第47話 準男爵は想定外
「今日は皆に無理を申してすまぬ。さすがにあの娘の件は、関係者を集めたうえで秘密会議とさせてもらった」
「いえいえ。陛下には、わたくしの娘がご迷惑をおかけして申し訳ありませんですわ」
「陛下が頭を下げることではございません。今回の事案も私の配下が殺された事が原因ですし」
「元気な娘ではないですか、陛下。王女殿下ともども、実に興味深い。私の学院へぜひ欲しいものです」
王城の奥深く。
王と彼に親しい関係のごく一部の人物のみが一室に集まり、フォンティーアの扱いについて秘密会議を行っていた。
「まずは育ての親たるアウレリアに尋ねよう。フォンティーアだが、彼女に王家や王国に対する翻意は無いのであろうな? まあ、我が娘エッタからの報告では、大丈夫だとは思うが……」
王は父としての顔で、娘の友人であるティアの事について司祭長に尋ねる。
これまでもエッタは父である王にワガママを言ってきたが、ここ最近はティアの事ばかりを話す。
そして、いつも楽しそうにしているのは、父としては嬉しいのだが、王としては聖女と王女の接触を政治的に利用されかねないことを心配していた。
更には今回のゴーレム襲撃事件など、エッタが危険になる機会が増えたのも気にはなっている。
「はい、陛下。ティアちゃんはとっても良い子。他人に自分から悪意を向けた事は全くありません。頭の中は何かを作りたい、それを使って人助けをしたいという思いで一杯。王家が国民に対し、悪政を行わぬ限り大丈夫だと思いますわ。おほほほ」
「アウレリアよ。それは、余に対する警告か? 幼馴染で王家に今まで仕えてくれたお前の言う事だから真面目に聞くが、少々不敬すぎんか?」
しかしながら、司祭長は半分茶化しながらも、ティアを褒めつつ、王の政治態度についても苦言を告げる。
王も、幼いころから付き合いのある彼女の意見は、苦笑しながらでも聞くしかない。
「司祭長どの。いかな付き合いの長いお主とはいえ、陛下に対し苦言すぎますぞ。さて、フォンティーアどのに関して私の方でも調べましたが、あれは表裏も無いが正直恐るべし少女です。あの知識量と行動力。味方で居るうちは非常にありがたいが、敵になれば実に恐ろしい。もう私は、彼女の本気説明は勘弁です。ということで、確実に王女殿下の友人枠として囲い込むことを提案いたします」
「うむ。既に囲い込むのは決定済みよ。とはいえ、ルナール。お主を倒す説明とは実に面白いな」
港湾ギルド長にして、王家直属の隠密の長でもあるルナール。
彼も、ティアに対しては好意を持つものの、そのトンでも無さに少々困惑してはいる。
「そこまで優秀な少女とは、絶対にわが校に欲しいですね。今年は平民枠からも優秀な少女を入学させるつもりですし、実に面白い」
「学長先生。あなた様の意見は、あまり参考になりませぬ。いつも政治を無視なされて、ご自身の面白い優先で話を進めてしまう。余が在学中から、一向に変わりません。いつまでも若い外見同様、思考も老けむというのですか?」
一見、青年に見える魔術学院の学長に対し、敬語で接する王。
王の在学中から今の姿を保持し、本人の興味本位で動いて困ると愚痴る。
「良いでは無いかな、レオナルドくん。で、どうやって聖女どのを我が学院へねじ込むのかい? 僕の独断で平民枠をもう一人増やしてもいいけど?」
学長は王に、ティアをどうやって学院にねじ込むかとニマニマしながら提案する。
自分の裁量でも問題無いと宣うが、彼の表情からは王に責任を投げている節が見える。
「そこなのだ。おそらく学院でもエッタはフォンティーアと仲睦まじくするであろう。だが、王女と聖女ではあるが平民が友人という形は、古い派閥子息からは妬みをうけて、エッタが激怒するのが見える。余が思うに、あの娘にはゴーレム退治も含めて多くの功績がある。何かの爵位なり称号を与えれば、それなりに形になると思うのだが……」
「でしたら陛下。わたくしに考えがありますの。騎士爵なり準男爵なり、平民が持てる称号を一代かぎり。領地なしで与えれば形になるのではないでしょうか? わたくしが陛下……いえ、レオくんから頂きました『二つ名』のように……」
苦肉の策として、ティアになんらかの称号を与えて箔をつけるべきと考える王に、司祭長はもう一案加える。
ただ、血なまぐさい二つ名を王から貰った事に対する恨み節も加えて。
「わ、分かった、アウレリア。あの時は、余が悪かった。はぁ。余は、お前にも娘らにも遊ばれるのが人生か……。とはいえ、助けられたのも事実。アウレリアの案で進めたいと思う。皆、良いかな?」
「御意、御身の思うがままに」
こうやって、ティアが知らぬ間に、大人たちによって彼女が更に祭り上げられることが決まった。
◆ ◇ ◆ ◇
「ということなの、ティアちゃん。納得して称号をもらってね」
司祭長から、わたしの知らない間に決まったことが報告される。
エッタが持ってきた封書の内容を事前に知っていたのは、耳が早い司祭長だから、またどこかの「草」経由で知ったのかと思っていれば、決定をしたその現場にいて発案が司祭長ご本人だったというのは驚くしかない。
……でも、他にも面白い話が聞けたのも本当ね。ルナールさんが密偵の長だったとか、陛下と義母さまが幼馴染で、物騒な二つ名の命名者が陛下だったのとか。魔法学院の学長が年齢不詳だとか。
ルナールがわたしたちに対し妙に協力的だったり、エッタの身の上を酷く心配していたのも納得。
リュカを守って殺された人を倒すのに、敵が魔法を使わねばならないほど強かったであろうことにも、つじつまが合った。
だが、それとわたしの称号授与は話が違う
「義母さまぁぁ。わたくし個人の意見は聞かないのですかぁぁ。ただでさえ、『聖女』なんて似合わない二つ名をもらって困っていますのに、この上に『女準男爵』なんて頂いたら、もう普通の女の子に戻れないです!」
「あら、ティア。あなた、自分が普通という自覚でもありますの? どこから見ても普通ではないですのよ、おほっほほ。納得して、わたくしと共に学院へ通いましょうね」
「むぅぅぅ!」
エッタと組んで改革を始めた時点で、もう後戻りはできないのは理解していた。
しかし、SPCの社長となり、女準男爵となるのまでは、想定外だ。
……わたし、何処まで流されていくんだろう……。でも、エッタと学校に通うのは楽しいよね、きっと。
わたしは、この先の人生に一抹の不安と、大きな希望を感じた。
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