第4話 転生は想定外
「えー、ティアは前世で『宇宙飛行士』やってたの! びっくりだわ」
「わたしも、自分でも不思議だったんですけれど……。え、えっとエッタ」
お互いに異世界転生者同士だったことが判明したわたしと王女殿下。
話し出すと長くなりそうだったので、王女殿下のご厚意で城に宿泊し、夜の間に二人話し合う事になった。
……もちろん司祭長さまにも、宿泊の許可は貰ったわ。しかし、想定外だわ。いきなりお城にお泊りなんだもの。
「まだ、名前を呼ぶのは抵抗ありますの? わたくしが許可したんだから、二人だけの時は……! あ、セリーヌとキツネのお姉さんも例外ね。四人だけの時は、無礼講よ」
「姫さま、いくら同じ境遇の方が見つかったのが嬉しいとはいえ、相手に無理を押し付けてはなりませんですよ? まったく、油断なさると、すぐに気が抜けるんですから」
「王女さまのような高貴な方が、ワタシの様な獣人族に対しても分け隔てなくお声掛けしてくださるのはとても嬉しいのですが、あまりそのようなお言葉を賜りますと恐縮します」
豪華な料理ながら、王族に囲まれて味があまりしなかった夕食後。
リッカに手伝ってもらい湯あみをして、今は王女さまの寝室。
王女護衛騎士のセリーヌ、側仕えのリッカと同じ部屋で「パジャマパーティ」をしている。
皆、天幕付きの大きなベットに座り、サイドテーブルに置いたお茶や茶菓子を食べながら話し合っている。
……リッカも普段よりはフェミニンな夜着。可愛いお姉ちゃんだもの、着飾らせるのも上司の役目ね。
「でも、やはり貴女は王女さまですから、当然遠慮はしますよ。第一、今日初めて会ったわたしを寝室に連れ込むなんて、普通あり得ないです! 想定外過ぎますわ」
「そこは、わたくしのワガママです! 日頃より父さま、王陛下には、このような事態も起こり得るとお話ししておりましたの。それでティアと話したいとお願いしましたら、父もティアに興味をお持ちでしたので。ティアが安全な人間であるのは、父も神殿側から伝え聞いているそうですわ」
……それって、わたしの素性が王家側に全部バレバレじゃないですかぁ!?
「では……。王陛下は、わたくしが嘘というか隠し事をしていたこともご存じの上で聞いてくださっていたのですか!?」
「わたくしも、父が何処までティアの事を事前に知っていたかは分かりませんですの。でも、今日ティアとわたくしが一緒に寝るのを許可されていますから、大丈夫ですわ」
今になって、とても怖くなってしまうわたし。
エッタは良いとしても、他の王族にわたしの存在が知られ過ぎるのは危険なのではないかと。
「わたし、かなり危険な立場になっているのではないですか?」
「もう、気にしないで良いの、ティア! 安心してよ、わたくしが貴女を守りますの。そりゃ頼りないと見えるかもしれないけど、これでも王族としての教育も受けておりますわ。王陛下からも、ティアを絶対に手放すなと言われていますし」
「それを聞いて、安心なんて出来ませんですわぁぁ! わたしは、平凡に笑って生きていきたいだけですぅ」
わたしは、すっかり王族に取り込まれるのが確定した。
このまま、王国内の政争に巻き込まれるのは勘弁してほしい。
今度こそは、周囲の人々と笑いあって生きていたいのだから。
「そこですわ! 誰もが平凡な生き方をするため、わたくしは貴女の力を借りたいのですの。詳しくは後でお話しますが、協力をお願いしたいのです。わたくしは前世では、貴女のように立派な人物ではありませんでした。わたくし一人では、何も出来ないのです」
真剣な表情で、わたしの協力を願う王女殿下。
わたしを見る、透き通る泉のような青い瞳。
そこには嘘を感じないし、謁見の間でのように射貫くような感じも無い。
膝の上に置いた小さな拳をぎゅっと握るしぐさ。
その手は細かく振るえている。
年相応の幼さゆえの純粋さ。
ただ願いを訴える瞳。
そう、わたしは感じた。
「ティアの前世は『宇宙飛行士』というのですから、実際に『地球』を宇宙から自分の目で見たことがあるんでしょう? わたくしには、そんな素晴らしい経験は無いですわ」
「えっとぉ。実はわたし、初飛行の時は『宇宙酔い』で宇宙ステーションでも外を見るのは、殆どなかったんです」
身を乗り出して、わたしに根掘り葉掘り聞いてくる王女殿下。
わたしは苦笑しつつ、前世の記憶。
残念な宇宙飛行士時代の事を語る。
……リッカもセリーヌさんも、二人は何を話しているのって顔だよね。こっちの言語で話しているから、言葉自体は伝わっているとは思うけど。
「えー、もったいない! 宇宙に浮かぶ青い神秘の宝石って聞きますのに。あ、じゃあ二回目の時は……」
「二回目の打ち上げ、それが前世最後の記憶ですね。何があったかはわかりませんが、事故があったようです。打ち上げ直前に突然、目の前が真っ白になって、それで人生おしまいでしたわ」
「あ!……ごめんなさい。悲しい事を思い出させてしまいましたわ。代わりに、わたくしの残念な前世の最後を話しますの」
わたしの「死」に関わる事を聞いてしまい、驚き泣きそうな顔になるエッタ。
代わりにと、自分の「最後」について語りだした。
「わたくし、前の世界では、『ブラック商社』勤務の平凡な『OL』。楽しみは家で遊ぶ各種ゲームのみ。『乙女ゲーム』だけでなく『戦略シミュレーション』や『FPS』も遊びましたの。仕事はきつく毎日こき使われて、ヘロヘロになったところに駅の『ホーム』から『線路』に落ちて、あの世界からサヨナラになっただけの悲しいオタク女。今は、王女の仮面をかぶって必死にやっているだけですわ」
自虐ぎみに語る彼女は、もう王女というより年齢以上の知識を与えられて、持て余している少女にしか見えない。
……わたしと同じ。壮絶な前世の記憶に流されているけれど、王女という自分は失っていないのね。
「また姫さまが、分からないことを申されてますが、フォンティーアさま。お気を悪くなさらないでくださいませ。ですが、出来れば、姫さまのお味方になって欲しいです」
「いえ。わたしも王女殿下のお気持ちは理解しますし、嬉しいです。もちろん、出来るだけ協力は惜しまないつもりです。ただ、親しい中にも礼儀ありと申しますし」
先ほどまでは武装をしていたセリーヌ。
今は、近くに短剣らしきものは置くも、結っていた長くて美しい銀髪を流し、すっかりリラックスモード。
王女さまの寝室にも慣れている様子から、時折同室で寝ているのではと思われる。
「無礼講なんだから気にしないでいいのに。でも、ティアの知識が今後の役に立ちそうで嬉しいです。そういえば。『自然ダム』って、結局どういうことだったの?」
「文字通り自然に出来たダムという意味です、王女殿下。土砂崩れなどで川がせき止められた池なのですが、ダム部分に強度があまり無い場合が多いので、突然崩れて溜まっていた水が下流に一気に流れることがあるんです。雨も降っていないのに突然の増水で、これかなって思った訳で」
王女さま、エッタは興味津々といった様子でわたしの話を聞く。
そんな様子をみて、前世知識から推測したことを話すわたしも楽しくなった。
「ああ、ティアが可愛くて賢くて良い子で良かったわ。これで、わたくしの本来の目的。世界を救う計画を始められます」
「え? それはどういう意味ですか?」
いきなり話題を変えてきたエッタ。
その顔は、先程までの年相応な幼さが消え、為政者としての厳しさを見せだした。
……世界? いったい、どんな話なんだろうか?
いきなりの大きな話に、わたしは思わずごくんと固唾を飲んだ。
「まずは、この世界について説明しますの。あ、この話は現地の方からすれば衝撃的な内容なのは、先に知らせておきますわ。ティアは大丈夫でしょうけれど、キツネのお姉さん。リッカは大丈夫かしら? 神殿育ちだとショックな事も多いわ」
エッタの言葉に、リッカがぶるっと震えるのが視界に入る。
わたしはぎゅっとリッカの手を握り、こう伝える。
「大丈夫。何があってもわたしがリッカお姉ちゃんを守るからね」
「ありがとう、ティアちゃん。いえ、フォンティーアさま」
目じりに涙が見えるものの、リッカはぎゅっと手を握り返してくれた。
「いいなぁ。配下でありお姉ちゃんだなんて。わたくしのセリーヌは頭が固いから、そんな風に呼んでくれないですもん」
「姫さま! わたくしには、王族に仕え貴女さまを守るという使命があります。ですが、そこには貴女を大事に思う気持ちがあるのをお忘れなく……。え、エッタちゃん」
頬を染めてエッタを「ちゃん付け」で呼んでくれるセリーヌ。
その様子は、わたしとリッカとの関係に負けていない。
そう思い、わたしは二人に微笑み返した。
「ありがと、セリーヌお姉ちゃん。さあ、大分横道にそれましたけれど、話を元に戻しますわ。わたくしは洗礼式の際に炎の男神さまから前世記憶を呼び出されたのですが、その時に気が付きましたの。この世界は、前世世界にて作られた『同人』系『乙女ゲーム』と非常に似通っていた。いえ、『ゲーム』世界そのものだった事に」
「えー! この世界が『ゲーム』なんですって!! 想定外過ぎるのぉぉ」
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