一か月の始まり
デルベとの戦闘の後、拓斗はすっかり日の沈み暗くなった寮への道を歩いていた。
(サリアのやつ怒ってるかな?)
昼から何の連絡もいれず戦闘も勝手にした自分を許してくれるかと不安になりつつ重い足取りで部屋へ向かう拓斗の顔は疲れと不安で暗い表情になっていた。
のそのそと重い足取りでサリアの部屋の前までやってくる。大きく息を吸って深呼吸をする。気合を入れなおした拓斗はノックをして部屋に入っていく。
「・・・随分遅い帰宅ね。」
部屋の中には鬼が居た。腕を組んで仁王立ちをするサリアという名の鬼が。
「待ってくれこれにはいろいろ理由が・・・。」
怒りを鎮めようとするがそんな言い訳をサリアは当然聞かない。
「へぇ?昼に別れたきり連絡ひとつせずどっかほっつき歩いていた理由があるの?」
サリアのこめかみには血管が浮かび上がりそうである。
「えっと、その・・・。」
デルベとの戦闘のことをサリアに話すと火に油を注ぐだけだと思った拓斗は他の言い訳を考えるが思いつかない。
「・・・はぁ。まぁいいわ。その様子だとどっかで戦ってきたんでしょ?」
ため息をついてベッドに腰掛けるサリア。先ほどまでの怒りはもうどこかに行ってしまったみたいだ。
「・・・はい。」
もう言い訳の仕様がないと思った拓斗は素直に白状することにした。
「だろうと思った。その服見たら誰でもわかるわよ。」
拓斗のこちらに来た時の制服はデルベとの戦闘で至る所が擦り切れている。これ以上着るのは無理だろう。
「それで、誰と戦ってきたの?」
サリアにこの質問をされたときに拓斗は察しているべきであったのだ。
「デルベ先生。」
相手が相手だからサリアが激怒することに。
しかし気づいたころには時すでに遅し、再び部屋に鬼が降臨するのであった。
「バカ!本当にバカ!!戦う相手ぐらいは考えなさいよ!!」
怒りで夜中にもかかわらず声を張り上げる。
鬼の形相であるサリアの説教は日が変わるまで続くのであった。
次の日の朝。説教と戦闘の疲れが残る拓斗は眠い目を擦りながら寝袋から出てくる。
サリアの姿は見当たらない。どこに行ったのだろうと疑問に思っていると扉の開かれる音がする。
サリアは両手でルズニカ魔法学園の男子生徒の制服を持っている。
「やっと起きたわね。これ新しいタクトの服よ。」
部屋に帰ってくるなり制服を拓斗に押し付け、ショルダーバッグに教科書を入れる。
「さっさと着替えて教室行くわよ。」
準備の終えたサリアは浴室に拓斗を押し込み着替えるように言う。
数分後制服に着替えた拓斗が浴室から出てくる。
「意外と似合うじゃない。」
サリアは拓斗の制服姿を見て言う。白いワイシャツに黒いズボン、ルズニカ魔法学園の校章が縫われている暗い藍色のブレザー。
「これ着なきゃ駄目か?」
他の何人かの生徒はこの上にポンチョのようなものを着ているが、拓斗にとってそれは邪魔でしかなかった。
「別に着なくてもいいわよ。タクトがそれ着たら邪魔になるでしょ。さっさと行くわよ。」
二人で部屋を出ると朝食を食べにカフェテリアに向かうのであった。
朝食を済ませていつも通り教室に着くとそこにはニコニコと座るエルとその後ろに仕える使い魔であるセレシア、眠そうにウトウトするイヴとこちらに小さく手を振るリリア、無言で席に座るアンリエッタが居た。
サリアと拓斗が教室に来たことを確認するとアンリエッタは静かに立ち上がり拓斗たちのもとへとやって来た。
「でしゃばるなと警告したはずだ。」
いつもよりも低い声でアンリエッタの声はどこか苛立っていた。
「あれで警告のつもりだったの?だったらもう少しわかりやすく伝えるべきだったわね。」
皮肉っぽく言うとアンリエッタの目つきは鋭くなる。苛立ちのせいかこれ以上刺激を加えると怒りが爆発しそうである。
「ならもう一度警告しよう。これ以上は何もするな。」
前回はイヴとリリアとの戦闘、今回はデルベとの戦闘。アンリエッタと出会ってから戦闘の度に警告をされている。
「お断りよ。」
きっぱりと拒否を示す。そんあサリアに実力行使をアンリエッタは動こうとするが、拓斗がサリアの前に出る。
「悪いが、サリアに手を出すのを見過ごすわけにはいかないな。」
グリモワールを片手に持ち戦闘準備の整った拓斗。
「人間・・・貴様・・・・。」
どちらが先に動き出してもおかしくない状況。お互いが睨み合い相手の動きを見ている。
そんな中その空気をぶち壊すかのように教室の扉が開かれる。
「諸君おはよう。今日も授業していくぞー。」
やる気のない表情で登場したのはデルベであった。
「・・・。」
興ざめだと言わんばかりのアンリエッタは無言でデルベの横を通り過ぎ教室から出ていくのであった。
完全にアンリエッタが出て行ったの確認すると拓斗は息を吐き出す。
「助かりましたよ先生。」
このままだと戦闘になりかねないところに登場したデルベはまさにグッドタイミングであった。
「まぁ一応教師だしな。喧嘩を止めて普通だな。」
ぼりぼりと頭をかいて教卓へと向かって行った。
教卓まで移動したデルベはチョークを取出し黒板に何か文字を書いた。
「得意?」
読み上げたサリアは書かれた文字に疑問しかないようであった。
「お前らにはこれからそれぞれの魔法について知ってもらおうと思う。」
授業をしようとするデルベの姿に拓斗以外の全員が驚きを見せる。
「俺の得意とする魔法は電気にかんする魔法、帯電したり放電したり電気で身体能力を上げたり雷を落としたりといろいろとできる魔法だ。」
実際にバチバチと腕に電気を纏い証拠を見せる。
「それと同じようにここにいる全員にも得意とする魔法があるはずだ。それを見つけて鍛えるのが今後のお前らの課題になる。でも得意な魔法を見つけちまえばそれ以外勉強する必要はねぇ。」
ニヤッと教師とは程遠い笑みを浮かべる。
「これから一か月ここでの授業は無し。そのかわり一か月お間に得意な魔法を見つけてそれを鍛えるんだ。そして一か月後の公式戦で成果を見せてもらう!」
デルベは威勢よく言うが、拓斗にとっては聞き覚えのない単語が混ざっていた。
「公式戦って何だ?」
横にいるサリアに聞く。
「抜き打ちテストみたいな感じで毎年回数も決まってなければ時期も決まってない自分の一つ上の順位のやつと戦って順位を決める戦いよ。」
「この学園って勝手に戦闘しちゃいけないのか?」
この学園に来て既に三回の戦闘をしている拓斗は不安になる。
「別にそういうわけでもないわ。挑んだ側の戦闘を相手が承諾すれば決闘は認められる仕組みよ。」
バルターとの戦闘がいい例である。
「それじゃあ諸君今日のところはここまでだ。公式戦までに成長していることを期待してるぞー。」
教室から出ていくデルベ。デルベが出ていくとエルとセレシアが拓斗たちのもとへとやって来た。
「先生だいぶ変わっていたな。また君たちが何かしたのかい?」
またとはイヴの時のことを指しているのであろう。
「今回はタクトが勝手にしたことよ。」
どこか誇らしそうに言うサリア。
「へぇ流石人間だね。あんなに濁っていたいた目を変えてしまうなんてね。」
嫌味などない言葉のはずなのに拓斗はその言葉に棘を感じる。
「私の使い魔は凄いのよ。」
サリアの胸を張る姿はとても可愛らしかった。
「いえ、いずれタクト先輩は私の使い魔になります。」
イヴとリリアが会話に混ざってくる。
「だから渡さないって言ってるでしょ。」
「それはタクト先輩が決めることです。」
バチバチと二人の間に火花が散る。リリアはそんな自分の主の姿を見て苦笑いをしていた。エルはというとセレシアとともに既に教室から撤退していた。
「この際タクトに聞いてみるのが一番早いわ。タクト、貴方は私の使い魔よね?」
グッと顔を近づけてくる。ほのかに香る甘い匂いに顔を赤く染める。
「タクト先輩は私の使い魔になってくれますよね。使い魔になったら私とリリアを好きにしてもいいですよ。」
ええ!っと驚くリリアを放ったままイヴも拓斗に顔を近づける。
「答えなさい。」
「答えてください。」
何と返事をしていいのかわからない拓斗はリリアにアイコンタクトで助けを求めるが、リリアは拓斗と目が合うなり赤くなって俯いてしまう。
「何でだぁぁッッ!!!」
拓斗の悲痛の叫びは響くのであった。
一方教室を出たエルは教室の外の壁にもたれかかるデルベを見つけると声をかける。
「青春ですね。」
教室の中から聞こえる拓斗たちの声に素直な感想を述べる。
「そうだな、学生だから青春ぐらいしないとな。」
薄く笑顔を浮かべるデルベはどこか楽しそうであった。
「お前はいいのか?」
使い魔とともに教室から出てきたエルに質問する。
「ええ、僕にあの空間は少し気まずいものでしてね。」
困ったように笑顔を浮かべる。しかしその笑みはすぐに消える。
「それに僕は目的の為に青春なんてしている暇はないんです。」
廊下を歩きだすエルの姿は遠くなっていくのであった。
(こりゃ訳ありだな・・・。)
エルの背中を見届けたデルベは煙草を喫いに騒がしい声のする教室から離れ、バルコニーに向かうのであった。




