一回戦
時が経つのは早いもので現在昇格戦当日。
「昇格戦は下から順々に戦うらしいから私たちの初戦はバルターよ。」
決闘場の控室で拓斗とサリアは向き合っている。
「またあいつらと戦うのか。」
拓斗のこの世界での初陣はバルター戦だった為あまりいい思い出ではないようだ。
二人は特に作戦があるわけでもなく余裕な感じではあるが、会場の係員から呼びかけがかかると二人の緊張は一気に高まる。
「先手必勝、いい?」
「了解。」
決戦場の舞台へと足を運ぶ。この戦いに自分たちが降格するかどうかがかかっているのである。
舞台に出るとそこは観客の熱気で満ちていた。反対側からはバルターとメロナが出てくると更に歓声が増す。うるさいぐらい辺りの声にバルターは頭を押さえているが、メロナは観客に手を振って楽しそうにしている。
「最初からそんな調子で勝てるの?」
頭を押さえるバルターを見て煽るサリア。
「ふん、随分余裕そうだが今回はこの前にようにはいかせない。」
バルターは頭を押さえていた手で眼鏡を上げる。二人の牽制が終わると審判がサリアとバルターの間に立ちコインを上空に弾き、コインが舞い上がっているうちに審判は裏方に走って移動する。
舞い上がったコインが降下を始め、やがて地面に叩きつけられた。
「ニヴルヘイム。」
試合開始の合図とともに詠唱なしの方のニヴルヘイムを唱え、戦場を氷の世界へと変貌させる。詠唱アリの方であると決闘場全てを凍らせてしまうため今回は使わないのである。
氷の世界へと変わった戦場はバルターとメロナに牙を剥く。氷の刃、氷柱、鎖などが容赦なく二人を襲う。
「鬱陶しいな!」
竜人族であるメロナは鋭い爪や強靭な尻尾で全て砕くが、バルターは避けるので精一杯な様子であった。しかしそんなバルターに畳み掛けるようにサリアは拘束魔法を唱える。
「レステロイン。」
射出された鎖は真っ直ぐバルターへ向かって行く。
「ヘルフィーレ!」
大きな火柱がバルターの前に現れ鎖を溶かす。
「ふー危なかったねー。」
メロナが唱えた魔法は明らかに誰もが使えるレベルの炎の魔法ではなかった。
(メロナは炎の魔法使い、流石竜人族ってところか。俺とは相性最悪だな。)
真っ先にメロナを倒すためにメロナへ意識を集中させると、氷の世界はメロナに怒涛の攻撃を仕掛ける。
「おっと、相性が最悪ってわかって早く倒そうとしてるね。」
図星を突かれ内心ドキッとするが拓斗はメロナへの攻撃をやめない。
「でもこの程度じゃ竜人族には効かないよッ!!」
地面を大きく蹴りつけ拓斗へ向かって一直線に距離を詰める。当然拓斗は迎撃を試みるが鋭い爪は氷を物ともしない。
「人間への必勝法は距離を詰めて肉弾戦に持ち込むことって教えてもらったんだ!」
もう拓斗との距離は数メートルしかない、拓斗は冷や汗を流す。
「くッ!イズバグ!!」
「効かないよ!!」
氷の障壁でメロナの進行を止めようとするが呆気なく砕かれる。拓斗の目の前にまで迫ったメロナは尻尾で拓斗を叩き飛ばす。
「タクトッ!!」
サリアが救援に行こうとするがその道をバルターに塞がれる。
「行かせるとでも思ったか?」
サリアの行く道を阻むバルター。
「退きなさい。退かないなら貴方を倒してから通る!レステロイン!!」
再び鎖を射出する。
「フラムリア。」
放たれた火球は鎖を溶かしサリアの許へと飛んでいく。サリアは間一髪でそれを避ける。
「全部溶かせるものだって思わないことね!カプトル!!」
バルターの両足の下に現れた魔方陣から光の縄が放たれバルターの両足を拘束する。
「レステロイン!」
バルターの足を絡め捕ったサリアは鎖で上半身を拘束する。
「ぐうッ!!」
身動きの取れなくなったバルターは暴れるが拘束が解けることはなかった。
「私の方が上手だったみたいね。拘束は私の得意分野よ。」
バルターの悔しそうな表情を嘲笑うかのようにして見下す。そしてサリアは拓斗の許へと向かうのであった。
尻尾で叩き飛ばされた拓斗は自分の後ろに柔らかな雪を生成する。その雪はクッションになり吹き飛ばされた衝撃を和らげる。
「へぇそんなこともできるんだ。」
有利な状況であるメロナはゆっくりと拓斗に近づく。
「随分余裕そうだな。」
「そりゃね。今の状況余裕でいられるのは当然だと思うけど。」
氷使いと炎使い、誰がどう考えても炎使いの方が有利である。そんな状況下で余裕をかますメロナは追い詰められたネズミ弄ぶ蛇のようであった。
「いつまでも余裕でいられると思うなよ。グラーシアッ!!」
三メートルを超える氷柱がメロナを襲う。
「だから効かないって!ヘルフィーレッ!!」
氷柱は火柱によって完全に溶かされる。さらに火柱によって拓斗の視界は塞がれる。そこに向かってメロナは拓斗の意表を突くために竜人族の炎の効かぬ体で火柱を正面から突き抜ける。
(今だ!!)
火柱の中にメロナの体が入った瞬間拓斗は氷の世界に大量の魔力を送る。
「凍れッ!!!」
火柱からメロナの顔が出てきた瞬間火柱は凍りついた。
「嘘ッ!?」
炎が凍らされたことにメロナは驚きを隠せない。そんな驚くメロナの眼前に氷の刃を向ける。
「俺の勝ちだ。降参しろ。」
「ううー、わかってるよ、降参だよ降参。」
拘束され戦闘不能なバルターと降参したメロナ。バルターとメロナはサリアと拓斗の前に敗北するのであった。
「勝者はサリア・ルシュレ!!」
審判がサリアの勝利を告げると会場はまた歓声に包まれる。拓斗は氷の世界を解きサリアと共に会場にいるものへと手を振る。
「何とか今の順位は守り切れたわね。」
控室へと足を運ぶ途中サリアは言う。
「守り切った次からが本番だな。」
やや疲れ気味な声色で返事をする拓斗。
二人の昇格戦初日はこうして幕を下ろすのであった。
その日の夜。サリアと拓斗が部屋で体を休めているとそこにイヴとリリアが現れた。
「今日はお疲れ様でした。どうでしたか一回戦?」
「二回戦の相手に話すつもりはないわよ。」
九位であるサリアと拓斗の次の相手は八位であるイヴとリリアである為、自分たちの情報はできる限り渡さないとするサリア。
「実はその件なんですがね。」
リリアが申しなさそうに切り出す。
「イヴ様がサリアさんとタクトさんとは戦うつもりはないと学園長に言い、今回の昇格戦は辞退したのです。」
「はい?」
サリアは何を言っているんだといった表情になる。
「そのままの意味ですよ。サリア先輩とタクト先輩は私たちと戦わずして八位に上がれたということです。もっと喜ぶべきだと思いますが。」
喜ぶべき場面ではあると思うサリアと拓斗だがそれ以上にイヴの大胆さに驚くのであった。
「よく学園長相手にそんなこと言えたわね。」
「私たちは一度タクト先輩に負けている身ですしね。昇格戦で戦うつもりは最初からありませんでしたよ。」
驚きを通り過ぎて呆れるサリア。
「本当にいいのか?」
拓斗はイヴに質問する。
「はい。タクト先輩の力になれるなら何よりです。あの時の恩は私の一生を使って返させてもらいます。」
なんていい子なんだと拓斗は内心思うのであった。
「それでは私たちはこの辺で失礼しますね。二回戦楽しみにしてますね。」
そう言って二人は部屋から出て行くのであった。当初予定していたこととイヴが無条件敗北することによってだいぶ状況が変わってしまったが二人は次の戦いの為に今日はゆっくり眠りにつくのであった。




