第10話 王宮内も想定外
「平民の子どもの間では、そんな遊びが流行っていますのね」
「というか、わたしは下町のことはあまり詳しくなくて。神殿養育院の子どもたちが遊んでいるのを見ただけです」
公式に、わたしは王女殿下の友人という枠に収まった。
神殿側は、王家や政治には不干渉。
しかし、わたしの身元保証先として働いてくれた。
……つまり政治的役割である『聖女』という立場ではなく、王女殿下と同じ歳で身元のしっかりした聡明な娘、という事ね。
王家としても、変に貴族の娘と友人ともなれば、貴族内のパワーバランスが狂う可能性がある。
「友人の兄弟が、将来の配下や婚姻相手の候補になる可能性があるの。だから、上級貴族ほど王族とは友人になりにくいわ。かといって、下級貴族では格が足らないとなるのよね」
そう、司祭長さまは、わたしに説明してくれた。
平民上がりながら聖女とも呼ばれる立場のわたしなら、神殿が政治的に不干渉を貫く限りは、大丈夫と判断されたようだ。
……セリーヌさんの家、ラヴェール家は領地も無い宮廷伯。元より王家に忠誠を誓っている存在だから、王家警護の役目をしているの。これが領地持ちの帯剣貴族だと、何かと厄介ね。
「女の子たちは、花畑に行って花摘み。花冠とか作ります。男の子たちは、棒切れ拾って騎士ごっこ。こんな感じですね」
「あら、お花で作った冠なんてステキね」
木漏れ日の中、王宮中庭にある東屋での少女同士のたわいない会話。
しかし、王女殿下と聖女の会話ともなれば、周囲で聞き耳をたてるものも多い。
……王女殿下の背後にはセリーヌさんがいるけど、給仕役も別にいるの。私の背後にはリッカお姉ちゃんが居てくれはするんだけど。
「で、こんな感じなんですよ」
わたしはメモ帳代わりの木札をエッタに渡す。
「……へぇ。こんな感じなのね。わたくしなら、こうしますわ」
エッタは、手元のガラスペンで木札に書いて、わたしに返してくれた。
……魔族帝国の侵攻前に、冷夏と長雨からくる不作が起こるのね。それが魔族帝国の皇帝陛下が南の王国へ侵攻を開始した遠因と。
木札には、今後起きるであろう事態が日本語で時系列順に書かれている。
まずは、今後起きるであろう破滅「フラグ」を一個ずつ知る。
「流石は王女殿下、面白いですわね」
わたしも、羽ペンで更に尋ねたいことを木札に書き込む。
表向きの会話をしながら、同時に今後の作戦会議もしている形だ。
「……そうね。あ、今晩もお泊りの許可は司祭長さまから出ているんですわよね、ティア」
「はい、王女殿下。今晩も一緒にお話ししましょう」
エッタは背後のセリーヌに木札を渡し、今晩の都合を聞いてくる。
周囲の視線を気にしたままでは、細かい会話は難しい。
夜の寝室こそ、秘密会議の場所なのだ。
……まあ、司祭長さまの『耳』には会話内容が入るんだろうけどね。でも、他の人には聞こえないでほしいの。
証拠隠滅にナイフで木札を削るセリーヌを見ながら、わたしは今晩話すことを脳内で整理していた。
……昔から考えていたアイデアがいくつもあるの。それが実現できるのなら、未来は明るいわ。
◆ ◇ ◆ ◇
「陛下に、ティアと友達になりたいって懇願して良かったですわ。これで堂々と秘密会議が出来ますの」
「つまり、最後はお父さまである陛下に対してワガママで押し通したんですね、エッタ。司祭長さまと口裏合わせを事前にしておいて、良かったです」
今日も、王女殿下の寝室で四人でのパジャマパーティ。
いや、秘密会議だ。
……セリーヌさんを神殿に呼んで、司祭長さまと面会させたの。根回しは苦手だけど、もっと勉強しなきゃね。
「さて、ティア。ここから先をどうしましょうか? 魔族帝国も怖いですが、冷夏対策も必要ですの」
「うふふ。エッタ、実はですね。前世記憶を思い出して以降、色んなアイデアを考えていましたの。前の世界で出来たことを、どうしたらこの世界でも再現できるかって」
エッタから、今後の方針を聞かれたわたし。
エッタの耳元まで口を近づけ、三年ほど温めていたアイデアをひそひそと話し始めた。
……アイデアはあっても、孤児の子どもでは何も実行出来なかったの。
「まずは流通改革ですの。いかに食料や兵員を増産しても、戦地まで早く送る手段が無ければダメです。そこで、まず第一に始めますのが、街道の整備ですわ」
「街道ですか……。確かに王都と主要領地の間は石畳による街道舗装はなされてますが、大半の道は舗装されていない土の道。わたくしは実際に現地で見た訳ではありませんが、前世記憶と突き合わせても、雨が降ればぬかるみが出来、すぐに凸凹になって馬車どころか、普通に歩くのにも支障が出るでしょうね」
「騎士の遠征訓練でも辺境に向かう際には、騎馬でも苦しかった覚えがあります。こと、魔族帝国は王国の北方に存在し、其方に向かう街道は、全く整備されていません」
わたしが最初に提案したのは、街道の整備。
エッタが理解している通り、石畳による舗装がされていない場所は、王都内でも雨が降ればすぐにぬかるんで、人々が困っていた。
……実際に辺境に向かわれたセリーヌさんが、そう言うのなら街道が未整備なのは間違いないわね。
「でも、全部の街道を石畳で舗装するのは手間的にも資金的にも無理よ? 石畳って簡単に平らな石を並べるだけじゃないの。王宮出入りの石工さんに聞いたことがあるんだけど、地盤整地ってのをしっかりして排水も考えて他の地面よりも少し高めに作るって聞いたわ」
「わたしも、前世でNPO活動をしていた際、『ローマ街道』なんかを実際に見て感動しました。で、この世界でも出来る簡単で効果的な道路作りの方法があるんです」
エッタは改革を行うために、城出入りの石工と話していたそうで、石畳舗装の難しさを聞いていたようだ。
わたしも、実際にローマ街道を現地で見て、非常に高度な技術によって作られていたことを過去に知った。
……石を敷き詰めただけじゃ、あっという間に沈み込むし、排水が上手くいかないと、崩壊するのよね。
「それは何? もったいぶらないで教えてよぉ、ティア」
「はい、お教えします。リッカは、既に知っているはずですわ」
「あ! あの方法ですね、フォンティーアさま。確かにアレなら子どもでも道を作れます。神殿の中庭の小道が、歩きやすくなりました」
エッタは、蒼い目をキラキラと輝かせて実に興味深そうに尋ねてくる。
その様子が実に可愛くて、わたしはつい焦らしてしまう。
話題に入りにくいリッカに話を振ってみると、工法を覚えていてくれた。
……神殿養育院の子どもたちだけで、中庭の小道を直したの。司祭長さまは喜んでくれたわ。
「その方法ですが……。土嚢、土を入れた袋を使います!」
「土嚢ですって!?」
わたしのアイデアを聞いて、エッタは室外に聞こえそうなくらいの大声を上げた。
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