第5話 世界が想定外!
「この世界が『ゲーム』なんですって!! 想定外過ぎるのぉぉ」
王女殿下からの衝撃的な発言に、わたしは深夜の王城内にもかかわらず、はしたなくも大声を上げてしまった。
「フォンティーアさま、何をそんなに驚かれていらっしゃるのですか? 先程、王女殿下は衝撃的なことを申されましたが、ワタシには何も分からないのです」
「そうですわ、姫さま。長くお付き合いしておりますワタクシも未だ、姫さまの申している事案の意味が分からず困っている次第です」
しかし王女殿下の発言した「意味」は、こちらの世界しか知らない者には通じるはずもない。
「前にセリーヌに話した時も反応が薄かったのよね。少なくとも、わたくしの知る限りでは『ゲーム』という概念を共有できるのは、日本からの転生者くらい……。あれ? 『日本人』女性で『宇宙飛行士』ってものすごく年上の人がいたけど、あの人は引退していて打ち上げ事故で亡くなっていないわ! え、じゃあ、ティアは『英語』が通じたから、アメリカの人だったの!?」
「いえ。わたしの前世も『日本人』でした。最後の新型『宇宙船』打ち上げ前には、毎日『マスコミ』に追いかけられて、『時の人』状態でしたけど?」
王女殿下は、わたしの前世を知らないという。
前世の最後には、二十代の女性日本人の宇宙飛行士が新型宇宙船に搭乗ということで、連日報道されていた記憶がある。
我ながら、自分のことが全く知られていないというのは、少々違和感を覚える。
「む、むむむぅ。『商社』勤務でしたから、毎日のニュースは必ずチェックしていましたの。学生時代でもそんな事故が起きていたら、覚えていないはずはないですわ」
「フォンティーアさま。先程から王女殿下と何をお話なのですか? ワタシには何も理解できなくて困っています。隣の騎士さまも同じ様子ですが」
「はい、リッカさん。ワタクシも姫さまの言葉に困惑する事が多いのですが、今日は余計にです」
腕組みして何回も頭を捻る王女殿下。
一人で勝手に盛り上がっている様子にリッカもセリーヌも顔を見合わせて、不思議がっている。
衝撃的な内容と言っていたのに、理解できないのでは衝撃も無いだろう。
その上に、更に意味不明の事を聞けば余計に混乱する。
「まずは落ち着きましょう、王女殿下。わたしから、リッカとセリーヌさまに、憶測ではありますが分かりやすく説明してみます。良いですわよね?」
「え、ええ。そっちはお願いします。貴女なら大体理解していると思いますが、推測で構いませんので説明お願いします。間違っていたら、後でわたくしが修正します。わたくしは、どうして自分がティアの前世を知らないのか、考えを纏めますの」
サイドテーブルに置いてある植物紙の束に、羽ペンでメモを取るエッタ。
まだ東方からの輸入品が大半の植物紙を、贅沢にもメモ用紙に使えるのは、流石は王族だからだろう。
……神殿でも基本は木札。羊皮紙は記録や契約なんかに使っていて、植物紙はめったに見ないの。
「では、お二人に説明をしますわ。王女殿下とわたくし、フォンティーアには前世。この世界に生まれる前に別の世界の同じ国で生きていた記憶がありますの」
「それは、以前フォンティーアさまがお話していた『夢の世界』の事ですよね。水の女神さまから『夢の世界』の英知を授かったと」
「ワタクシも姫さまからは、幼い頃よりお話を聞いております。ここより技術が高度に進んだ世界の事を」
まずは、わたしとエッタが異世界転生者であることを話す。
ここまでは、既に二人には説明済みなので問題はないようだ。
……王女殿下も、側近には自分の秘密を話していたのね。
メモを取りながら、真面目な顔で考え事をしている王女殿下が視界に入る。
その必死に考える様子がとてもかわいく、わたしは笑みを浮かべながら話を進める。
「ここから先は、わたしにも確証がない話。王女殿下と違い、わたしには、『ゲーム』知識が薄いので、推測の話になります。お二人とも、物語。神話や書物に書かれた小説などはご存じですよね?」
……あれだけ真剣に話すのですから、王女殿下は嘘はついていないでしょう。何より、わたしが話す前に自分から前世が日本人というのを話した時点で、異世界転生者という辻褄は合いますし、『ゲーム』という言葉に納得できますわ。
「はい。フォンティーアさまが就寝前によく寝物語で神話についてお話しさせて頂きました」
「ええ、ワタクシも神話は好きですが、最近は王都にて少量生産されています騎士物語の本などを読んでます。美しき姫を守る勇敢なる騎士の物語、憧れますわ」
まだ活版印刷が普及していない世界のため、書物は手書きでしか存在しない。
その上、羊皮紙に手書きで書き写すとなれば高額のため、庶民が気軽に手に入れられるものではないだろう。
……わたしも、この世界で本を最初に見たのは、神話の書かれた聖典だもの。でも、懐かしいなぁ。よくリッカお姉ちゃんがお話してくれたわ。
「王女殿下がお話していました『ゲーム』。これは異界の物語。それも読む人が関与することで、物語の行く末を変える事が出来るものです。そして、これが一番重要な事になりますが……」
わたしは、真剣に思考している王女殿下の横顔を一瞬見る。
彼女がわたしの顔を見て頷いたのを確認しつつ、推測を告げる。
……確か、乙女ゲームって、主人公の女の子が美形男子と仲良くなる話だったよね?
「この世界。わたしたちが生きているここは、異世界の人間が紡いだ物語の中なのです」
「……物語? ……では、ワタシたちは、誰か。神さまでも何でもない、ただの人が考えて作った物語の中で生きているんですか、ティアちゃん!?」
「! それでは、ワタクシの今まで生きてきたことは、神でもない誰かによって操られていた人形と申すのですか!? 聖女さまからとは、にわかに信じられないお言葉です」
わたしの言葉。
それは、神によって生かされていると信じている人々にとっては衝撃的過ぎる真実。
俗にいう「異世界転生」モノを前世で少しは知っているわたしですら衝撃的なのに、何も知らない人が物語内の登場人物と言われるのは恐ろしい事だろう。
「わたくしから補足説明をしますわ。ティア、大変な説明をありがとう存じます。貴女の推測は大体正解ですわ。さて、貴女の前世をわたくしが知らない事については仮説を後で話します。先にお二人に安心できる話をしますの」
メモから顔を上げた王女殿下は、わたしを労った後。
驚きを隠せない二人に、安心できる優しい笑みを返した。
「この世界、厳密に言えば『ゲーム』。物語そのものではありません。神さまの存在や国の配置・地形、王国内の要人など物語に書かれたままの方もいます。それは、わたくしも同じ。しかし、ある時から、この世界は物語通りには進んでいません。なので、わたくし達は、この物語を書いた人の操り人形では、ございません」
「そうなのですか、姫さま? ワタクシたちは、人形では無いと?」
「ええ、セリーヌ。そしてキツネのお姉さん、リッカさんも安心して。貴女がたが、今晩。ここにいる事。それ自体が、物語から離れて、生きている証拠ですわ!」




