第11話 道路作りは想定外
「土嚢って、あの土嚢!? ただの袋に土とか砂を詰め込んだモノだよね?」
「はい、エッタ。お察しの通りの土嚢です。これからお話しする手法は、わたしが前世にてNPO活動時に、とある途上国にて実際に道路建設に使い、こちらでも神殿内の道路補修に使った手法です」
おどろくエッタとセリーヌを前に、思わずドヤ顔で説明してしまうわたし。
横に座るリッカも自慢げだ。
……リッカお姉ちゃんとは一緒に道路作ったものね。
「この方法ですが、簡単にいえば道路を均しておいて、その上に土嚢を三層くらい敷きつめ、上から叩いて固めて、更に上から土をかけますの。表土には石灰と『にがり』入りのものを使えば、固まって強度があがりますね」
「そんな簡単な方法で、馬車に負けない道路が出来ますの? 確かに、土嚢は止水や一時的な壁には便利ですけど」
「ええ、姫さま。土の入った袋など、すぐに破れてしまうと思います」
わたしが簡単なイラストを木札に書きながら説明すると、エッタらは怪訝な表情。
こと、土嚢自体を見慣れないセリーヌは、絶対に無理だろうという。
「僭越ながら、王女殿下。ワタシはフォンティーアさまと一緒に神殿で道路を作りました。それまで、雨が降ると水たまりが出来て凸凹な道でしたが、少し土を削って均して、水を履き出して、そこに土嚢を並べました。これを上からハンマーで叩くとどんどん固くなるんです」
しかし、実際に道路建設に携わったリッカは、主の主張は正しいと、王女や騎士に対しても遠慮なく発言をする。
「ほ、本当ですのね。リッカさんが、これだけ真剣にお話しするんですもの。そういえば、前世では戦場でも土嚢を弾避けに積み上げていたのを見ましたわ。そうか、砂は押し固めると締まっていくんですね」
王女に真剣な表情で喰ってかかる獣人族の側仕え。
その勢いにエッタも納得をした。
「で、では、実際に何処か近くで試験をしてみましょう。そうですわねぇ……。セリーヌ、北方に伸びる街道で石畳が無いのは、何処からかしら?」
「確か、王都から最初の宿場町までは石畳がありますが、そこから先は未舗装でした」
セリーヌの話によれば、王都から概ね三十キロほど北方にある宿場町。
そこまでは舗装されているが、その先は未舗装とのこと。
……宿場町までは王家直轄地らしいの。でも、遠いからわたしが直接説明に行くのは無理よね。
「最初に大工事をするのは、そこで良いと思いますが、問題は現場の監督指揮が出来る人が宿場町まで行かなくてはなりません。かといって実際に工事監督が出来るほど、土嚢工法に詳しい人は……」
「あ! そうか、ティアくらいしか分からないのね。これは困ったわ」
「再び意見を申してよいですか?」
わたしとエッタ。
共に工事をどう行うかの段階で行き詰った時、遠慮気味にリッカが手を上げる。
「どうぞ、リッカ。この場所では側仕えも騎士も関係ないわ。お互いに忌憚ない意見を遠慮せずに話しましょう。いいですわね、セリーヌ?」
「はい。フォンティーアさまにリッカ、共に信用置ける方ですし、王国の為に共に働く仲間でございます。ワタクシも、正直差別は嫌いですし。女性騎士というだけで、嫌な思いは幾度もありました」
エッタはにっこり微笑んで、リッカに遠慮なく発言しろと促す。
許可を言われたセリーヌも、同様に笑みでリッカも仲間と呼んでくれた。
……嬉しいなぁ! リッカお姉ちゃんが、仲間だなんて。
騎士や戦士において、膂力や体格の問題で女性はどうしても不利。
女風情がどうのとは、神殿騎士団ですら陰口を聞いたことがある。
「では、意見具申させていただきます。道路工事ですが、まずは王都内で未舗装の地域。スラムになっている地域で行うのはどうでしょうか? あそこに住まうのは、ワタシのような獣人族や戦乱を逃れてきた人たち。毎日必死に生きるので精いっぱい。泥だらけの路地にうずくまっているのを幾度も見ました」
「……リッカ。それって彼らに土木作業をしてもらうかわりに、お給金を渡して生活改善と道路建設、更にはスラムの解消を狙うのですか?」
リッカの意見具申に、エッタは目を輝かせる。
神殿と近くの下町しか知らないわたし。
王城しか知らぬエッタ。
街道沿いの町までしか知らないセリーヌからは、絶対に出ない意見だ。
「はい。そうです、王女殿下。よくフォンティーアさま――ティアちゃんが、よく愚痴ってました。誰もが幸せに暮らすには、どうしたら良いんだろうって。仕事を与え、お給金を貰う。そして困らずに生活できるようになればと。ワタシがそうやってスラムから救い出されたように、スラムに残る人たちも助かって欲しい。そう思ったんです」
リッカはスラム生まれ。
わたし同様に幼い頃に疫病で両親を失い、空腹のあまりスラムから抜け出して神殿の前をとぼとぼと歩いていた時に発見され、養育院で育てられたと聞く。
「うんうん! よく思いついたね、リッカお姉ちゃん。エッタ、スラム改善の一環として公共事業による工事。どうかしら?」
「……考慮の余地はあるわね。王都内に疫病の感染源となるスラムを放置しておくのは、今後の為にもならない。その上、働き手を独自に入手できる。手に職を持った職人が出来れば、スラム改善の上に今後の役にも立ちそう。明日にでもお父さまに相談してみますわ!」
「……。確かに王都内の改善は王家の責務。そして、今のところはどこの貴族とも利権がぶつからないです。ええ、ワタクシも賛成します!」
こうして、わたし達の改革の第一歩。
土嚢工法による道路建設は、王都内のスラム改善としてスタートしようとした。
……司祭長さまにも、ちゃんと相談しなきゃ。神殿でもスラムの扱いには困ってたの。人を救うにしても、神殿だけでは資金的にも無理だったし。
「じゃあ、次は道路が出来た後の話も考えましょ。実は、他にもアイデアがあって……」
深夜遅くまで、わたし達の秘密会議は続く。
翌朝の朝食会に、皆が遅刻しそうになったのは余談だろう。
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