目覚めの前
昇格戦の通達を受けて一週間が経過した。各自が得意とする魔法を模索するため部屋に籠る者もいれば決闘をひたすらやる者と別れていた。
拓斗とサリアは図書館で本を探しては読み漁る毎日を過ごしていた。
「・・・。」
「・・・。」
魔法の本を読みふけるサリアを暇そうに見る拓斗。あまりにも暇すぎて欠伸が出るほどである。
「・・・なぁサリア。」
「・・・何よ。」
暇な時間に耐えられなくなった拓斗は、魔法の本を熱心に読んでいるサリアに声をかけるが、サリアはそれに対して不機嫌そうに返事をする。
「そろそろ休憩にしないか?もう三時間も読みっぱなしだぞ。」
「私はそれでいいのよ。早く得意な魔法を見つけて昇格戦までに使えるようにしなきゃいけないんだから。」
もう何冊目になるかわからない魔法の本。当然拓斗には何が書いてあるかわからないためサリアの手助けをすることなどできない。
それでも暇な拓斗は自分の持つグリモワールを読むことにした。
読める魔法と読めない魔法が書かれた魔道書に目を通す拓斗は今まで忘れていた大事な出来事に気づく。
(何で俺の使う魔法は他の奴らより大火力なのに魔力が切れないんだ?)
周辺の世界すら変えてしまうニヴルヘイム。代表的な高火力魔法であるニヴルヘイムは、バルター戦の時に初めて使用した魔法である。
(バルターと戦った時には気を失ったのに先生との戦いではほとんど負荷がなかった。)
特に体に異変があったわけでもないのにデルベとの戦闘では負荷が全くなかったこのに違和感を覚える。
「そろそろ行くわよ。」
席を立ち拓斗に声をかけるが、拓斗は返事をするどころか反応すら見せない。
(ニヴルヘイムを使うことで体が慣れたのか?いやそれとも俺の魔力が底上げされた?いや・・・)
自分の世界へと入っている拓斗にサリアの声は聞こえない。
「ちょっとタクト。聞いてるの?」
何度も声をかけ続けるサリア。
(人間としての何かが目覚めた?そんな都合のいい話があるか?)
頭をひねり続ける。
「タクト?」
だんだんと心配そうな声へと変化するサリア。
(いやでもラノベの主人公とかはこういう場面で力に目覚めたりするのが鉄則なはず・・・。」
悩み事を続けていると拓斗の耳元にサリアが顔を近づける。
「タクト!!」
ようやくサリアに気づいた拓斗は驚きで椅子から転げ落ちる。
体に痛みを感じるが図書館から出る準備のできているサリアを確認すると拓斗は、立ち上がって制服に着いたほこりを払い落す。
「何か悩み事?私で良ければ相談にのるわよ。」
心配そうに拓斗の顔を覗き込むサリア。
「いや・・・特にない。」
目をそらししてごまかそうとする拓斗。
「目をそらして変に間を開けるあたり嘘をついているとしか思えないのよ。」
ジト目で拓斗を見るサリア。
「私はタクトの主人なんだからタクトのメンタルケアも必要なの。わかったら洗いざらい話しなさい。」
人差し指をピンと立て拓斗に説明を求めるサリアは、少し気恥ずかしそうであった。
「・・・わかった話すよ。」
契約関係であるサリアに隠し事をしたくもないと判断した拓斗は結果的にサリアに相談するのであった。
一通り拓斗の相談を聞き終えるとサリアはうーんと唸りながら考え出した。
何度も頭をひねった結果最終的にサリアは机に突っ伏しギブアップするのであった。
「私じゃ何も思いつかなったわ・・・。何よその訳の分からない悩みは・・・。」
机に顎を乗せたまま拓斗を見上げる。
「そうは言ってもな、俺にもよくわからないんだ。この謎について知っておいた方が昇格戦の役に立つかもしれないだろ?」
再び二人で考えるが、結局答えない出なかった二人はため息をつく。
そんなとき図書館の隅で話している二人の許にデルベが現れる。
「お前ら図書館で勉強か?感心だなー。」
全く感情の篭っていない褒め言葉はデルベの得意とするものと言っても過言ではないであろう。
「それで?二人揃ってため息ついてどうした?先生が相談に乗ってやろう。」
頭を掻きながら椅子に座りニヤニヤとするデルベ。この教師に質問するのは癪であるのかサリアは口を開こうともしない。そして結局拓斗がデルベへと相談をすることになるのであった。
「なるほどなぁ。そりゃ人間の持ってる才能ってやつだろ。」
「才能?」
現実世界にいるときに全く縁の無かったその単語を拓斗は聞き返す。
「おう。人間には亜人と違って何かしら一つ絶大な才能、言い方を変えれば能力があるんだ。」
やけに人間について詳しいデルベの今の表情はいつものだらけた様子ではなく、生徒に授業を行う教師であった。
「お前の能力は何だかわからんが、その能力が知れないってわけでもないぞ。」
「ちなみにどうやってですか?」
ドヤ顔で拓斗とサリアを見るデルベに拓斗は呆れ顔で質問する。
「そんなの簡単だ。元軍人ナメんなよ。」
そう言って拓斗の額に一指し指を添えると淡い青白い光がデルベの一指し指の指先から現れる。
「軍に居たとき極稀に能力を持つ亜人をこれで解析したんだ。慣れれば誰でも使える超簡単な魔法だぜ。」
デルベは目を閉じて拓斗の能力のビジョンを見る。
そこには一匹の龍に似た巨大な蛇が居た。絶大な力を持つ蛇のビジョンを見たデルベは汗を滝のように流し始めた。
「・・・・・こいつはなかなか。」
息がきれそうなデルベを見て驚く拓斗。
「タクト・・・。お前の能力かなり大物だぜ。」
デルベが何を見たのか気になる二人は即座にデルベに拓斗の能力について聞こうとする。しかしデルベは手を拓斗の方へと突出し回答を急ぐ二人を抑える。
「そう慌てるなって、すぐ教えてやるからよ。それよりタクト、お前の能力は今までに見たことないぐらい強力だがまだ完全に目覚めきってないぜ。」
「・・・というと?」
「大体三分の一かそれ以下だ。」
「・・・。」
低すぎる値に拓斗だけでなくサリアも表情が渋くなる。しかしそんな二人を見てデルベは先ほどの言葉に訂正を加える。
「目覚めきってないとは言ったけどそれでも十分化け物レベルの能力だ。流石は人間としか言いようがねぇ。」
実力者であるデルベが絶賛する拓斗の能力へと興味が更に出る。
「タクトの能力は無限の魔力。無尽蔵の魔力だ。」
衝撃の回答に場が静まり返る。予想していたものよりも数段上なその能力に拓斗もサリアも息を呑む。
「そういう訳だ。これ以上手助けするつもりはねぇから後は自分たちで何とかしな。」
椅子を引き立ち上って歩いて行ってしまったデルベ。二人はそんなデルベの背中を見ていることしかできなかった。
デルベが去って、二人は唖然としたまま時を過ごすこと数分。
「なぁサリア。」
静寂を破る第一声であった。
「何。」
どこかそっけない返事ではあるがサリアにその気はない。
「どう思うよ?俺の能力。」
回答の決まったその質問に間を開けることなくサリアは答える。
「最高ね。」
おそらく人間以外が持つことのできない選りすぐれた能力はサリアの今後の勝利への確信に繋がった。
サリアは立ち上がる。その後拓斗も立ち上がり二人で寮へ戻るのであった。
その日の夜。
シャワーを浴びて浴室から出るとサリアがベッドに座りながらぶらぶらと足を揺らしていた。何か拓斗に言いたげだが言えないようである。
そんなサリアを見て不思議に思うが結局就寝まで何事もなく二人は床に就くのであった。
「ねぇタクト。」
拓斗の背後からベッドで寝るサリアの声が聞こえる。
「今日タクトの能力が最高って言ったじゃない。」
拓斗は今日の図書館でのことを思い出す。本日のことである為拓斗はその様子を鮮明に思い出すのであった。
「あの最高ってタクトの能力だけじゃなくてそれ以外もって意味もだからね・・・。」
サリアは顔をリンゴのように真っ赤にして布団に潜り込む。拓斗はそんな嬉しい言葉に頬が緩み寝袋に潜り込む。
明日の朝二人が顔を合わせられなかったのは言うまでもないだろう。




