唐突な料理対決は危険
無事に昇格戦は終わりを迎えてから初の休みの日。
先生が先生なのでほとんど休みみたいなものであるが、そこは触れてはいけない。
(何故こうなった・・・?)
時は昼、場所はサリアの部屋。いつもは綺麗で整頓された部屋であるのに今日だけは違った。
キッチン周辺は地獄のようなオーラを放ち、そこに倒れて気を失うイヴとリリア、そして大釜を混ぜる魔女の如く鍋をかき回す魔女ことサリア。
「サリア・・・それ以上はやめるんだぁ。」
這いずってサリアに近づこうとするが身体に力が入らない。
(まずい、このままだと俺の意識が・・・。)
だんだんと薄れゆく意識。それを腕をつねることでなんとか耐える。
(なんとかしてサリアに料理を止めさせなければ!!)
力の入らない身体に鞭を打ち何とか立ち上がる。
事件は発生まで時は遡ること数時間前。
朝食を終えたサリアと拓斗は学園の庭で散歩をしていると、イヴとリリアに出会う。
自分たちの負けを知らせたとき何も言わず慰めてくれたイヴと会うのは拓斗にとって少し気まずいものがあった。
「探しましたよタクト先輩。」
「こんにちは。」
イヴ側は特に気まずいといった感情は無くいつも通りに拓斗に接するのであった。横を歩くリリアは礼儀正しく挨拶をする。
「何か用か?」
自分もいつも通りに接しようと頭の中を切り替える。
「はい、実は少し前から料理の勉強をしてて、そろそろ成果が出てきたと思うのでタクト先輩に試食をしてもらいたいんですが・・・・ダメですか?」
イヴは低い身長であるため意識していなくても今のお願いの仕方は上目遣いになってしまう。
そして男性特攻に定評のある上目遣いは当然拓斗にクリーンヒットする。
「ああ、分かった。何時ぐらいに作ってくれるんだ?」
断る理由など当然なく即答する。
「十一時ぐらいにそちらに伺います。構いませんよね?」
サリアに向けて聞くと、サリアはジーっと拓斗を見つめたまま微動だにしていなかった。
石の如く動かないサリアは何か考え事をしているようであった。声を掛けても気付きそうでないので拓斗はサリアの肩を叩くことにした。
「おいサリア。」
肩をそっと叩く。
「ひゃあ!!」
身体を揺らしながら可愛らしい声を挙げて自分の世界から帰ってくるサリア。
「ひゃあ?」
リリアは珍しいものを聞いたといった表情でサリアの驚き方を復唱する。そしてその主であるイヴも良いものを聞いたといった表情になる。
「サリア先輩もそんな可愛い声を出すんですね。」
先ほどのことを煽るように言う。
「ち、違うわよ!今のはちょっと驚いただけで・・・。」
何とか否定しようとするがサリアの顔はリンゴのように真っ赤になっていて、否定しきれていないのである。
そんなサリアを拓斗は微笑ましそうに見ていると予想外の飛び火を受ける。
「拓斗もそんな変な顔してないで助けなさいよ!」
一人で耐えきれなくなったサリアは拓斗に助け舟を求めるのであった。
しかしそんなサリアに追い打ちをかけるように拓斗は言う。
「ひゃあ?」
そんな拓斗に待ち受けていたのは気持ちいいほど綺麗に決まった鉄拳であった。
暫く顔面の痛みに悶えているとイヴは話を戻す。
「話を戻しますけど、サリア先輩の部屋でお昼を作ってもよろしいでしょうか?」
部屋の主であるサリアは何を渋っているのか、腕を組んでどこか悩んだ表情をする。
そして何か決心がついたのか顔を上げる。
「貸すのはいいけれど条件があるわ。」
何故か覇気のある声。
「条件ですか?」
突然そんなことを言われて疑問を持つ。
「簡単な条件よ。キッチンを貸す代わりに私と料理の腕で勝負しなさい。」
唐突にサリアが出した条件が謎めいているせいで場が静寂に包まれる。
イヴは拓斗に出来立ての手料理を食べさせるにはサリアのキッチンを借りるしかないが、ここで料理の腕の差を見せつけ、尚且つ拓斗の胃袋を掴むことが出来たのなら一石二鳥である為イヴが結論が結論を出すのに時間はかからなかった。
「わかりました、その条件を飲みましょう。サリア先輩が先攻で私が後攻でいいですね?」
キッチンは一人用である為先に使う順番を決める。
「わかったわ。じゃあ十一時に私の部屋でまた会いましょう。」
二人はお互いに背を向け歩き出すのであった。
場所は変わり寮のサリアの部屋。
「私は食材を買いに行ってくるからタクトは部屋でおとなしくしてて。」
数分前にそう言われた拓斗は椅子に腰掛けているのであった。
(サリアの奴料理したことあんのかな?)
あんな奴が料理を出来るなど意外過ぎると勝手な先入観でサリアというものを決めつけ始める。
そしてそこに丁度サリアが帰宅する。
「ただいまー。」
大きな紙袋を抱えるサリアは帰ってきてすぐに紙袋を机に置き、肩を回す。
「何買ってきたんだ?」
「見ていいわよ。」
許可が出たので紙袋の中身を漁ってみる。
そこから出てきたのは、調味料、香辛料、バケット、肉、緑色の謎の液体、ジャガイモ、玉ねぎ、人参、アスパラガス、キノコ、そして締めに輝く怪しい固形物。
肉やキノコはこの世界のものである為詳しい名称はわからないが、紫色の液体と輝く固形物はどう見ても異質なものであると素人である拓斗にもわかった。
「これ何?」
やや震えた声でサリアに聞くとつまらなそうに返事をした。
「何隠し味見つけちゃってんのよ。」
驚かせてやろうと思ったのにと続けて言うが拓斗の耳にその言葉は入ってこなかった。
(これが隠し味!?こんな怪しすぎる物が隠し味!?)
どう見ても食べれる物ではないその二つを拓斗は異世界の食材だと信じることで食べることへの恐怖を抑えるのであった。
そして震えて待つこと数時間。
サリア対イヴの料理対決が始まるのであった。
「それじゃあ私から始めるわ。」
サリアはキッチンに立ちそれを三人はベッドに座って見守る。
見た感じだと手際に問題はないため拓斗は安堵する。
(本当にただの隠し味だったんだ。)
ホッと胸を撫でおろす。
「私サリア先輩の料理見てきますね。」
「私も行きます。」
イヴが立ち上がりサリアの様子を見に行くとその後をリリアが追いかける。
(俺も見に行くかぁ。)
立ち上がりサリアの許に行こうと思った瞬間、二つの何かが倒れる音がした。
倒れたものはイヴとリリアであり、完全に気を失っていた。
「イヴ!リリア!」
近づこうとするがこの世のものとは思えない未知な匂いのせいで身体に力が入らなくなり床に這いつくばってしまう。
「サリア・・・それ以上はやめるんだぁ。」
這いずってサリアに近づこうとするが身体に力が入らない。
(まずい、このままだと俺の意識が・・・。)
だんだんと薄れゆく意識。それを腕をつねることでなんとか耐える。
(なんとかしてサリアに料理を止めさせなければ!!)
力の入らない身体に鞭を打ち何とか立ち上がる。
ゆっくりとだが着実に距離を詰める。
(あと少し・・・。)
もう目前まで迫ったところで気合を入れて止めに行く。
「うおおおおおおおッッ!!!」
そして拓斗の視界は真っ白になった。
目が覚めると目の前には盛り付けを綺麗にされた料理があった。横にはほとんど同じタイミングで目覚めたであろうイヴとリリアが居た。
「もう、いくらお腹が空いてるからって気を失わないでよね。」
そう言って文句を言うが、召し上がれと言ってくれるあたり優しさがある。
「「「いただきます。」」」
恐る恐る三人はスプーンでビーフシチューに掬い、口に運ぶ。その瞬間三人の目が見開く。
「「「こ、これは!!」」」
スプーンを落とし震える。見た目は美しくレストランで出ても普通なくらいである為、見た目通りの味であろうと三人は信じていたがその予想は覆された。
「まず過ぎる・・・。」
現実は甘くなく、予想の斜め下を言ったのだ。
当然訳のわからぬものを入れた料理が美味しいわけもなく三人は崩れ落ち再び意識を失うのであった。
ちなみに後日イヴが料理を振る舞ってくれたのだが、大変美味しかったとのことである。
結果サリア・ルシュレの惨敗。




