第41話 退治方法も想定外
「さすがにゴーレム相手に、『余の顔を見忘れたか!?』は効果ないですわよね、ティア?」
「近くにいらっしゃるだろう、ゴーレムマスターには聞こえるでしょうけれど、こんなに派手に暴れる段階で手遅れでしょうね、エッタ」
指揮所から撤退しながら、わたしとエッタは後方から迫りくるアイアンゴーレムを観察する。
狙撃も効かず、騎士たちの剣、兵士の槍も効かない。
今は司祭長が一人立ち向かい、撤退の時間稼ぎをするのが一杯。
この状況をひっくり返さなければ、犠牲者が沢山出てしまう。
……これまでも沢山、騎士のお兄さんたちがやられている。どうして、こんな事をするの!
「お二方とも、おしゃべりする前に逃げます! セリーヌさま、先導をお願いします」
「ええ、リッカさん。姫さま、聖女さま。ワタクシから離れないでくださいませ」
セリーヌが先導役、リッカが殿となり、わたしたちは騎士団とは別ルートで撤退する。
周囲では、沢山の人々が逃げまどう。
……早朝の家事時間だったからか、破壊された家屋から出火もしているわ。
「あ!?」
エッタが声を上げ、その視線の先を見ると母親と子どもらが群衆に押し倒されていた。
「助けなきゃ!」
「危ない、ティアちゃん!」
リッカの制止を振り切り、わたしは倒れた母子の元に駆け寄る。
「大丈夫ですか。あ、血が出てますね。治癒の奇跡を使います」
倒れた母子の、その女の子の膝から出血をしていたので、わたしは急ぎ治癒術を使う。
……このくらいの傷なら、わたしでも治せるわ。
「御親切にもありがとうございます。え、聖女さまですか!?」
「聖女のお姉ちゃん、ありがとう」
わたしの顔をじっと見るまで、母子は誰か気が付かなかったらしいが、驚いた様子。
「ティア。人助けは良いですが、一緒に逃げますわよ」
「え!? えーー! 王女殿下ぁ」
「お姫さまなの!?」
そこにエッタまでがやってきて、母子はさらに大声を上げて驚いた。
どんな非常事態であろうとも、目の前に王族が表われれば驚くのは当然。
「エッタ、誰もあなたの顔を見忘れていないみたいね。さあ、早く逃げてくださいませ」
「ありがとうございます」
「おねーちゃんたち、ありがとー」
わたしの指示でようやく逃げだした母子。
周囲から逃げる人々も少なくなっていたので、走るのも大丈夫だろう。
「姫さま、聖女さま。申し訳ありませんが……」
「どうやら、逃げ遅れたみたいね」
しかし、母子を救っていた間に敵が迫っていた。
剣を抜くも、顔が冷や汗でいっぱいのセリーヌ。
震える視線の先、スラム内の民家の向こう側には銀色の巨人が立っていた。
「ティア、姫さま、早く逃げなさい!」
建物を壊しながら、瓦礫の間から飛び出してくるアイアンゴーレムと司祭長。
司祭長は、わたしたちに逃げろと叫びながらゴーレムとガチンガチン殴り合うが、苦戦気味に見える。
……鎧が凹んでいるし、血が沢山出ているの。このままじゃ、司祭長も打ち負けちゃう。
逃げるにはすでに遅く、かといって司祭長を見殺しにも出来ない。
しかしセリーヌは騎士であっても、ゴーレム相手では一合も打ち合えない。
「エッタ。わたしたちの魔術で、ゴーレムを倒すよ」
「ティア。本気!?」
「ティアちゃん、危ないです」
「聖女さま、む、無謀すぎます」
わたしの提案に誰からも疑問と否定の声が飛ぶ。
しかし、危険なのは承知の上。
このままゴーレムを放置すれば、沢山の命が奪われるし、まず義母が危険。
……義母さまや、さっきの母子が死ぬのは、絶対にイヤだ。
「もう逃げられないのなら、倒すしかないわ。それに手もあるの。エッタ、リュカくんの時のことを覚えてる? 水に超高温熱源を入れたらどうなるか?」
「え!? あ、あれをやるの?」
「そう。銃弾も魔法攻撃も効かないアイアンゴーレム。でも、物理攻撃が完全に効かない訳じゃないの。構造をいくら強化されてても、強度を上回る攻撃をすれば破壊できるはずよ」
わたしは、エッタと仲間たちにアイアンゴーレムを倒す作戦を説明する。
この作戦には、わたしとエッタの協力があって初めて成功する。
「で、何処で作戦をするのかしら? 大量の水を溜める場所が必要でしょ、ティア。一発、大きな爆発起こしちゃいましょう」
「だったら、アソコにしましょう。周囲に民家は少ないし。じゃあ、おびき寄せをしなきゃ。リッカお姉ちゃん、セリーヌさんは逃げて……は、くれないよね?」
「逃げるわけないよ、ティアちゃん!」
「聖女さまは、ワタクシを舐めていらっしゃいませんですか? 王女殿下とあなたをお助けするのが、ワタクシの使命です!」
震えながらも、リッカとセリーヌはわたしについていくと言ってくれる。
「ありがとう、みんな。後で絶対、みんな一緒に笑いながらご飯食べようね」
わたしは浮かんできた涙を袖先でぬぐい、泣き笑いしながら皆にお礼を言った。
◆ ◇ ◆ ◇
「司祭長さま!」
わたしは戦闘中の司祭長さまに聞こえるように、大声を上げながら水系初級魔術<水球>をゴーレムにぶつける。
「ティア! なんて事をするの!?」
魔法攻撃を受けたことを受け、顔をこちらに向けるゴーレム。
銀色の顔の中、真紅の眼がわたしを睨んだ気がする。
「義母さま、わたしが囮になり、ある場所に追い込みます。補助、お願いします!」
「なんて事を!」
血濡れた顔で悲鳴を上げる司祭長。
わたしは彼女の返事を待たずに、ゴーレムへ<水球>の追撃を行う。
「!!」
声にならない声を上げるゴーレム。
司祭長を無視し、わたしの方へ向かってくる。
「やったー! こちらへいらっしゃい、ゴーレムさん」
……義母さまよりわたしの方が脅威と判断したのね。作戦どおり!
「<暴風>!」
背後から魔術による強風を発生させ、わたしは一気に空を飛ぶ。
「きゃぁぁぁ! これ、想像よりも怖いぃぃぃ」
一気にゴーレムとは距離を取ったわたしは、着地前に再び風系初級魔術<暴風>を下方に向けて減速。
瓦礫だらけの道の上を転がりながら着地した。
「ひゃぁ、ひゃぁ。パラシュート降下よりも怖かったし、全身痛いよぉぉ」
擦り傷だらけになりながら、わたしは愚痴を言う。
そうでもしないと、恐怖に押しつぶされそうになるから。
「ティア、準備出来たよ!」
わたしの視線の先。
スラム内、工事中の穴の前で待ち構えているエッタが居た。
「待たせたわね、エッタ!」




