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枷

昇格戦二日目の朝。

拓斗とサリアは前日にイヴから辞退したことを聞かされたため、七位と戦うに当たっての作戦を練っていた。

「今回も先手必勝よ。」

案という案もなくそんなこと言い出すサリア。バルターとの戦闘でやや追い込まれたのをもう忘れたのだろうか。

「今回もって訳にはいかないだろ。七位についてはどれぐらい知っているんだ?」

作戦を練るためには情報整理が大切である。しかしそんな拓斗の質問に対してサリアはあからさまに目を逸らす。

「まさか・・・。」

拓斗の中に嫌な予想が生まれる。

「七位のことを何も知らない?」

サリアの逸らす目を見て、知っていてくれと願うが現実とは非常である。

「な、何も知らないわ・・・。」

拓斗の時が制止する。よもや予想通りになろうとは思わなかった驚きもあるがそれ以上にサリアに対しての呆れが拓斗の時を止めているのである。

「本当に何も・・・?」

何か一つでもいいからと情報を求めるがサリアは相変わらず目を逸らす。

「使い魔の種類すら?」

拓斗の質問に対してサリアは無言で頷く。その瞬間二回戦敗退という言葉が拓斗の脳裏を過る。しかしそういう訳にもいかないとその考えを振り払う。

「どうする?」

サリアが申し訳なさそうに縮こまりながら拓斗に聞く。

「うーん、今回の件は一つ分試合が無くなって情報収集の時間が減ってたからな。」

頭を捻りに捻りいい案を出そうとするがなかなか思いつかない。しかし拓斗は何か閃いたのかサリアの肩に手を置く。

「先手必勝で行こう。」

この二人に作戦なんてものはないのだろう。


場所は変わって決闘場。控室に向かう途中拓斗とサリアは見知らぬ女性から声をかけられる。

二人に声をかけた女性は肩より下まで伸びた金髪にカールがかかり、垂れ目で気品のあるまさにお嬢様といった包容力のありそうな人であった。

「ごきげんよう。こうしてお会いするのは初めてですわね。私はティーリア・ミストル、ティアとお呼びください。以後お見知りおきを。」

優雅にあいさつを済ませて控室へと歩いていくティーリアの姿は淑女そのものであった。そんな姿に拓斗は見惚れているいると、サリアは拓斗の耳を引っ張り控室に連れて行くのであった。

「痛い痛い!!」

拓斗は痛がった素振りを見せるがサリアの手が緩むことはない。結局拓斗は舞台に出るまでずっと引っ張られた耳を触っていた。


拓斗とサリアが舞台に出るとそこは昨日と同様に観客の熱気に満ちていた。昨日と違う点と言ったら今回は対峙している相手が違うといったところだけである。

先程会ったティーリアの横にはその使い魔であろう青年が立っていた。その青年は王子様と言った風格で栗色の髪が風で揺れている。しかしそんな容姿や髪よりも明らかにおかしな点があった。

「ありゃなんだ?」

青年の額から生えた一本の凛々しい角を見て拓斗は思わずサリアに聞いてしまう。

「見ればわかるでしょ、幻獣種よ。」

当然といった風に言うサリアに少し戸惑うが考えてみればそうかと落ち着くのであった。そんなやり取りをしていると審判がコインを上空に弾く。

お互いが睨み合いコインが落ちるのをジッと待つ。そして時は来た。

初めに動き始めたのは拓斗であった。

「ニヴルヘイム。」

前回同様で真っ先にニヴルヘイムを使う。するともう見慣れてしまった氷の世界が広がり始める。

「ふむ。前回の戦闘と同じ手段を使うか。舐められたものだな。」

青年は襲いくる氷を避ける。

「タルスは人間をお願いしますわ。サリアさんの相手は私が。」

主は主、使い魔は使い魔が相手をする。この戦い方が最も戦いやすく分かりやすいのだ。

「ヒラブルス。」

タルスの背後に手のひらサイズの魔方陣が八つ現れる。そしてその魔方陣全てから光に矢が数本放たれる。その光の矢は防御の間に合わなかった拓斗の右足に突き刺さる。

「ぐっ!!」

右足に光の矢が刺さり拓斗は膝を着いてしまう。光の矢は刺さってから数秒すると消散していった。

「どうした人間?今のが防げないようじゃ俺には勝てないぞ。」

タルスは更に四つ魔方陣を背後に構える。計十二個の魔方陣が拓斗に向けられる。

(こいつはやべぇな。)

今までの戦闘を遥かに上回る絶望に拓斗は冷や汗を流すのであった。

「グラーシア。」

とりえず相手に攻撃させまいと氷柱を三本タルスに放つが、放たれた氷柱は全て魔方陣から放たれた光に矢によって木端微塵にされるのであった。

「イズバグッ!!」

氷柱が破壊されると標的を拓斗に変え、連続で光の矢を射出する。氷の障壁がどんどん削られていく鈍い音が拓斗をどんどん焦らせる。

(どうするどうする!!?考えろ!!今までの方法じゃあいつは倒せない!!何かいい策を・・・)

焦っていると氷の障壁を削る音が止まる。

様子をうかがう為に氷の障壁を背にして覗こうとしたら視界が何かに隠される。

「ぐあッ!!」

衝撃で何が自分の視界を塞いでいたかを理解する。

(もうこんな近くまで!?)

拓斗の視界を塞いだのは拓斗に接近したタルスの蹴りであった。

「かなり期待外れだぞ人間。」

氷の障壁に激突した拓斗は氷の障壁へと体をもたれ掛らせる。軽い脳震盪を起こして視界が安定していない。

「本当に残念だ。ヒラフュール。」

タルスの慈悲のない追撃が拓斗を襲う。

「があぁぁぁぁッッ!!!」

魔方陣から放たれたものは、先程までの光の矢よりも太く鋭く長い光の槍であった。その光の槍が拓斗の右肩を容赦なく貫いたのだ。握られていたグリモワールが離れる。

「氷の世界しか作れないお前じゃ俺の相手にはならなかったことだ。」

昇格戦で殺傷は禁止されているのでタルスは光の槍を拓斗の腹部に目がけて放とうと構える。

「楽に終わらせてやる。」

光の槍は避けることのできない拓斗の腹部を貫き拓斗は声を挙げそうになるが、血を吐き出す方が先であった。

拓斗の意識は段々と薄れていき、とうとう意識は無くなるのであった。


(ここは・・・?)

何もない空虚な暗闇に堕ちていく。

(そうだ・・・俺は負けたんだ・・・・・。)

タルスの圧倒的な戦闘力の前に敗北した拓斗を喪失感が包む。

(半端な才能だけならここまで限界ってことか。まぁ頑張れた方なのかな。)

グリモワールに記された魔法を使うだけの自分はここで限界なのだと決めてしまう。しかしどこか決めきれない自分に腹が立ち始める。

(ここまで頑張れたからいいだろ!!学園で九位だぞ!!充分だなはずだ!!なのに、なんで・・・)

手に力が籠る。指が食い込み今にも血が出てきそうである。

(なんでこんなに悔しいんだ。)

辺りが暗闇から青い世界へと変わる。青の世界に変わるとともに拓斗の前に巨大な竜に似た蛇が現れる。

「うわぁ!!」

驚きで声を挙げるが蛇は何も反応をしない。それどころか何かを訴えかけるように拓斗を見つめている。そんな蛇を不思議に思った拓斗は目を閉じて蛇に意識を集中する。

(枷を一つ外してやろう。)

どこかから聞こえた優しい声。拓斗は驚きに目を開くとそこは青い世界ではなく、意識が落ちるまで自分が戦っていた決闘場であった。

タルスが拓斗に背を向けてティーリアの許へと向かおうとしているところである。

タルスに止めようと立ち上がろうとすると体の痛みがないことに気づく。傷はまだ塞ぎきってはいないがほとんど癒えている。そして溢れる魔力のおかげで体が軽く感じる。

(これならいける。)

立ち上がりタルスに声をかける。

「待てよ。」

タルスは声をかけられるとピタッと止まり、ゆっくりと拓斗の方を向く。

「まだ立てたのか、諦めの悪い人間だ。ヒラブルス。」

十二個魔方陣が現れその全てが拓斗を狙う。

「第二ラウンド、挽回はここからだ。」

氷の世界が拓斗の声に応えるかのように動き出す。

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