第39話 想定外の逮捕劇
事件から数日後。
リュカが話ができる程度にまで回復し、わたしはお見舞いがてら、彼から直接話を聞いた。
「姉ちゃん、ごめんなさい。俺が無理を言わなきゃ、おっちゃんが死んだりしなかったのに……」
「もう謝らなくていいよ、リュカくん。悪いのは犯人だもの。あなたと警備のお兄さんを襲った人のことを詳しく教えてくれないかしら? わたし、リュカくんとお兄さんの敵討ちをするよ!」
ベッドの中のリュカ、だいぶ顔色は良くなったものの、まだふらつきがあるとの事。
肺が少し傷ついたのと、大量出血の影響でまだ貧血気味らしい。
また、肋骨もまだ痛いとの事。
……リュカくんのご両親からは、酷く感謝をされて心苦しかったの。わたしが彼を巻き込んだようなものなのに。今回も、心臓マッサージで肋骨まで折っちゃったし。
「うん、ありがと。犯人だけど二人組。片方はフード被ってたから顔までははっきりしなかったけど、おっぱい膨らんで腰が細かったからたぶん女。こっちが魔法を撃ってた。もう一人は、顔を見たことがある男で……」
リュカが語る犯人像。
そこから、わたしはどうやったら無力化できるかを考えた。
……水攻めにして底なし泥沼に沈めてしまおうかしら? 窒息寸前まで追い込んで、命乞いして怯える姿を見てから捕まえてやるの!
◆ ◇ ◆ ◇
「司祭長さま! 犯人の居場所が分かったって本当ですか!」
「フォンティーアさま! お約束も無しで、司祭長さまのところにお伺いするなんて、失礼ですわよ」
リッカが制止するのを無視。
彼女を引きずる様な形で、わたしは司祭長の部屋に飛び込んだ。
「あら、鼻息荒いわね。どこでその話を聞きましたのかしら、ティアちゃん?」
「何処からでも構わないでしょ! どうして居場所が分かっているのなら、突撃しないんですか? 魔術師が相手でも義母さまだったら怖くないでしょ!?」
リュカの目撃証言により、犯人の一人がスラムで女衒の娼館を営んでいた男ということが判明した。
彼は「盗賊ギルド」に未加入の店で売春を行っており、女性をひどく扱っていたということで騎士団らの立ち入り捜査の結果、娼館を取り潰しされたと聞く。
……「盗賊ギルド」というのは俗称ね。前世で言う処のマフィアやヤクザ。街の裏稼業のとりまとめ役。娼館とか酒場の裏には大抵いるらしい「必要悪」みたい。
「慌てないで、ティアちゃん。居場所は既に突き止めていて、今はガルダさんの配下に監視してもらっているわ。絶対逃がさないから、安心して吉報を待って……」
「いえ! 今回の事件は全てわたしが原因。だったら、犯人をわたしが捕まえる必要があるんです!」
「ティアちゃん。危ないですからやめてって言っているのに! 義母さま。ティアちゃんを止めてください」
司祭長は犯人逮捕まで待てというが、わたしは待っていられない。
今も、わたしを助けてくれた人を殺し、可愛いリュカくんも殺そうとした奴が何処かで笑って潜んでいるかと思ったら、許せない。
「ふんす、ふんす! わたし、絶対に犯人を許せません。それに義母さま! 犯人の一人は炎系の術師。なら水系魔術を極めたわたしなら、簡単に無力化できます。ですのでぜひ、わたしを捕縛に参加させてくださいませ!」
「……はぁ。やっぱり、こうなっちゃうのよねぇ。ティアちゃん、昔から言い出したら聞かないし、正義感強いから」
わたしは鼻息も荒く、犯人捕縛に参加させてほしいと歎願する。
炎系に対し、水系術者がいた方が優位に働くと説明を加えて。
「で、どうなんですか? ダメですか。だったら、勝手に……」
「となるのも困りますから、ちゃんと一緒に逮捕に行きましょう。確かに対抗魔術を使える術師が一緒なのは、助かるわ」
「もう! 義母さまは、ティアちゃんに甘過ぎなの! 簡単に人殺しをするし、子どもまでナイフで刺す様な凶悪犯相手の捕縛なんて危険過ぎますのに」
もし許可されないなら勝手に突撃すると半分脅すと、困り顔ながら司祭長は、わたしの捕縛参加を認めてくれた。
……リッカお姉ちゃんの心配も分かるけど、これはわたしに全部責任があるし。撒いた種は自分で刈り取るの!
◆ ◇ ◆ ◇
まだ一の鐘がなる前、東の空が白みだす薄明の頃。
犯人が潜むスラム奥の廃屋を取り囲んだ捕縛隊。
神殿騎士団と王国騎士団、更には多数の兵士、港湾ギルドの構成員らが参加している大所帯。
それこそ、敵グループが大人数でも十分対応できるほどだ。
「で、なんで捕縛部隊に王女殿下。エッタがいるの?」
「わたくし、『余の顔を見忘れたか!?』ってのを一度やって見たかった……。というのは冗談。ティア、今回の事件はわたくしにも原因と責任があります。撒いた種は、王女自ら刈り取りますの!」
わたしの驚きを他所にドヤ顔で「上様」ギャグをかますエッタ。
何処の世界に、殺人犯逮捕に王女殿下が出張る必要があるのだろうか?
……スラム住人の殺人事件解決に王国騎士団からも沢山参加しているのは、エッタが来ちゃったからだよねぇ。因みに、わたしは神殿騎士団の女性用騎士服。エッタも子ども向けの騎士服を着ているの。
エッタの横では、セリーヌがぺこぺこと周囲に頭を下げている。
「はぁ……。わたし、リッカやセリーヌさん、司祭長さまの気苦労が初めて分かりましたの。わたしも、酷いワガママ言っていたんですね」
「なにぃ? ティアも無理言って、この場所に来ているのでしょ! わたくしの事は言えないですわよ、おほほほ!」
……そりゃ、そうなんだけどねぇ。でも、平民で孤児の聖女と王女では立場が全然違うと思うよ?
「もう、遅いですよ、ティアちゃん。お姉ちゃん心配で仕方がないんだからぁ」
想定外の状況に愚痴るわたしを、背後から抱きしめるようにする半泣きのリッカ。
怖がりの彼女を戦場になりかねない場所に巻き込んだのもわたし。
反省しかりだ。
「各員、もうしょうがないので聖女さまと王女殿下を守りながら、犯罪者を逮捕します。背後関係を調べるため、出来れば生かしての捕縛をしたいですが、どうしようもない場合は殺害を許可します。狙撃隊にも、そう命令を!」
白銀の鎧に身を固める司祭長。
半分呆れ顔で、騎士たちに命令を飛ばしていた。
「さあ、参りましょう!」
そして前代未聞の逮捕劇が開始された。
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