第49話 物語は次なる想定外へと続く!
わたしの女準男爵授与を祝う祝賀会。
とはいえ、主役であるわたしは、まだまだ子どもで、神殿の巫女。
平民最高峰の称号を持つ聖女とはいえ、貴族としても扱いに困るのだろう。
わたしの近くにいるのは保護者の司祭長。
そしてニコニコ顔の王女エッタと何とも言えない表情のセリーヌだけ。
……私が貴族令嬢の立場でも、未成年で平民あがりの子にどんな話をしたら分からないよね。その上に、王女の『つば付き』ともあれば、扱いに困るわ。リッカは、一足先にお泊りの準備で待機中ね。
「アリエッタ。そろそろ今日の主賓を、僕に紹介してくれないかい?」
そんな時、幾人かの文官、騎士、側仕えを引き連れた美青年が現れる。
「シャルルお兄さま! はい、紹介いたしますわ。わたくしの大親友にして共に改革を進める仲間。聖女にして女準男爵のフォンティーア・ド・アヴニールですわ」
「お、お初にお目にかかります。わたくし、フォンティーアと申します、王太子殿下。木々の葉が赤く染まる頃、御身にお会いできましたことに感謝致します」
エッタの兄=王太子。
先程も王陛下の横にお立ちになられていたので、見間違うはずもない。
……まだお若いから、エッタにも似た柔らかい印象の美青年だよねぇ。平民のわたし相手に背を屈めるくらいお優しい方だから、玉の輿を狙う貴族令嬢は、メロメロだよねぇ。
王太子が目線を合わせようと屈み込むのを見て、わたしは急いで右膝をつき、頭を深く垂れる。
そして貴族らしい季節の言葉を加えた挨拶をした。
「実に可愛らしい子だね、エッタ。その上、数々の武勇に功績。僕がもっと若ければ、結婚相手に考えていたかもね」
「お、恐れ多いお言葉でございます、殿下。わたくしのような平民の小娘に対し、過分なる評価。御冗談でも困ってしまいます」
王太子が自ら膝を曲げるというだけでも大事件。
周囲の男性貴族たちから声にならぬ声が上がり、結婚相手という言葉に令嬢らから、きゃあと悲鳴が上がる。
……向こうで、王陛下も苦笑しているのには、困っちゃうわ。結婚うんぬんは冗談だと思っていらっしゃるんだろうけど。
「お兄さま! 少々遊びが過ぎますわよ。ティアがすっかり困っていますの。ご自分のお立場を少々考えてくださいませ。第一、お兄さまとティアでは八歳も歳が違いますのよ?」
「そうかい、エッタ? 貴族間では十歳くらい年下の女性を嫁にするのは、よくある話だぞ。とまあ、冗談にしておかないと父上もお冠だし、ティア嬢が本当にお困りだ。ティア嬢、これからも妹と王国をよろしく頼みます。司祭長どのにも、宜しくです」
「は、はい。王太子殿下」
「ええ、殿下」
なんとも、王太子に遊ばれた感。
とはいえ、ちゃんとレディとして扱われたことは嬉しくも思った。
「ティア、お兄さまに惚れちゃった? 顔、赤いよ? お兄さまって、人たらしっていうか罪な男なのですわよねぇ。早く良いお姉さんが出来たら良いとは思うんですけれど。あ、わたくし。ティアをお義姉ちゃんって呼んでもいいですわよ?」
「うふふ。ティアちゃんも恋が芽生えるお年頃になったのね」
「もー、エッタに義母さままでわたしで遊ばないでよぉ!」
イタズラ顔でわたしをからかうエッタに司祭長。
つい、今自分が居る場所がどこなのか忘れ、大声で二人に文句を言ってしまった。
「あらあら。聖女さま、淑女が大声を上げられるなんて、おはしたないですわよ。アリエッタ、わたくしにも聖女さまを紹介くださらないかしら?」
そんな時に、これまた取り巻きを沢山引き連れた妙齢の令嬢が近づいてくる。
王女であるエッタを名前で呼べる関係。
司祭長も急いで頭を下げ、後ろへと下がる。
そこより、わたしは令嬢の正体に気が付き、膝をついて首を垂れた。
……確かエッタの一番年上のお姉さま。もう二十歳は越えられているとお聞きしているの。
「紹介が遅れて申し訳ありません、お姉さま。ティア、こちらはわたくしの姉にして公爵家に輿入れをしたブランシェお姉さまですわ」
シャルルよりも少し歳上。
エッタから親しみやすさを取り除いたような氷の美貌。
そのような印象を与える美女ブランシェが薄い笑みを浮かべている。
……公爵家っていえば、王国では一家しかないわ。確か、先々代の王弟の家系だったっけ? 王家の血は継いでいるし、下位とは言え王位継承権を持つ家のはずよね。
公爵家としては血を濃くする意味、王家としては人質として王の娘を輿入れさせたであろう、典型的政略結婚。
六親等は最低でも離れているだろうから、近親交配の危険性も無いだろうが。
……エッタも、いずれは政略結婚しちゃうのかなぁ。わたし、前世でも結婚はしなかったから、ピンとこないの。
まるで値踏みをするような印象の彼女に、わたしは面会の挨拶を丁寧にした。
「ちゃんと礼儀作法は出来ている様ね。今後もアリエッタの友人でいるつもりなら、しっかりなさい。周囲の貴族は、いつも注視しています。貴女が王国への忠誠を誓って下さる事に感謝致しますわ」
背後にいるのは、ブランシェよりも十歳以上は更に年上。
やや太めで三十代くらいに見える柔和な印象の男性だ。
「ブランシェ。あまり可愛らしいお嬢さんをイジメるものではないよ。彼女がアリエッタさまと一緒に戦わなければ、私たちも危なかったんだし」
「貴方。わたくし、別にアリエッタやお友達をイジメたつもりはないですわ。貴族社会においての教育をしたまでです。では、聖女さま。今後とも妹を宜しくお願い致しますわ、おほほ」
口元を扇で隠しながら去っていくブランシェ。
緊張の原因が去り、わたしは大きくため息をつく。
「ティア、ごめんね。お姉さま、ご自分はもちろん、わたくしにも周囲にも厳しいの。SPC設立の時も、随分と苦言を言われたわ」
「ううん。エッタと付き合い、貴族社会で生きていくのは、このくらいの事でへこたれてはいられないわ」
「ええ、ティアちゃん。ここには笑顔で他人を値踏みするのは当然。良い人もいますでしょうが、裏切ったり、罪を擦り付けたりする卑怯な大人もいる世界。わたくしでも完全に守る事が難しいの。でも、あなたなら大丈夫。お母さんは信じているわ」
そっと頭を撫でてくれる司祭長。
子ども扱いされたという恥ずかしさと大事に思ってくれているという嬉しさ。
その両方を抱え、わたしはこの世界で戦い抜くことを決心する。
そして、絶対にもう一度宇宙を目指す!
「ありがとう存じます、義母さま。エッタ、明日からまた新たなるロードマップを立ち上げますわ! 最初は魔導モーターの量産を目標にします」
「そうこなくっちゃ、ティア! じゃあ、今晩も作戦会議ね」
ますます周囲の貴族らから浮いていくわたし達だった。
◆ ◇ ◆ ◇
「あー、どうしよう。あたし、お貴族様の中で学校なんて自信ないよぉぉ!」
同時刻、王都の下町部。
近所では美味しいと有名なパン屋。
その二階から少女の声が響く。
「夜更けに何叫んでんだい、ルシア。近所迷惑だから大人しく寝なさい」
「ごめんなさい、お母さん。でも、あたし。心配で心配で。令嬢さまにイジメられたりしないかなぁ」
ルシアと母親に呼ばれた亜麻色の髪と瞳を持つ少女。
平民ながら、その膨大な魔力とたぐいまれなる知性を貴族魔術学院の学長に見いだされ、春から学院に通う予定。
ティアやエッタと同じ学年となる少女。
彼女こそが、この世界の「主人公」。
正史においては、いずれ王侯貴族を打破、ひいては魔族帝国をも滅ぼす革命の乙女になる勇者。
「あーん。不安でたまらないよぉ」
「早く寝ろ、ルシア。そんなに不安なら、今から学長先生に貰った教科書でも読んでな」
「わかったぁ、お父さん。誰か友達になってくれる子いるかなぁ」
しかし、今はまだ不安と希望に満ちた幼い少女。
ルシアとティア、エッタの出会いが、世界をどう変えるのか。
まだまだ、未来は決まっていない。
(第1部 完結)
お読み頂き、ありがとうございます。
面白い、続きが読みたいと思って頂けたなら、『ブックマーク』と広告下の【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にしていただけたら、とっても嬉しいです^^
皆様の声援が、作品を書き続ける原動力となります。
なにとぞ、今後とも応援を宜しくお願い致します。




