第45話 義母さまの強さは、想定外!
「見つけた! うちの可愛い娘たちに何するの!?」
ビームまで撃ってくるアイアンゴーレムに追い詰められたわたしたち。
もうダメだと諦めそうになった時、聞きなれた女性。
司祭長さまの声が、頭上にある王都を囲む城塞の上から大きく響く。
そして、なんとそこから這いまわるゴーレム目がけて飛び降りてきた。
「うそぉぉお!」
まったく想像もしていない行動をした司祭長に、わたしは声を上げてしまう。
「はぁぁ!」
なんと司祭長は、落ちてくる勢いのままに両手に握っていた大型メイスを半壊状態のゴーレムに叩きつける。
その一撃は地響きを起こす程で、ゴーレムの背へ甲高い衝撃音を立ててメイスがめり込む。
固いはずの地面が地割れを起こし、ゴーレムが割れ目に飲み込まれた。
「ふぅ……っと」
そして、その反動を利用して地面へひらりと着地する司祭長。
「義母さまぁ!? お怪我をしているのに、あんな高いところから飛び降りられるなんて無茶過ぎますの!」
「あら? 危ないところを助けてあげたのに、先に感謝の言葉も無いのかしら、ティアちゃん? むむむ、このメイスも壊れちゃったわ。お気に入りの一本だったのにぃ?」
驚きと心配から声をかけるわたしに対し、折れ曲がってしまった大型メイスをポイと捨て、普段通りの笑顔をわたしたちに向ける。
しかし、その姿は満身創痍。
白銀の鎧の各部はゴーレムからの打撃を受け歪んでいる上に、大量の出血で汚れている。
「だってぇ、だって! 義母さま、血だらけだなんだもん。心配しちゃうよぉ」
「あら、ごめんなさいね。これでも、あなたたちがゴーレムを相手してくれている間に治癒の奇跡で治してきたわ。あ、上から飛び降りても大丈夫なのは、身体強化の奇跡ね」
泣いてしまったわたしの側まで歩み寄り、金属の籠手ごしにわたしの頭をゴシゴシと撫でてくれる司祭長。
更には腰を半分抜かしていたエッタを抱っこして起こし、そのままよしよしと撫でる。
「ちょ! し、司祭長さまぁ! わたくし、赤ん坊ではございません。それに、まだ戦闘中。ゴーレムは未だ健在ですわぁ!」
赤面しているエッタが文句を言いながら指をさす先。
背中の真ん中にメイスの一撃を喰らい、背骨も折れたように見えたアイアンゴーレム。
しかし地面にめり込みながらも、そこから放たれる殺気は一向に消えず、血のように赤い目は今にもビームを放つ様子を見せる。
「あら、ごめんなさい。では、先に邪魔モノを退治しますわ。二人は安心して観戦していてね」
エッタを降ろした司祭長、金属製の両腕籠手をガチンと打ち付けて、ゴーレムへと歩み寄る。
「危ないです、素手なのに! まだビーム攻撃が!?」
「さっきの光った奴かしら? 大丈夫、もう撃たせないわ。よいしょぉぉぉ!」
司祭長は、何気ない様子でゴーレムに接近。
グリーブで、どすんと勢いよく蹴り上げた。
「うそぉぉ!? ティア。司祭長さま、あんなに強かったのぉ?」
「お義母さま、ほんわかさんですけど、魔族大戦の英雄、『深紅の戦巫女』ですもの。とはいえ……常識外れというか、想定外というか……」
すっかり観戦モードに入ってしまったわたしとエッタ。
司祭長、大暴れの現場をじっと見る。
「はぁぁあ! 参ります、神拳流奥義……」
おそらく一トンはあるであろう鋼の固まりを蹴り上げ、半壊状態のゴーレムを無理やり立たせた司祭長。
なんらかの技名を叫びながら、気迫と魔力を身体に貯める。
「やぁぁ!」
そしてゴーレムの腹へと無数の連打が撃ち込まれ始めた。
「リッカお姉ちゃん、足の具合はどうかしら?」
「ティアちゃんの治療のおかげで、もう立てます。ありがとう。でも、ゴーレムから目を離して大丈夫かしら?」
「たぶん、チェックメイトと思うよ、お姉ちゃん。だって、義母さまの連打でゴーレムがどんどん壊れていくんだもの」
わたしとエッタは、ゴーレムを「無限ボコりモード」で殴っている司祭長を見ながら、リッカやセリーヌの元へと移動した。
もう立てないはずのゴーレムは、司祭長の連打で無理やりに棒立ちのまま無限に殴られていて、もはやビームを出す頭部すらも形を失っている。
「姫さまぁ。よくぞ、ご無事でぇ」
「セリーヌ、まだ戦闘中だから泣くのは後よ。それにしてもティア。あれ、いつまで続くのかしら? まるで『格闘ゲーム』のハメ技コンボみたいだわ」
涙目で抱きつきにくるセリーヌを適当にあしらうエッタ。
彼女が呆れ顔で言うのも、当然。
既に一分以上経過しているのだが、司祭長の拳が一向に止まりそうもない。
……義母さまの身体がほんのり光っているのは、身体強化と治癒、両方使っているのよね。あんなに全力で殴り続けたら腕も拳も壊れるもの。あ! あれ、普通に殴っているのじゃないわ!
よく見れば、拳が撃ち込まれるたびに閃光が見える。
金属同士がぶつかった火花とは明らかに違うし、撃ち込まれる度に重低音が周囲に響く。
「ふんふんふんふん!」
だんだん打撃のペースが上がり、ゴーレムの身体には無数の打撃跡が穿かれる。
もうピクリとも動かないし、まだ残っていた右腕もちぎれ飛んでいる。
「ふぉぉぉ! トドメぇぇ!」
そして最後にと、両手による掌底突き。
そこから光の球が放たれ、ゴーレムの腹で炸裂した。
……あ! 全部の打撃に気功弾を仕込んでいたのね、義母さま。
「ふぅぅぅ」
一瞬の残心を見せた後、司祭長はゴーレムにゆっくりと背を向ける。
「……屠竜爆裂拳」
技の名前を呟く司祭長の背後、ヒビだらけになったゴーレムから光が溢れたかと思うと、轟音と共に爆発四散した。
「なんか、『KO!』って表示が見えなかったかしら、ティア」
「それは流石に違うと思いたいわ……。でも、良かった」
エッタの呟きにわたしはツッコミを入れ、司祭長のトンでも無さに呆れつつ、ほっと安心した。
「ティアちゃん、リッカちゃん。お母さん、勝ったよ」
戦闘を終え、わたしとリッカに向けた司祭長の顔は、幼いころから見なれた慈母のものだった。
◆ ◇ ◆ ◇
「出遅れてしまったか。でも、あの子たちが無事でよかったよ」
「すいません、学長。私の連絡が遅れてしまい……」
ゴーレムを撃破した司祭長を囲んで四人の少女たちが喜び合う様子を城塞の上から眺める青年がいる。
学長と呼ばれた彼は、恐縮した表情の老人に、こう答える。
「アンベル、君は悪くないよ。騎士団からの連絡が遅かったのが原因。住民らに大きな被害が出なくて幸い。そういう意味では、あの子たちに感謝せねばな」
「ええ。王女殿下と水の聖女、あの二人のおかげです」
SPC「王都再開発目的会社」に魔術師ギルドから派遣されている老魔術師アンベルは、愛しい孫娘を見つめるような表情で、城塞の上からティアたちを眺める。
「では、王女殿下だけでなく聖女どのも我が学院へご招待をせねばならん。王陛下へも進言をせねばな。ふははは、これからもっと面白くなりそうだぞ。二人の転生少女とはなぁ」
「ええ、学長」
ティアたちが知らぬ間に、大人たちも大きく動き出した。




