勝利への渇望
両者は睨みあう。
先ほどまで傷だらけで立ち上がることすら出来なかった拓斗は、魔力の枷を外してもらったことにより体の傷もある程度癒えているのであった。
「まだ立てるか。悪足掻きを続けるのは良いが手早く済ませろよ。」
拓斗にとっては挽回できる機会であるが、タルスからしてみれば主の許へ行こうとするのを阻害する唯々鬱陶しい状況であった。
「手早くなんて済ませるつもりはさらさらないッ!!!」
魔力が全体的に増えた拓斗は以前よりも氷の世界を自在に操ることができて、氷の世界がいつも以上に外敵を排除しようと動き出す。
「先ほどより動きが良くなったか、だがそれがどうした?」
ヒラブルスと呟くように唱えると十二個の魔法陣が光の矢を射出し、タルスを追う氷を悉く砕いていく。
拓斗の魔力が増幅されたところでタルスとの戦力差が埋まるわけではないのだ。それを実感した拓斗はとりあえずタルスから距離をとる。
「逃げても無駄だ、ヒラフュール。」
光の槍は距離をとった拓斗めがけて放たれる。開かれた距離など無いほどあっという間に拓斗の目の前まで迫る光の槍を辛うじて避ける。
拓斗は避けた後にタルスにカウンターを仕掛けようとするが、大量に放たれた光の矢で追撃を受けためそれは叶わなかった。
「イズバグッ!!」
これ以上は光の矢を避けきれないと判断した拓斗は氷の障壁で身を隠す。しかしそれも時間の問題で、強化された障壁にも関わらずどんどんと光の矢は障壁を削っていく。
(考えろ!考えろ!考えろ!考えろ!何か勝ち筋を見つけるんだ!!)
冷静さを失った頭で作戦を練るが、案の定いい案など一つも思い浮かばない。
「終わりだ人間。」
タルスあ目の前で光の槍を構えている。拓斗は考えに没頭した状態で気づかなかったのだ。
(負けるッ!!?)
負けると思った瞬間拓斗の負けたくないという強い感情が溢れ出す。その感情に魔力が答えるように蠢きだす。力が拓斗の体中を駆け抜ける。
「ああああッッ!!!!」
体外へ溢れ出した魔力は衝撃波となりタルスを吹き飛ばす。拓斗を中心として起きた衝撃波は拓斗の周りの氷すら剥がして吹き飛ばすのであった。
「負けるわけにはいかない!!!」
溢れ出した魔力とは別の魔力が拓斗を包み込む。
「原初の巨人ユミルが統べる解けることのない氷の世界・・・。」
拓斗は魔力に包まれたまま詠唱を始めると当たりの氷は震えだす。
観客席に座るデルベはその姿を見て焦りを感じる。
(あのバカ野郎!!ここでそんな大技使ったら周りへの被害が尋常じゃねぇぞッ!!)
詠唱を始めた拓斗の許へと駆け抜ける。
「凍りついたものは時を忘れ、血肉す・・・。」
「そこまでだ。」
拓斗は四肢をそれぞれ抑える教師と、拓斗の真後ろから頭を狙うデルベによって詠唱を止められる。
「その魔法は危険すぎる。それ以上続けるというなら力尽くでも止めるぞ。」
デルベの目は真剣そのものであり、デルベが忠告をすると四肢を抑える教師たちの力が強くなる。その力強さは、お前の腕や足なんて直ぐ折れると告げているようであった。
拓斗は警告を受けると恐る恐るデルベの方を横目で見る。
「で、デルベ先生・・・?」
震えている唇で何とか発したその言葉はとても弱々しかった。
「タクトその魔法はこんな時に使うものか?」
サリアと共に手に入れた奥義。拓斗の今の行為はそれを侮辱するかのような行為であった。
拓斗は視界が真っ白になる。悪意が無くても自分は観客を巻き込もうとしたのだ。罪悪感が胸を締め付ける。
「悪いなタクト少し寝ていてくれ。」
軽い電流を拓斗に流し気絶させる。力を失った拓斗を教員が受け止め控室へと連れて行くのであった。
デルベはその姿を見届け、動きの止めこちらを向いているサリアとティーリアを見ながら観客席に響くように言った。
「この戦いはサリア・ルシュレの使い魔による反則でティーリア・ミストルの勝利!!」
サリアは納得いかないといった表情であったが、それよりも拓斗が気になり控室へと走って向かうのであった。
ティーリアが勝敗に唖然としていると、ティーリアの許へとタルスが歩いて近づいてくる。
「これで良かったのですか?」
戦闘での疲れを見せぬように凛として振る舞うタルス。
「勝ちは勝ちですわ。あまり気分のいい勝ち方ではありませんでしたが、仕方ありませんわ。」
あまりにも強大すぎる魔法のため反則負けにさせられたサリアと拓斗。ならそれを受けた自分たちは絶対に負けていただろうと思うと煮え切らない気持ちなのである。
「・・・次こそは負けませんわ。」
試合に勝ち、勝負に負けるとはこのことなのであろう。
時は遡ること拓斗とタルスが戦闘を始める前。
主同士争いはサリアの一方的な威圧であった。
「そんなに闘志を剥きだしてはしたないですわね。」
戦う気満々であるサリアを煽るように見下す。
「ここは戦場よ。貴女の方が場違いだって気付かないの?滑稽ね。」
サリアはティーリアの安い挑発に乗らず、逆に挑発し返す。しかしそれにティーリアは動じず、ゆっくりと口を開く。
「野蛮な貴女には分からないはずですわ。戦場でも優雅に居てこそ淑女と言うものでしてよ。」
サリアは野蛮という言葉にやや反応する。既に怒る寸前と言ったところであろう。
その瞬間をティーリアは見逃さなかった。
「貴女に召喚された人間は可哀想なことですわね。私の下へ召喚されていたら、貴女のような下品で野蛮な者よりも上を目指せましたのに。」
ここにきてティーリアはサリアに対して最高の挑発をする。
サリアは怒りに体を震わせる。その表情は般若の如くであった。
「そこまで言うなら見せて貰おうじゃない!!淑女の実力をッ!!」
カプトルを唱えティーリアの足元から光の縄が放たれ縛ろうとするが、その縄がティーリアを縛ることはなかった。
「あらあらどうしました?」
いつの間にか光の縄が放たれた場所にティーリアの姿は無く。全く別の場所に悠々と立っているのであった。
「次こそ!レステロイン!!」
鎖がティーリアに放たれるが、その鎖がティーリアを縛ることはなかった。
「ッッ!!?」
当然サリアは驚きを隠せない。ティーリアが元々立っていた場所からティーリアは突然消えて別の場所へといつの間にか立っている。二度も同じ現象が起きているのだ。
「随分と驚いているようですわね。見た感じですと貴女は拘束魔法が得意なようですわね。」
手を口に当て優雅に笑う。
「残念ですわ。貴女の魔法は私に対して相性最悪でしてよ。」
ティーリアの言葉にやや焦りを感じ始めるサリア。とても嘘を言っているように見えないティーリアの態度を見て拳を握りしめる。
「それが何だって言うのよッ!!エンブルッ!!」
優雅に微笑むティーリアの足元から囲むように鉄格子が現れ、ティーリアを直方体の檻に閉じ込める。
「これならどう!?」
全体を囲ってしまえば逃げれまいというサリアの考えである。
しかしその考えは甘すぎた。
「ヴァテン。」
水球が勢いよくサリアに当たり吹き飛ばす。落ちた衝撃でサリアの肺の中の空気が全て吐き出されるがすぐに体制を立て直し先ほど生成した檻を見る。
そこにはもうティーリアの姿はなかった。
「ふふふ、ヴァテン程度の魔法でも直撃すれば結構ダメージにはなるんですのよ。」
いつの間にか檻から抜け出していたティーリアは水浸しでこちらを睨むサリアを嘲笑う。
「それでは蹂躙されてくださいませ。」
サリアは今までにない危険をティーリアから感じた。
相手の能力が何もわからない恐怖、そして自分よりも格上であろう者に対する緊張。その二つがサリアの感覚を鈍らせ始めるのであった。




