第43話 敵がしぶといのは、想定外
工事現場に出来た穴。
そこにわたしの魔術<津波>でアイアンゴーレムを流し込み、トドメとばかりにエッタが炎系魔術<電離極熱球>を複数個撃ち込むことで、溜まった水と激しく反応し、強烈な水蒸気爆発が発生した。
「お姉ちゃん! リッカお姉ちゃん、! どうして、わたしの上に覆いかぶさったの!」
「だ、だって。ティアちゃんが怪我するのは嫌だったんだもの」
わたしが想像していたよりも激しかった爆発。
リッカは、わたしを庇うべく覆いかぶさってくれた。
「ティア、大丈夫? わたくし、耳がおかしいの。セリーヌ、あなたも怪我していないかしら?」
「な、なんとか。ワタクシも耳がおかしいです。で、アイアンゴーレムは、どこに行ったのですか? 穴の近くに居ませんですが」
幸い、爆心地からの爆風は近くにあった巨大な岩が盾となってくれたため、熱風や破片、衝撃波がわたしたちの頭上を通過し、全員無事に助かったようだ。。
「リッカお姉ちゃん。もう無茶はしないでよね。で、ゴーレムは何処かしら?」
まだふらつく頭を軽く振り、周囲を見回す。
先程まで、ゴーレムの攻撃を受けながらも、なんとか残っていたスラムの家屋。
それらがすべて吹き飛び、見渡す限り何もない更地になっている。
「何処にも見えないけど……。ま、まさか!?」
わたしはイヤな予感がして、顔を上に向ける。
「う、上から落ちてくる! 各員、急いで退避!!」
昇ってきた朝日を受けてキラキラと輝く銀色の固まり。
それが空高くから凄い勢いで落ちてきていた。
……爆発が臼砲みたいになって、ゴーレムは真上に撃ちあがったのね!
「リッカお姉ちゃん、逃げるよ」
「先に逃げて……。ワタシは、だ、大丈夫だから」
エッタとセリーヌが走って逃げるのを見ながらリッカの手を引くが、彼女は立ち上がろうとしない。
よく見ると、彼女のスカートから伸びる綺麗な脚から血が流れていた。
「怪我してたの! 早く言ってくれなきゃ」
「ティアちゃん、わたしにかまわないで、早く逃げて!」
……もう、そんな事言わないでぇ!
既に上を見る余裕も治癒術を使う時間もない。
わたしは、押しつぶされるよりはマシと判断。
いちかばちか、魔術を発動した。
「<津波>、逆噴射よ!」
「きゃぁぁ!」
ぎゅっとリッカの身体を抱き寄せ、普段とは逆の使い方――自分たちを水流で強制的に押し流すように<津波>を発動。
威力を弱めに設定したので、押しつぶされることもなく水の流れに押されて、二人ともその場からの移動に成功した。
「ティア、リッカ! 大丈夫ですか?」
「ぷはぁ。な、なんとかぁ。ゴーレムは?」
轟音と激しい地響きに襲われた後。
エッタとセリーヌに助けられ、わたしとリッカはなんとか水の中から抜け出る。
「フォンティーアさま。先程、ゴーレムは穴の側に落下しました」
セリーヌの指さす方向を見れば、先程までわたしとリッカが居たすぐそば。
地面にクレーターを作ってアイアンゴーレムが倒れていた。
「やった……のかしら?」
「ティア、その発言は悪い『フラグ』よ! ほら、まだ動いていますの」
リッカの止血を行いながらつぶやいたわたしの「フラグ」発言の後、エッタが叫んだとおり。
ゴーレムはギシギシと大きな音を立てながらも、歪んだ身体を立たせようとしている。
「もう一回、同じ手で打ち上げれば……。無理か」
もう一度、ゴーレムを同じ手で上空高く打ち上げれば、確実に破壊出来るはず。
しかし、砲台となる工事現場は爆発の衝撃で土砂が吹き飛び、穴は崩れ去り、水が貯められそうな形状をしていない。
「どうしますの、ティア。セリーヌに前に出てもらい、わたくし達の魔術攻撃で倒しましょうか?」
「それは無理です。セリーヌさんに死ねっていうのと同じですもの。でしたら、こちらに近づかせないために、わたしたちが移動砲台になるしかないわ。セリーヌさん、リッカお姉ちゃんをお願いします」
曲がりくねった足を引きずりながら、立ち上がろうとするゴーレム。
左腕は吹き飛び、右腕もねじ曲がっている。
それでも、鮮血のような赤い目を輝かせ、わたしたちを睨む。
「そんな! セリーヌさま、ワタシは大丈夫ですから、殿下やティアちゃんをお願いします。足手まといのワタシなんて放置してくださいませ」
傷ついて痛むだろう足を手で押さえるも、凛とした目でわたしに大丈夫と強がりを言うリッカ。
しかし、彼女の目にいっぱい貯めた涙、身体が恐怖で震えているのが、わたしの目に飛び込む。
「リッカ! そ、そんな訳にもいきません。ここにいたら死んでしまいます。くぅ、姫さま。ワタクシ……」
セリーヌも、自分が叶わぬ相手と戦わないといけない恐怖。
騎士として護衛対象を必ず守るという使命の矛盾に苦悩する。
「セリーヌ、わたくしもティアと同じ命令をあなたに与えます。リッカお姉さんを頼みますわ。さて、ティア。参りましょうか」
「ええ、エッタ。最後まで足掻きますわよ!」
恐怖に萎えそうな足に力を込め、戦場に立つわたし。
エッタもパンと両手で頬を叩き、気合を入れながら碧眼に炎を灯す。
「<電離極熱球>!!」
「<水撃連打!>!!」
エッタから、紫電を纏ったプラズマ火球が放たれ、わたしは水系中級魔術、水球の連打魔術を使う。
二つの術がゴーレムの体表面で激突。
水蒸気爆発を起こし、ゴーレムの身体を大きく揺らす。
「エッタ。リッカから敵を引き離します。一緒に来て下さいませ」
「分かったわ、ティア。さあ、来なさい! 木偶人形」
魔術攻撃を連続で受け、ノックバックで何回も倒れるゴーレム。
わたしとエッタは、小走りで逃げながら無謀な戦いを始めた。
……負けるもんか! わたしとエッタの目指す幸せを壊す奴なんて、ぶち倒すの!




