氷と雷
場所は変わり決闘場。非公開の戦いである為観客は誰もいない。
静かな決闘場に拓斗とデルベの二人、お互いをにらみ合う。
緊張しているせいか、拓斗のグリモワールを握る手からはやや手汗が見れる。
「覚悟はいいか?悪いが相手は人間なんだから手加減はできないぞ。」
「それはこっちのセリフですよ。」
デルベからの最後の警告。それはデルベにとっての優しさであったが、そんなものは今の拓斗には必要ない。
「試合開始の合図はこのコインが地面に落ちてからだ。」
デルベがポケットから取り出したのは一枚の銀貨。その銀貨を上空に弾く。くるくると空中で回る銀貨はやがて落下を始める。
お互いがジッと見詰め合う中銀貨は地面に落ちる。
「先手必勝ッ!オスカッ!!」
拓斗の方へと駆け出し始めるデルベ。そのデルベ片手から放たれた雷はそのまま拓斗へと向かっていった。
「イズバグ。」
放たれた雷を氷壁はものともせず防ぎきる。
「ほー、やるじゃねぇか。ならこれはどうだ!オスカリアッ!!」
足を止めぬままデルベは先ほどの雷よりも威力の高い雷を片手放つ。しかし雷を拓斗は再び氷壁によって防ぐ。先ほどより威力が高いため少し氷壁が揺れるが問題は問題はなさそうである。
「また防ぐか、なら二つならどうだ!オスカリアッ!!」
もう片方の手からも同等の雷が放たれる。両方の手から放たれた雷は氷壁を突き破ろうと威力を増していく。
(限界かッ!?)
氷壁が崩れる前に氷壁の近くから離れる拓斗。
「スキありッ!」
接近してきていたデルベは氷壁から離れた拓斗の腹に潜り込み、スキだらけな脇腹に重い回し蹴りを決める。
「かッ!」
肺の中酸素が一気に吐き出される。骨にまで響くその回し蹴りは拓斗を容赦なく吹き飛ばした。
「まだまだッ!」
吹き飛んだ拓斗のもとへ向かい拓斗の胸倉を掴んで無理やり立ち上がらせる。そこからはデルベの一方的な蹂躙が始まった。顔面や腹に次々と攻撃をしていく。
「おらおら、人間ってのはこの程度なのかッ!?」
手を止めないデルベ。既に拓斗は満身創痍であり、返事をしている暇すらないのだろう。しかし頼みの綱であるグリモワールだけは絶対に離さない。
最後にデルベはボディーブローを決めると拓斗は膝から崩れ落ちるのであった。
「はぁ・・・。期待外れもいいとこだぜ。冥土の土産に見せてやるよ。」
デルベの周りを電気が走る。
「俺の持ち得る最強の雷魔法。戦場の迅雷の異名、篤と味わえッ!!」
青白い光を放つ電気を周囲に纏うデルベは、そのまま右手を地面へと叩きつける。
「グロールヴリックスッッ!!!」
すると拓斗の直上に五メートル程の青い魔方陣が現れる。
「落ちろ。」
魔方陣から雷が落ちた。その量は凄まじく、五メートルある魔方陣から隙間なく放たれたのだ。
「ニヴ・・ル・・・・ヘイム。」
辺りが一瞬にして氷の世界へと変貌する。拓斗は氷の世界の中、自分の周りに氷のドームを作り、雷を全て受ける。
雷と氷が激しくぶつかり合う音は響き渡る。
そしてしばらくぶつかり合うと音が止み、雷と氷の勝敗が決する。
「嘘・・・だろ・・。」
目を見開き驚愕するデルベ。そう氷のドームは雷を全て受けきったのである。
氷のドームが崩れ去ると、そこには傷を全て氷で塞ぎ立ち上がる拓斗がいた。
「ここからですよ先生。」
無理して立つ拓斗は、改めてデルベの前に立ちふさがった。
「・・・・ッ!!」
雷を纏い身体能力を上げて拓斗に接近しようとするが、凍った地面から放たれる氷の鎖はデルベを追従し、接近を妨害する。
「グラーシア。」
バルター戦の時とは違い氷柱が十数本現れ、全てデルベに放たれる。
「ハスティグッ!!」
氷の鎖と大量の氷柱に挟まれるが、高速でその場を離脱する。氷の鎖と氷柱はお互いで当たることはなく、そのまま消えた。
「体力使うから、使いたくなかったんだけどな・・・。」
肩で息をするデルベ。
「先生。もう諦めてください。」
拓斗はデルベに対して降伏勧告をする。
「残念ながら無理ってもんさッ!!オスカリアッ!!」
両手から雷を放つ。しかし氷の世界によって強化された氷壁に呆気なく防がれる。
「何をやっても無駄ですよ。この世界で俺に勝てるはずがありません。」
辺り一面氷の世界である現在、拓斗の独壇場と言っても過言ではない。
「賭けてるもんが賭けてるもんなんでね。お前の思想を変えるまでは負けられねぇんだッ!!」
魔法と肉弾戦を使った中距離戦闘の得意とするデルベは、自分の戦いやすい距離まで詰めようとするが、氷の世界がそうはさせまいと氷の鎖や唐突に生える氷の柱で妨害を繰り返す。
「もういいでしょう!あなたのしてきたことは間違ってなんていなかったッ!どうしてそれが受け入れられないんですかッ!」
足掻き続けるデルベを見かねた拓斗は言う。
「お前にわかるかよ。ラル、スケイド、マイク、リクス、エルエッタ、ボルク、アルラ、ターベ、ガヒル、ルルケ、パレツ、カルメア、ジッテ、ラシア・・・。」
一人一人力強く、再び胸に刻み込むように名を言う。
「十四人だ。俺の親しかった戦友はくだらない魔法のせいで十四人も犠牲になったんだッ!!仲間が死ぬたびに胸を引き裂かれたように痛み、仲間が死ぬたびに涙を流した。それでも・・・それでも戦争はなくならなかったんだよ!!」
デルベの心からの叫び。悲しみと怒りと後悔に溢れた叫びは拓斗にも強く響く。
「そんな戦争に魔法を使うぐらいなら。大切な人たちを殺す魔法なら・・・。」
世界に絶望したデルベの叫びだ。
「そんなものはいらないんだッッッ!!!!!」
デルベの心の叫びに答えるかのように纏う電気の威力は上がっていく。
「だから、それを正しいと肯定するお前をまずは倒すッ!!」
ハスティグを唱え一気に拓斗との距離を詰める。デルベを抑えようと氷も動き出すが、デルベは再びハスティグを唱え、拓斗との距離を詰める。
「先生が感じているものなんて俺にはさっぱりわからない。」
どんどん距離を詰めてくるデルベを目の当たりにしても臆することなく言う。
「でも魔法を否定するのだけは俺だって許すわけにはいかない!」
右腕をデルベのいる方向へと向けると、氷のつぶてがデルベへと放たれる。しかしデルベは右手に雷を纏い電気でできた剣で氷のつぶてを弾く。
「ぐッ!ハスティグッ!!」
当然全て防ぎきれるわけもなく、すぐに移動する。
「先生が見てきたのは戦争で人を殺すための魔法。でもそれが魔法の全てじゃないッ!!」
迫りくるデルベとそれを妨害する拓斗はまさに一進一退である。
「なら何が魔法だッ!!人を殺すことしかできない魔法がなんの役に立つんだッ!!」
凶器に満ちたデルベの顔はどこか答えを求めているようであった。
「答えろぉぉッッ!!!」
その時、拓斗の頭にサリアの顔が過る。
(ああ、そうさ。答えなんて決まってる!!)
拓斗は両腕を前方に突出し、構える。
「俺のッ!俺たちの夢を叶える為にだッッ!!!!」
現れた三メートルを超える刃が潰れた氷の刃は、真っ直ぐデルベへと放たれた。
氷の刃を電気で出来た剣で受け、氷と雷によるぶつかり合いが再び始まる。
「うらぁッ!!」
デルベは氷の刃を薙ぎ払う。その瞬間デルベにスキが生まれた。
「これで・・・終わりぁぁッッ!!!」
そこを拓斗は逃さず距離を詰め、渾身の拳を顔面に叩き込むのであった。
その瞬間勝敗は決した。
バタリとデルベは倒れる。
この戦い、拓斗の勝利である。
空がオレンジ色に染まる夕方。デルベは痛みとともに目が覚める。今まで気絶していた為、決闘場に横になった状態であった。
「起きましたか。」
拓斗は倒れているデルベの横に座っている。
数時間前まで憎たらしいと感じていたその顔に今は、どこかスッキリとしたものを感じていた。
「負けたのか・・・。ははッ・・・負けて残るのは虚しさだけだな。」
乾いた笑顔は寂しげだった
「こんな戦い、勝った方も同じ気持ちですよ。」
疲れ切った表情に僅かに笑みを見せる。
そんな笑みを見るとデルベは、思い出したかのように拓斗に言った。
「お前結局願いはどうするんだ?教師をやめろって言うんならやめるぞ。」
デルベは目をゆっくり閉じる。
「いや、そんな願いじゃありませんよ。」
拓斗の返答に少し驚き目を開くデルベ。
「ただ先生には、これからしっかり魔法と向き合って、前を向いて歩いてほしい。それがお願いです。」
今まで人殺しとしての魔法ばかり見て、立ち止まっていたデルベにとってその言葉は、デルベにとって最も必要なものであった。
「先生は優しすぎたんです。俺が先生の授業を受けた時の違和感、それは先生が人殺しとしての魔法から生徒たち守るためだったんですね。」
拓斗は違和感の正体を突きつける。
「自分が適当に授業をすれば、生徒は授業をまともに受けれなくなる。そういうことですよね?」
デルベは答えるのに間を開ける。
やがて口を開いたデルベの顔は少し笑っていた。
「あーあ。生徒に負けて道を正されるわ、俺の意図ももろバレとか恥ずかしいなぁ。」
胸にあったものを吐き出したデルベは立ち上がる。
「じゃあお前の願い通り俺は前を向いて生きていきますかねぇ。」
オレンジ色の空を見上げる。
(もう立ち止まらない。それでいいんだよな・・・・・ラシア。)
氷と雷の戦い、生徒と教師のぶつかり合いは幕を下ろすのであった。




