第9話 司祭長も想定外
「さて、先日の王女殿下との面会内容を教えてくれないかしら、フォンティーアさま」
エッタとの会談から数日後、わたしは司祭長に呼び出された。
王族と何を話したかを報告しろと。
「女の子同士のたわいもないお話ですわ。そちらの報告書に書いています通り。同い年の子が聖女と呼ばれるのが気になったようですの」
背後に立つ側仕え、リッカの緊張を感じつつも何食わぬ顔で給仕された茶を飲みながら報告するわたし。
事前にどのような報告をするか、エッタやリッカ、セリーヌと口裏合わせをしたとおりの内容を報告した。
「そうなの。でも、夜通しどころか翌日の夕刻まで。ずいぶんと話すことがあったのよね?」
応接机の反対側に座る司祭長。
おっとりとした柔和な笑みを浮かべたまま、慈母の雰囲気を崩さず、わたしにじんわりと尋ねてくる。
……義母さまに、嘘つくのは苦しいなぁ。それに、何か知ってて泳がされている気もするわ。
司祭長は、神殿養育院育ちのわたしやリッカにとっては、母も同然。
乳飲み子時代から知られているので、これまでも嘘は全部バレている。
「え、ええ。王女殿下は、わたくしの行ったことにも随分とご興味があられたようでした」
なので、大事な部分は隠しつつも話し合った内容を答えた。
「そう。神殿としては、聖女が王族と接近しすぎるのは気になるの。多分、『あちら』でも釘を刺されたとは思いますが、聖女という立場は政治的利用もされやすいのよ?」
……え゛! 義母さま、何処まで知っているの!? まさか!?
司祭長、アウレリア義母さまは、優しい笑みを浮かべたまま。
しかし、鋭い視線と言葉でわたしを射貫く。
背筋に冷たいものが走ったわたしは、情報漏れがあった可能性を考え、背後のリッカに振り返る。
「フォンティーアさま、ワタシ誰にも……」
真っ青な顔で呟く彼女を見、わたしは急ぎ謝る。
「ごめんなさい、リッカ。貴女が告げ口するはずもないですわね。ふぅ、落ち着いて考えれば分かりますの。義母さま。いえ、アウレリア司祭長さま。貴女は王宮にも『草』を仕込んでいますのね」
そして司祭長の方へ向きなおし、推測を告げる。
……これまでも、わたしを聖女として守ってくれたのは義母さま。意地悪で言っていないのは確かね。
以前より、司祭長は妙に『耳が早い』とは思っていた。
貴族議会で決まった事が実行される前に先手で動き、神殿の既得権益を守っていた。
それは、議会や王宮に耳役の『草』がいるからに違いない。
……今回も、王女殿下お付きの誰かから、話を聞いたのね。防音魔術下とはいえ、廊下に響くくらいの声で話してたし。
「……ご名答。流石は、わたくしの可愛くて賢い子ね。リッカには悪い事をしたわ。ごめんなさい。フォンティーア、貴女の従者に裏切者は居ないし、王女殿下の周囲にも『今のところ』は居ないわ。姫さまに、可愛いお友達が出来たと話題にはなっているみたいね」
優雅にお茶を一口飲みながら、答え合わせをしてくれた義母。
実に食えない、というか今でも敵わないなぁと思う。
「……何処までご存じなのですか、司祭長さま」
「そうねぇ。貴女と姫さまが結託して社会の様子を大きく改革をしようと思っていること……くらいまでかしら?」
「う゛!」
……それって、全部バレバレじゃないのぉぉ! ダメだぁ、終わったよぉぉ。
「安心して、ティアちゃん。わたくし個人としては、貴女たちの思いは好きよ。まだ世の中を知らぬ幼い子どもの夢。でも、誰かの幸せを思い実現を願う夢なら、叶えさせてあげたいわ。しかし……」
先程まで浮かべていた笑みをやめ、真面目な顔になる司祭長。
「貴女は聖女。神殿としては保護する対象であり、平民らの希望。そして王族や貴族に対する切り札。簡単に王族に取り込まれては、神殿上層部は良い顔をしないわよ。それは王族側もおそらくは同じ」
「……その事は、『向こう側』の守護騎士の方からも忠告を受けました。王家内の力の拮抗を崩し、次期王となる王子殿下と王女殿下が仲違いになる可能性もあると……」
わたしは正直にセリーヌに言われた事を、司祭長に告げた。
『力』を使うには責任が伴う上に、政治的配慮が必要。
正直、わたしが一番苦手とすることだ。
……前世NPO時代でも、わたしが意見を押し通して、地元とケンカになったことがあるのよねぇ。わたしの方法が絶対間違いないんだけど、あの時は地元の風習とかが邪魔したわ。
「そこを理解しているのなら結構よ、ティアちゃん。なので、大きく動く際は必ず、忠告をしてくださった女騎士さんやわたくしに相談すること。リッカちゃんたちを救った時みたいに、何も言わずに暴走しちゃったら手助けも何も出来ないわ。ただ、神殿側としては王族に対して中立の立場は絶対に崩せない。覚えておいてね」
「はい、義母さま。ありがとう存じます」
わたしは、義母に今も守られている事を感じ、涙ぐみながら頭を下げた。
「良かったですね、フォンティーアさま」
「ありがと、リッカお姉ちゃん。一瞬でも疑ってごめんなさい」
「リッカちゃん。まだまだ幼くて頼りない主だけど、これからもお願いね」
「はい、司祭長さま!」
司祭長さまとの会談は、とても心が温かくなるものだった。
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