第8話 改革は想定外
「ですから、まずはインフラ改革から始めたいです! 国家の力を強くするためには、国民の健康が大事なのですから」
「でも、インフラの意義を貴族議会に説明するのは大変ですわ! こと平民を大事にする政策が、彼らには理解されないと思いますの」
今日もわたしは王城に向かい、エッタと今後の方針について、王女殿下の私室で話し合う。
……もちろん、リッカは従者として共に来てくれているの。門番さんも、昨日の今日だから顔パスね。
王宮での朝食後、一旦神殿に帰って着替えたわたし。
エッタとはまだまだ話し足りないので、もう一度城に来たのだ。
「むむむ、頭が固い貴族ですこと。平民の健康と労働力を向上させれば、領主である貴族の収入だって増えるのに、分からないのかしら、エッタ?」
「そんな事を理解できる頭が、中世のままな貴族どもにあるはずも無いですわ! ですから、わたくしも改革が進まずに困ってますの」
お互いに本音を漏らし合った昨日の夜から、わたしとエッタは同じ異世界転生者であり、同じ歳の友であり、世界改革の共犯者になった。
「この世界は、破滅を迎えようとしています。それはゲームシナリオに書かれていたバッドエンド。ゲーム主人公が上手く動かなければ、王国だけでなく世界全てが破滅します。ノーマルエンドでも王国としては消滅。市民革命が起こって、王族や貴族の大半は断頭台の露と消えますの」
エッタが語った未来。
そこでは、侵略戦争に巻き込まれて国力が疲弊。
「王国は、今から大体三年後。北方の魔族帝国から攻め込まれますの。彼らの強大な兵力を前にし、近隣の人類国家と連合軍を組んで国土を死守します。ですが、そこで多くの兵と資源、富を失いますわ」
その後、気候変動による農作物の不作や過大な徴兵に徴税、更には疫病の流行で、平民の不満は爆発。
「落ち込んだ国力を無理な徴税や徴兵でごまかそうとした貴族議会や、それを承認したお父さまの失策。そこで出てくるのが、ゲーム主人公の女の子ね。この子は平民生まれながら、膨大な魔力と優秀な知性を持って、貴族学校へと特例入学してくるの。そして『革命の乙女』になるわ」
平民から生まれた主人公の少女が、革命軍の旗頭。
いわゆる「ジャンヌ・ダルク」となり、王国の民を救う。
これがゲームのメインシナリオらしい。
……確かジャンヌは向こうの史実じゃ革命じゃなくて、百年戦争のヒロインだったっけ?
「ブルジョアと呼ばれる裕福な平民商人が官職を買って、法服貴族になり貴族議会にも介入。下級貴族や王族傍流を巻き込んで市民革命のきっかけになるのよ。今でもギルド長なんかは、これね」
「へー、ブルジョアってお金持ちで贅沢って意味かと思ってましたけど、元は裕福な商人って意味だったのですね。『フランス革命』に似てますけど、断頭台は聞いただけでイヤです」
エッタが語る王国の末路。
それが起こる事は、なんとしても阻止しなければならない。
どんなエンドでもエッタが殺されるのは嫌だ。
……エッタが断頭台に送られるなんて絶対に見たくないわ。それに、王国の政治体制が変わるのなら、神殿のわたしだってどうなるか分からないの。
「聖女さまも他人事じゃないわよ。フランス革命同様に、多くの税金を使う神殿側にも革命の手が伸びるんだし」
「でも、エッタが知るゲームのメインシナリオには、確かわたしは出てこないんでしょ?」
「そう。だからこそ、ゲームシナリオを越えた動きが可能になったのよ。科学知識溢れる聖女さまの登場は、『シナリオライター』も想定外でしょうね。」
エッタが言うには、貴族の中には「聖女」と呼ばれて主人公の味方をする人もいるらしいが、わたしのような平民上がりで神殿育ちの聖女は、出てこないらしい。
……それをいうなら、ゲームシナリオ。この先の未来を知っているエッタも、シナリオライターさんから見たら想定外に違いないわ。
ゲームシナリオでは、神殿側は既得権益な存在としてしか登場しないらしく、王都での疫病発生時にも貴族優先で、平民らを助ける様な事をあまりしなかったそうだ。
「王女殿下から聞いたお話が事実なら、元々の歴史ではとっくの昔にワタシが死んでいるんですね。ティアちゃんのおかげで、ワタシは助かりました」
「リッカの話すことは、多分正しいわ。ゲームシナリオ上に聖女が登場しない以上、既に歴史を変えているティアの存在こそが逆転のチャンスね」
わたしの科学知識と神殿への影響力、そしてエッタの未来知識と政治力。
二人が手を組めば、破滅に向かう世界を救う事は不可能ではない。
多くの苦しむ人々を救い、笑顔を増やすのはわたしの本意でもある。
「エッタ。わたし、絶対に貴女も世界も守るわ。だから、もっと詳しく話して。時系列順に起こるイベントを書き出し、そこから優先的に対応すべきことを決めましょう。基本は科学技術の向上。農産物の増産にしろ、衛生面の向上にしろ。望んで作りたくはないですが、軍事技術の向上。全て『硝酸』の生産がキーになります」
「さっすが、元宇宙飛行士のティアね。さっそく未来へのマイルストーンを決めたの。『硝酸』というのが、わたくしにはピンと来ないですけれど。でも、わたくしも本気で頑張りますわ。自分の命も大事ですが、国民を守るのは王族の務め。邪魔する貴族なんかは、ぶちのめしてやりますの!」
「姫さま。少々声が大きいでございます。一応、この部屋は防音魔術がかかっていますが、誰が話を聞いているか分かりませんですので。ティアさまも、お身柄をお気をつけてくださいませ。王族と神殿の必要以上の接触は、他の貴族らから注目されかねませんので」
わたしとエッタが盛り上がる中、セリーヌが忠告をしてくれる。
確かに、わたし達の行動は既得権益を持つ貴族やブルジョアどもにとっては邪魔。
更にいかな王位継承権が殆どない次女姫とはいえ、聖女と神殿が表だって味方するとなれば、王家内のパワーバランスが変わる。
「確かに、セリーヌの言うとおりね。ティアが頻繁にわたくしに会うのは、兄上らからは注目されかねませんですわ。今は少女同士のたわいない話に聞こえるでしょうが、この先活動開始しましたら確実に目立ちますの。むむぅ、これは対策を考えないとですわ。大好きなお兄さまとケンカはしたくないです」
「わたしの方は、司祭長さまに誤魔化しておきますの。リッカ、口止めをお願いね」
「はい、フォンティーアさま。お姉ちゃんは命の恩人、ティアちゃんの味方ですから。絶対に誰にも漏らしません。王女殿下、セリーヌさまも御安心くださいませ」
その後も、わたしはエッタとしばらく話し合いを続けた。
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