デルベの憂鬱
魔の料理界から数日後。いつも通り人数の揃わない教室では珍しくデルベが先に来ていた。
最近学校で出くわさなかった為、拓斗は今日久しぶりに会うこととなった。
デルベは教卓の前で一人頭を抱えていると、サリアとイヴとその使い魔たちが入室したことに気づく。
「・・・・・。」
デルベのやつれた表情はまるで骸骨のようであり、目元には大きなクマができていた。
「どうしたんですか?」
そんなデルベを気にするなという方が無理であり、拓斗は声を掛ける。
すると帰ってきたのは長い溜息と短い呻きだけであった。
「かなり重症ですね。」
イヴはデルベの肩を突き反応を見るが、デルベはピクリとも動かない。
「どうしましょうか?」
リリアは困った顔で聞く。
「うーん、先生がこの調子だと話も聞けないしなぁ。」
腕を組み拓斗は悩む。
そして全員が腕を組んで何か打開策を考えているとデルベは唐突に顔を上げて動き出した。
「ぬおおおおおッッ!!!!」
奇声を挙げながら起き上がるデルベに拓斗たちは驚く。しかし拓斗たちが驚く間にデルベは早口で話し始めた。
「いきなり仕事を押し付ける職場にも唐突に予定を狂わせる王様も給料を上げない学園長も皆嫌いだぁぁぁぁッッ!!!」
心の叫びであった。不満を溜め込んだ教師が教え子の前で自分の不満を爆発させたのだ。教師としてあるまじきその姿に全員冷たい目を向ける。
しかしサリアはデルベの心の叫びに疑問を持つ。
「唐突に予定を狂わせる王様ってどういうこと?」
デルベは頭を抱え叫んでいたが、サリアの質問を聞くと動き止めて全員と向き合う。
「そのままの意味だぁ。三日後に西の国ヴァリストの王様ダーゲルト・ジェスラがこの魔法学園に来るんだよ。それのせいで一昨日から仕事詰めで寝てねぇんだ。」
拓斗以外のこの場にいるものが驚きを隠せずにいる。
「何をしに王様はここに来るのよ!?」
「何が目的でここに来るんですか!?」
「何でこの時期に王様が来るんですか!?」
サリア、イヴ、リリアの順番でデルベに質問する。
「そんなもん俺が知るかぁ!!」
火山が噴火したようにデルベの今までの徹夜で仕事をしていたストレスがここで爆発する。
「ぜぇぜぇ・・・。」
大声で叫んだため膝に手をつけ前かがみの状態になり息切れをする。なんともだらしのない姿ではあるがそれがデルベの象徴とも言えよう。
「王様がこの国に来ることってそんなにマズイことなのか?ただ見に来るだけだろ?」
拓斗はこの質問をしてから、自分が愚かな質問をしたと気づく。
全員がこんなに焦っているのにマズイことでない訳がないのだ。
「タクトォ・・・、無知は罪だぜ・・・なあ?」
デルベは拓斗にアイアンクローをしているが完全に目は笑っていない。
サリアはそんな二人を見て溜息をつくと説明を始める。
「いい、拓斗?そもそも私たちが慌てているのは王様がこの国に来ることじゃなくて、この学園に来るってことが問題なのよ。」
アイアンクローから解放された拓斗は痛む顔を撫でながら話を聞く。
「各国王様たちがこの学園に来る時って一つしか理由がないのよ。」
サリアは拓斗に向けて指をさす。
「イレギュラーの観察よ。」
拓斗は考えが追い付かず固まる。しかし、そういえば俺って人間だったなぁっと自分のこの世界での異端さを思い知る。
「恐らくタクトの観察であるとは思うが、今回はタクトだけじゃないと思うのが俺の予想だ。」
デルベはサリアの説明が終わると間を開けてから言う。
「と言うと?」
イヴはそれについて聞く。
「今回は色々と異常な上位十人だからな、それを全て観察しに来たうえで自国の戦力になる者を、この学園を卒業したのちに抜粋できるように見極めに来ると俺は予想している。」
なるほどと質問したイヴは納得する。
「この学園って南の国にあるのに西の国の戦力にできるんですか?」
南の国が貴重な戦力を手放すとは思えないと感じた拓斗はデルベに聞く。
「この学園は南の国に建っているが南の国の物って訳じゃないのよ。この学園だけはあくまでも中立。でもここから出ていく者がどこで何をしようが勝手ってことよ。」
デルベの代わりにサリアが説明をする。
「そういうことか。」
拓斗はサリアの説明に納得する。
「上位十人を任されてる俺はどう足掻いても三日後に来る王様と話す必要があんだよ。一言一言良く考えて言わないともし変なこと言ったら殺されかねん。」
デルベは小刻みに体を揺らして震えている。
そんなデルベを横目で見ているとサリアが教室の扉に手をかけ開いた。
「行くわよタクト。考えてもどうしようもないんだから、残った三日間のうちに気長に覚悟を決めるわよ。」
そういうとサリアは教室から出ていく。
拓斗はサリアの言ったことに賛成すると後を追いかけるのであった。
そして三日の時が過ぎた。
高級な装飾が施された馬車が学園の前に止まる。馬車が開くと二人の側近であろう魔法使いが先に出てきた後に西の国の王様が出てくる。
王冠を被り様々な宝石が散りばめられた服を纏う中年男性が王様、髪で片目が隠れた側近の赤毛の男が腰に掛けてある開くと五メートルはあるであろう大きな巻物を地面に広げる。
「アヴェリガ。」
そう唱えると巻物は輝き魔法陣が浮かび上がる。魔法陣がまばゆい光を放つと、三人しかいなかったそこには数十人の武装した兵士がいた。
「君たちはここで待機ね。じゃあ行こうかダーゲルト様。」
片目の隠れた赤毛の男はそう言う。
「敬語を使えフルガナ。裁くぞ。」
額に大きな傷がある体つきのいい黒髪の男はフルガナに殺気を僅かに当てる。
フルガナはそんな黒髪の男に両手を上げて降参のポーズをとる。
「降参降参、そんな怒んないでよキリュハ。ダーゲルト様もそう思うでしょ?」
へらへらと王様に突っかかるフルガナ。
「裁くッ!!」
怒りを露わにしているキリュハは今にも魔法を使おうとするがそれをダーゲルトが止める。
「こんなところに来てまで喧嘩をするんじゃない。」
騒がしい二人を睨みつけ黙らせる。
「申し訳ございません。」
「ごめんなさい。」
二人は頭を下げ謝罪をする。
「ふん、行くぞ。」
三人は学園の校舎に向けて足を運ぶのであった。
そんな三人を見届けると、拓斗、サリア、イヴ、リリアは木の陰から眺めるのを止め丸く、会議をするかのような体制になる。
「あの二人かなり強いですね。」
イヴが第一声に言う。
「赤毛の奴が使った魔法見たことすらないわ。」
サリアがイヴに続いていう。
「それにあの人私たちのことに気づいていました。」
一瞬確かに目が合ったリリアはそう告げる。
「こりゃ先生大変そうだ。」
全員の思っていたことを拓斗は口にするのであった。
((((どんまい・・・先生。))))
四人は言葉にしなくても一応デルベのことを応援するのであった。




