第6話:再起、そして危機
街の外れの方から巨大な遠吠えが響き渡った。
人々がそれを街の危機だと認識するのに時間はかからなかった。
「今のは……」
なんの声だ、何がいるんだ、会場が今度は不気味なざわつきに襲われる。
そんな中でティアナだけは冷静で、それでいて焦りが汗となって表れていた。
「子どもたちを遠くへ逃して!!戦える人たちは手伝ってちょうだい!!!」
人々を守る聖術師としてすぐに指示を出す。
1人でも死なせてしまったら悔やんでも悔やみきれない。
「術師様、今のは一体…?」
「街の外ではぐれの個体を見たけど、まさか大物が来るとは思わなかったわ……」
ごくりと唾を飲み込み遠吠えの正体を推測した。
「多分だけど……レスウルフよ、それもとびっきりのやつがいるわ」
「なっ!?レスウルフだと!?」
「まさか群れで!?子どもたちだっているのに!!」
ティアナの推測を聞いた長は驚き、街の住人は戦える者達を除いて一斉に逃げ出した。
子どもが襲われると命の危険があるとはいえ、レスウルフはそこまで危険度の高い魔物ではない。
しかしそれは一匹だけでの話だ。
ティアナは仕事柄、魔物のことは熟知している。
レスウルフは群れで生活し、その中で最も強い個体が率いる。
「さっきの遠吠え、姿が見えないのにあれだけの大きさってことは………」
長の推測が正しいことをティアナは目で訴えた。
恐れ慄きながらも長の判断は早かった。
「皆逃げろ!!すぐにだ!!」
「急げ!!死にてえのか!!」
「杖を取れ!!レスウルフはすばしっこいぞ!!!」
「なんで今日に限って来やがるんだ!!」
いくつものかけ声が飛び交う。
街に魔物が侵入した経験のない小さい子どもたちも酔いの覚めた大人たちの大声を聞き異常なのを理解した。
「こわいよぉ……せんせぇ………」
「ひぐっ…ぐすっ……」
「うっ、えええん……こわいよぉ!!」
「大丈夫だよ、ほら、術師様たちの邪魔にならないよう避難しよう」
「くるっ!くーくー!!」
先生とスルが幼い子たちを落ち着かせていた。
しかし孤児院は遠吠えの方角に位置している、これだけの子どもをどこに避難させるのか、対応に急いでいた。
「ティアナさん!!」
声をかけたのは立ち直ったばかりのヴェイルだった。
「ぼうや!避難できるわね?」
「ええなんとか!反対側の街の外れに僕とフェルミィの小屋があるからそこに子どもたちを!」
「ええ、任せるわよ!」
「はいっ!!」
目に光を灯したヴェイルは確かな足取りで子どもたちの方へと戻った、今の彼ならば任せても大丈夫だろう。
聖術が使えなくても自分ができることをしようとする姿勢は敬意を称されるべきものだった。
「ちゃんとしてるじゃないの、ぼうや……あたしもあたしの仕事をしなくちゃ!」
彼と先生が子どもたちを連れて行くのを見送ってから再び遠吠えの方へと相対する。
「ぐるるるるる……」
群れの先頭で構えるレスウルフが低く唸る。
「ほーんと、回復専門のあたしになんとかできるかしらねぇ」
あんなにも大きな個体が率いる群れを。
「あんな個体…この街が地図から消えるかもしれなわね……」
視界に映った外敵の姿は恐ろしいの一言に尽きる。
馬車で相対したはぐれと同程度の個体が視認できるだけで5〜6匹、まだいると考えた方がいい。
そして目を引くのは群れの中心を悠々と進む巨大な個体、一際鋭い眼光を前にティアナはぶるっと身震いした。
あんな個体までいる群れとどれだけ戦えるだろう。
杖をホルダーから引き抜き、覚悟を決めたティアナはくいっと帽子の鍔を杖の先で押し上げた。
「さあ!!かかって来なさい!!」
「うおぉぉぉぉん!!!」
遠吠えを合図に、戦闘が始まった。
額を伝う冷や汗に気づかないふりをして、ティアナは立ち向かう決意を今一度固めた。
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