第48話 称号授与式は想定外
冬を目前とし、朝晩が冷え、木々の葉が赤く染まるころ。
わたしの称号授与式が、王城にて行われる。
「受勲者、フォンティーアよ。前に」
「はい」
城内の最奥。
純白の大理石で天井から壁、床まで覆われた白亜なる玉座の間。
毛足の深い深紅のカーペットが玉座までまっすぐに延び、玉座の背後の壁にも豪勢なタペストリーや王族のご先祖様らしき人々の肖像画が展示されている。
また南の庭園側には大きなガラス窓が開き、そこから差し込む昼の光が北側壁に埋め込まれたガラス鏡でキラキラと反射する。
さらには壁には金色の装飾(おそらくは真鍮細工)が幾重にも施され、豪華さを彩っている。
……すっごい贅沢な部屋だよね。窓ガラスさえ平面ガラスはごくまれなのに、平面ガラス製の鏡までなんて。銀鏡反応を使っているのかなぁ?
物珍しさからキョロキョロしたくなるが、周囲にはお貴族さまや王族らしかおらず、エスコート役として横に立つ司祭長の無言の笑みで、ぐっと辛抱する。
……今回の受勲式のエスコート役は、義母さまとセリーヌさん。パジャマパーティの際にエッタやセリーヌさんに頼んだの。義母さまは良いけど、他の神殿騎士のお兄さんたちには頼めないしね。
本来、準男爵の授与は平民へのものなので、事務的に行われるものらしいが、今回は騎士爵授与形式に倣っている。
わたしの場合、一代のみかつ領地なしの準男爵という特例、更にゴーレム撃破の立役者という事も含むので、騎士爵に準ずる形式にしたのだそうだ。
……全部特例だよねぇ。女の子への騎士爵の授与も聞いたことないし。たぶん、他の貴族らへのアピールもあるんだろうなぁ。
事務次官から名前を呼ばれたわたしは、背後にいる多くの貴族からの視線を受けながら前に歩み出る。
金糸で刺繍された純白の神官衣装に身を包む司祭長。
王国騎士団の儀礼服を身にまとうセリーヌ。
二人の美女にエスコートされ、進む先。
いかにも由緒正しそうな木製玉座に座り、淡い笑みを浮かべる王。
王の横には少し線が細いが、エッタや王によく似た金髪碧眼の美青年。
そしてドヤ顔が消せないエッタは、ロイヤルブルーなフルレングス丈のドレス姿。
……あの青年が、エッタが大好きなお兄様。王太子のシャルルさまだよね? でも、エッタ。こんな儀礼式にドヤ顔は流石に無いと思うの。
ふんすふんすと鼻息が荒そうでニマニマとした自慢顔。
そんなエッタの様子を見、本当であれば緊張するであろう儀式中なのに、ふと笑みが浮かんでしまう。
……本当にうれしそうなのよね、エッタ。
SPC役員の各ギルド長からプレゼントしてもらった、首元の詰まった昼間の正装ドレス、ローブ・モンタント。
急いで仕立ててもらったが、最高級のシルク生地は着心地も良く、コルセットもゆるめなのには感謝。
……カーペットの毛足に躓かないようにしなきゃ! まだヒールでなくて良かったの。スカート丈は少しおしゃまに伸ばしてもらったけど
履きなれない底厚の靴で、前にそろりそろりと進む。
幸い、スカート丈はくるぶし丈にしてもらったので、スカート裾に足を引っかける心配はない。
純白をベースに水の聖女らしくと淡いスカイブルーであしらわれたドレスを身にまとい、背筋をぐっと伸ばす。
髪型もハーフアップにし、義母から送ってもらった銀の櫛で飾り立てる。
「フォンティーア、跪拝せよ」
「はい」
一段高くなっている玉座の前。
わたしは右ひざを付き、頭を深く垂れる。
……お作法は、義母さまに教えてもらったの。
そっと上目使いにすると、王が玉座から立ち上がるのが見える。
近くにいる護衛騎士が宝剣を王に渡しているらしい。
……確か、初代王が魔王を倒した剣でしたっけ? 魔法剣なんだろうねぇ
王は宝剣を鞘から抜き、平らな横面を、わたしの右肩。
そして左肩にトントンと厳かに触れる。
「道路の整備をはじめとする数々の功績を挙げたフォンティーアを称え、一代限りの『女準男爵』の位、ならびにアヴニールの家名を授ける。さあ、立て。フォンティーア・ド・アヴニール。我が王国の誇り高き新たな翼よ!」
わたしが立ち上がると、王が、王家の印璽を押した羊皮紙製の爵位認可証書を渡してくれる。
「ありがたき、幸せでございます」
うやうやしく、わたしは受け取る。
これで、わたしは女準男爵フォンティーア・ド・アヴニールとなった。
……王様から家名、アヴニールを貰ったわ。『未来』っていう意味らしいの。爵位があるのに家名が無いのはおかしいって話で、くれたらしいの。
周囲の貴族から祝福の拍手が起こる。
王太子シャルルはにこやかに、エッタはドヤ顔のまま大きく手を叩く。
「皆さま。わたくし、これからも王国と皆さまに尽くしていこうと思います。若輩者ながら、ご鞭撻のほど、宜しくお願い致します」
わたしは皆に顔を向け、深く頭を下げた。
◆ ◇ ◆ ◇
夜のドレス、ローブ・デコルテに着替えての祝賀会。
天井シャンデリアの魔法灯の白い光。
そして壁のろうそく、油ランプの黄色い光が宴会場をほんのり照らす。
多くの貴族らが飲み物を取りながら歓談する中、わたしは場違い感を覚える。
「さあさあ、ティア。今日はあなたのお祝い。一緒に楽しみましょう」
「エッタ。いえ、アリエッタ王女殿下。わたくしのような下々に直接お声掛けなど……」
わたしのドレスはスカイブルーの生地にレースをふんだんにあしらったもの。
デコルテ部分の露出は控えめなかわり、背中と肩回りの肌を大胆に見せ、ロングな手袋で肘より先を覆う。
……エッタは、真紅のローブデコルテ。わたしのよりスカート丈は長いし、デコルテ部分の露出もわたしよりは多め。とはいえ、わたしもエッタも、胸の谷間どころか、それ以前の『大平原』。共に未来に期待したいところね。
「んもおぉぉ! わたくしとティアの仲じゃないの。今更、他人行儀なのもイヤよ」
「とはいえ、わたくしは女準男爵で平民。本来であれば王女殿下と直接お話出来る身分などではございません」
普段なら身分差など気を使わないが、今日は王宮内かつ王侯貴族が集う場所。
大っぴらにエッタと話すのは気が引けてしまう。
「では、王女命令! これ以降、フォンティーア・ド・アヴニールは、わたくしの事を公式な場においても名前で呼ぶこと。出来れば愛称で呼んでくれると嬉しいですわ。ね、ティア」
「はぁ……。しょうがありませんですわね。では、今後ともよろしく、エッタ」
腰に両手を当て、胸をそらしながら王女命令を下すエッタ。
しょうがないので、わたしはいつも通りにっこり笑ってエッタと呼んであげた。




