捨てられる恐怖
昇格戦の為に各自試行錯誤する中、拓斗はイヴに呼び出しをもらった為現在イヴの部屋にいる。拓斗、サリア、イヴ、リリアと女の子の部屋で五人中一人だけ男と拓斗にとっては気まずい空間であった。
ぬいぐるみや小物など可愛らしいものが数個置いてありほのかに香る甘い香りに拓斗が顔を赤くしているとイヴが口を開いた。
「今日は呼びかけに応じてくれてありがとうございます。」
にこっと可愛らしい笑顔を拓斗に向ける。そしてゆっくりとサリアの方を向くと不機嫌そうな表情になり目を細くする。
「サリア先輩を呼んだ覚えはないんですけど?」
「先輩に対して随分冷たいじゃない?私は拓斗の主人だから同行したまでよ。」
主人という部分をやけに強調してイヴを得意げな顔で見る。
「・・・この際もういいです。サリア先輩はそこの椅子にでも座っていてください。」
各部屋に一つずつ置いてある勉強机の椅子を指さす。
「タクト先輩は私のベッドに座ってください。」
はにかみながら言うイヴ。イヴの指示通りベッドに座った拓斗は今回自分たちを呼んだ件について聞こうとする。しかしそれはイヴが拓斗の膝に座ることで遮られた。
「な!?イヴ!!?」
当然驚きが隠せない拓斗は焦る。小柄なイヴは拓斗の膝にちょうどいいぐらいに収まっている。
「ちょっと何してんのッ!?」
サリアが怒りに顔を染め、立ち上がる。
「別にタクト先輩は嫌がってませんよ?サリア先輩がとやかく言う問題じゃないはずです。」
先ほどのサリアのように得意げな顔をするイヴにサリアは歯を食いしばるのであった。バチバチと二人の間に火花が散る。
拓斗は二人が一緒にいると絶対にこうなるなとため息をつき止めに入ろうとする。
「二人ともちょっと落ち着こう。」
「タクトは黙ってて!」
「タクト先輩は黙っていてください!」
解せないが拓斗は二人の威圧に負けて黙るしかなかった。
この無謀な争いが数分間続き、最終的にはイヴが拓斗の真横に座るということで話が落ち着くのであった。
「それで今回の要件って何なんだ?」
拓斗は落ち着いたイヴに対して質問をする。
「要件というよりも報告と提案ですね。」
人差し指を立ててイヴは言う。
「報告の方に関しては私の得意とする魔法が見つかったことです。」
サリアが少し反応する。
「私が得意とするのは水魔法です。氷魔法のタクト先輩とは相性最高です。」
嬉しそうにするイヴは微笑ましいものであったが、サリアの方は暗い表情で俯いている様子であった。
「そして提案の方はですね、私が得意な魔法を探すのを手伝ってあげようかという提案です。」
提案した本人は純粋に手助けをしたいつもりであったのだが、今の焦りが見えるサリアにはその言葉は皮肉にとれた。
「必要ない。私は私で見つけ出す。」
そう言うと椅子から立ち上がりイヴの部屋から出て行ってしまった。拓斗はその後を追おうとするがリリアに手を掴まれる。
「待ってください。今は追ってはサリアさんの為になりません。イヴ様が得意な魔法を見つけた時も私抜きの一人でしたから、きっとサリアさんも一人の方が見つけやすいと思います。」
リリアは真剣な表情であった。
「たまには使い魔抜きの一人の時間がある方がいいのかもしれませんね。」
そう言ってリリアは拓斗の手を離す。
(サリアのやつ大丈夫かな・・・。)
リリアの話を聞いても拓斗の不安は募る一方であった。
イヴの部屋を飛び出したサリアは大股で校舎の外にあるベンチに向かっていた。中庭にあるベンチであったら気も紛れるだろうという考えからであった。
(何よ何よ!ただ得意な魔法が見つかっただけであんな嬉しそうにしちゃって!)
焦る。ひたすら焦るサリアの歩幅は次第に大きくなり気づいた時には中庭のベンチについていた。サリアはゆっくりと腰をかける。
(私だってもうすぐ見つけられるはずよ。)
ここでサリアは自分の感情に異変を感じる。
(もうすぐ見つけられる自覚があるのに何でこんなに焦っているの?)
どこからかやってくる焦り。頭を捻らせひたすら原因を考えているとイヴのセリフが頭を過る。
(イヴの得意な魔法とタクトの得意な魔法の相性がいいことに焦りを感じている?)
こんなどうでもいいことに焦りを感じている自分を不思議に思う。
(もし私が全然相性の良くない魔法が得意だったら捨てられる・・・?)
最悪な想像をしたサリアは走り出した。
(嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ!!!!)
一刻も早く見つけなければと図書館に走るのであった。
一方サリアが部屋から飛び出した後拓斗はイヴとリリアに昼食に誘われてカフェテリアに向かっていた。
カフェテリアの直前まで三人で来るとそこにはオオカミのような耳と尻尾の生えた男が立っていた。
「ヘルガ・バストゥフ、何か用ですか?」
完全にこちらを威嚇しているヘルガに対してイヴは言う。
「あぁん?テメェに用はねぇよ八位。俺が用があんのはそこの人間だ。」
獣が獲物を捕らえたかのような目で拓斗を見る。
「おい人間一つ聞かせろぉ。」
少しずつ拓斗との距離を詰める。
「自分が周りと違うことに違和感を覚えたかぁ?」
拓斗は予想外に普通な質問に面食らう。
「違和感を覚えたことなんてない。」
その返答にヘルガは体を硬直させる。
「・・・そうかぁ。じゃあな人間、いい答えを聞かせてもらったぜ。」
拓斗たちの横を過ぎ去り消えていった。拓斗は言葉の意味をまるで理解できなかったが、そのままイヴとリリアとカフェテリアに向かおうとするが拓斗は足を止める。
「イヴ、リリア申し訳ないんだけどやっぱり昼食は一緒に食べられない。」
サリアのことが気になる拓斗はとても昼食が食べられる気分ではなかった。
「・・・わかりました。行ってあげてくださいサリア先輩のもとへ。」
何かを悟ったイヴは言う。
「ありがとう。この埋め合わせはいつか絶対にする。」
拓斗はイヴとリリアに背を向けて走り出す。
(悔しがってるあいつならきっと図書館にいるはず!)
走る速さはどんどんあがっていくのであった。
本を読み漁るサリア。急げ急げと自分の心が体をどんどん動かしていく。
(何で!?何でよ!!?)
自分にピンッとくる魔法が一切見つかるどころか焦るあまり文字が碌に読めていないのだ。そして新しい本をとりに行こうと立ち上がるが、足を引っ掛けて大量の本とともに倒れてしまう。
蹲ったまま涙が溢れる。
「助けて・・・助けてよ・・・・タクト・・・・・。」
今にも消えてしまいそうなその声は誰にも聞こえることはなかった。
そんな倒れて蹲っているサリアの横をエルが通りかかる。
「大丈夫かいサリア!?」
すぐに駆け寄る姿はまさに紳士の鑑であろう。
「体調が悪いのかい?医者を呼んだ方が・・・。」
サリアを抱えて医者を呼ぼうとするがその行動はサリアによって阻止される。
「いいの・・・。そんなことよりもタクトをここに連れてきて。」
拓斗と会いたい。今はそれだけがサリアの心の中を占めていた。
「・・・それは無理だ。僕で良ければ力になる。」
どこか悔しそうな表情を浮かべたエルはサリアのお願いを聞き入れなかった。
「・・・・わかった。なら自分で行く。」
ふらふらと歩く拓斗を探しに。
「無茶だ!」そんな精神状態で無理に決まってる!」
エルが止めに入るがサリアはそれでも止まらない。歩く先に拓斗がいることを信じて。
「サリアぁッッ!!」
頬が緩む。探し求めていた人が、今最も必要としていた人が目の前に現れる。足の力が入らなくなり倒れそうになるがそれを拓斗は受け止める。
拓斗の腕に収まったサリアは消えそうな声で言う。
「私を捨てないで・・・・。」
思いつめた少女追いかけなかった自分を許せなくなった瞬間であった。
「俺はサリアの使い魔だぞ、捨てるわけないだろ。」
優しく微笑みかけるとサリアはゆっくり眠りにつくのであった。




