第6話 想定外は斜め上
「貴女がたが、今晩。ここにいる事。それ自体が、物語から離れて、生きている証拠ですわ!」
ベッドの上に仁王立ち、ドヤ顔で自論を語るエッタ。
自信満々な様子に、わたしも納得をした。
……確かにゲーム内でキャラが『第四の壁』やシナリオの存在を意識するなんてありえないし、シナリオ以外の行動をするはずもないよね。
「えっと……。姫さま。話が繋がらないと思うのですが?」
「フォンティーアさま。貴女さまから説明してくださいませんですか? 王女殿下のお話を、全く理解できないのです」
しかし、現地民にとっては王女殿下の説明は飛躍していると思われる。
わたしのようにに前世記憶からゲームや多くの物語、エンタメ作品を知るのであれば、シナリオと物語内のキャラクターの関係を理解できる。
だが、本すら貴重な世界で、エンタメ系のお約束を納得しろというのは、かなり無理がある。
「王女殿下、その説明ではわたししか理解しませんですわ。わたしから、お二人にもう一度説明しますね」
「むぅぅ。しょうがないので、お願いしますわ。わたくし、論理的に話すのが少々苦手ですの」
苦笑気味の王女殿下に一言告げて、わたしはリッカとセリーヌに顔を向けた。
……わたしは、論文とかを書くのは得意だったものね。でも、人間心理を読むのは、今も苦手だわ。
「王女殿下がおっしゃりたい事ですが、まず物語というものからお話します。物語は、史実をそのまま記録したものとは違います。大抵は、誰かが考えた内容を書いたものです。ここまでは分かりますか、リッカ」
……ここで神話も誰かが考えた事なんて話すと、話がややこしくなるから言わないわ。
「はい。おとぎ話とか、セリーヌさまのお話していた騎士さまのお話とかですよね。ワタシも、年上の巫女さまから人気だと聞いています」
本を読んだことがあるセリーヌは当然理解していると思うが、神話や聖典くらいしか知らないリッカには、理解度の確認の必要があったのだが、問題無いらしい。
「では、話を続けます。物語では、作者さまの考え通りに登場人物は動きます。あまり良い例えでは無いのですが、セリーヌさまの申した通り、作者の操り人形ですね」
わたしは、二人の眼をじっと見ながら説明をする。
ここで二人にも事情を理解してもらわないと、これから安全に生きていくのは難しい。
もう王族から逃げられないのなら、味方は多い方がいい。
……もう王族から逃げられないのなら、身の安全と今後の発展のために、味方は多い方がいいの。それに王女殿下は、わたしの知識を使って何かしたいみたいだし。
「物語の登場人物は、自分が物語の中にいるとは知りません。しかし、今日。わたしたちは、自分たちが物語の中にいたことに気が付きました。そして、本来ならあり得ない行動。王女殿下の寝室で密会をするなどという事態を起こしました」
出会ってすぐに王女殿下が自分の寝室に他人を連れ込む。
いかな、神殿のお墨付きの聖女とはいえ、斜め上であり得ない話だ。
「……確かに、姫さまの行動は普通ではありえないですね。出会ってすぐの聖女さまと獣人族のお付きを寝室に連れ込むなど。あ! フォンティーアさまやリッカが危険な人物でないのは、すぐに分かりましたが」
「ティアちゃんがいうなら本当だね。ワタシの様な獣人が差別されるどころか、王女殿下の寝室で共に夜着でお話しするなどあり得ないですし」
「ティア、説明ありがとう。わたくし、時々論理が飛んでしまいますの。正しいと思って話しても、通じない事もあって反省してますのに、今日は興奮して忘れてましたわ」
なんとか全員、理解が出来たようで一安心。
わたしは、安堵から大きく息を吐き、サイドテーブルに置いてあった温い茶を一気に飲み干した。
「ふぅ。王女殿下の無茶ぶりには困りましたわ。でも、わたしがこれまで不思議に思って居たことも、これで解決しましたの」
「ごめんなさいね、ティア。で、不思議な事とは?」
わたしの発言に、ぐいと身を寄せてくる王女殿下。
気が抜けたのか、すっかり年相応の少女の表情だ。
「はい。まずですが、この世界において単位系がおおまかですが『メートル法』に一致するんです。更には数学も10進法ですし、一年の長さや惑星の大きさも概ね『地球』と一致。『月』のサイズや『太陽』の大きさ、惑星の公転半径も類似。なので、月食も日食もあります。ここまでの一致は普通あり得ないですもの」
わたしは、宇宙飛行士時代に学んだ知識から、この世界。
惑星が、あまりに地球に類似している事に気が付いた。
なので、星座が一致しない事から、ここは超未来の地球ではと今まで思っていた。
……地球自転軸の歳差運動で北極星は変わるし、他の恒星も銀河系の公転や固有運動で数万年単位で場所が変わるわ。
しかし、ゲーム設定をそのまま移植した世界であれば、地球と類似していても、おかしくはない。
わざわざ特異な環境設定を乙女ゲームを選ぶとも思えない。
……三角測量や影の長さから、現在位置や惑星の大きさを計算する方法は習っていたの。流石に星座は全然違うけど、北極星に当たる星はここでも存在するわ。
ついつい、得意げになって幼いころから確認していた事まで話してしまう。
わたしの悪い癖ではあるが、理解してくれる人がこれまで身近にいなかったのもあって、つい暴走してしまった。
……セリーヌさんやリッカは、ぽかん顔なの。しょうがないよね。
「そ、それは凄いわ、ティア! わたくしには、高度な科学知識は無いから、そんな方法で調べるなんて思いもつかなかったの」
王女殿下を自らの知識で感心させたこと、わたしは少し嬉しくなった。
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