!」
凍っていった兵士の姿を見ていた別の兵士が周辺にいる者に忠告をするが、その忠告はあまりにも遅すぎた。
大量に降ってくる雪を常人が簡単に避けられるわけもなく、兵士たちは次から次へと凍らされていく。
やがて全員が氷漬けになるのであった。
一方フルガナはそんな光景を目の当たりにして、序盤の時のような余裕そうな表情は消え、ただ驚きに満ちた表情をしていた。
「お前もあいつ等もこの世界に入った時点で負けだ。」
フルガナの方へと振り返りながら言う。
「残念ながらな。それで、どーするよ?君の友達を傷つけた俺に止めは刺さないのか?」
その言葉で拓斗の脳裏にリリアが切り裂かれた映像が過っていく。
拓斗が左腕をそっと上げる。するとそこから鋭利な氷の槍が現れる。
「止めを刺さない訳ないだろう。命を狙ったうえに仲間を傷つけたんだ。俺にそれを許す慈悲なんてない。」
拓斗の目は冷たかった。
「俺もここまでかぁ。ヴァリスト王国兵団王直属兵士フルガナ・ミストルここに死すってね。」
フルガナへ氷の槍を放とうとするが、その氷の槍が放たれることはなかった。
「アンタ今なんて言った?」
拓斗は挙げていた左腕を下げてフルガナに問う。
「ん?何って自分の名前だけど?」
質問の意図が分からないフルガナやや混乱を見せる。
「そこじゃない。アンタ今ミストルって名乗ったか?」
引っかかっていたところを問う。
「そうそう。フルガナ・ミストル。これが俺の名前ね。」
この瞬間拓斗の中で一人の人物が浮かび上がった。
その人物は昇格戦で自分が二回目に戦った相手の名前、ティーリア・ミストルであった。
「何?そんな変な名前でもないでしょ?早く止め刺すなら刺してよ。」
フルガナの言葉は拓斗に届かない。現在拓斗はフルガナ・ミストルが、ティーリア・ミストルの血縁者であるかどうかを考えているのだ。
「あーあ。君が早く止め刺さないから君の学園の先生が来ちゃった。」
デルベが遠くから雷を纏いながら走って来るのが見える。
「次会うときは本当の殺し合いが出来るといいね。」
そう言ってフルガナはデルベや教師数人に連れて行かれるのであった。そんな中でも拓斗は知り合いの血縁者を傷つけたかもしれないという罪悪感に少し襲われているのであった。




