第37話 事件は想定外の方向へ
「あれ? わたし、リュカくんを助けようとして……」
いつのまにか、意識を失っていたわたし。
気が付くと自室のベッドで寝ていた。
「あれは夢……。じゃないわね。うぅぅ、腕が痛い」
あの過酷な命を救う戦いが一瞬夢だったかと思ったが、両腕の筋肉痛が現実だったことを物語っている。
「じゃあ、リュカくんは、どうなったの!?」
周囲に視線を向けると、隣にエッタが気持ちよさそうな顔で、日の光を浴びながら寝ている。
「エッタ。昨日はごめん。そして、ありがとう」
自分やエッタの夜着が、昨晩着ていた物と変わっている。
リュカからの返り血で汚れたので、リッカらが着替えさせてくれたのだろう。
「……なごんでいる暇はないの! リュカくんがどうなったのか、早く確認しないと」
ベッドから抜け出そうとしたとき、寝室のドアがノックされる。
「フォンティーアさま。ご起床なさいましたか? 入室、宜しいですか?」
「ええ。どうぞ、リッカ」
ドアの向こうからリッカの声が聞こえてきたので、わたしは即座に入室許可を出した。
「おはようございます、フォンティーアさま。昨晩はお疲れさまでした」
「リッカお姉ちゃん、おはよ。めんどくさい礼儀作法なんてどうでもいいの! リュカくんは、どうなったの? まさか……」
いつも通り笑みを浮かべて部屋に入り、丁寧なカーテシーを行うリッカ。
しかし、居ても立っても居られないわたしは、リュカの容態を急ぎ尋ねた。
「全く困ったティアちゃんですね。これから、更に王侯貴族とご一緒になる機会が増えますのに、礼儀作法は大事ですよ。でも、それだけ真剣に頑張られたことに、ワタシは感動しました。もちろん、今お眠りの王女殿下もです」
しかし、笑みを浮かべながらも困った顔でわたしの無作法を叱責するリッカ。
わたしは我慢できずに、大声で叫んでしまった
「だから、早く教えてよぉ、お姉ちゃん!」
「はいはい。御安心を、フォンティーアさま。リュカくんは、命を取り留めました。しかし、全く覚えていらっしゃらないのですか?」
「え、よ、良かったあぁ」
リッカの答えで、わたしはすっかり力が抜け、身体をベッドに沈める。
そして、泣きながら喜びの声を上げた。
「フォンティーアさまは、雷撃魔術の後も王女殿下と交代しながら、『心臓マッサージ』とかいうのを、ずっと繰り返しなさってましたよ。で、リュカくんの呼吸が戻ったのを確認なさった後、王女殿下ともども安心したのか気絶なさりました」
「そうだったんだ。あ、いや。そうだったのですね、リッカ。二人分の着替え共々ありがとう存じます」
リュカが助かったという一報を受け安堵したわたし。
今更取り繕っても手遅れとは思うが、リッカに対し主としてしっかりした返事を返した。
「むにゃむにゃ……」
うるさくしたはずなのに、まだ眠りから覚めず、わたしに抱きつこうとするエッタ。
「ティア、ごめんねぇ」
寝言で謝るエッタに、わたしはぎゅっと抱き返した。
「こっちこそゴメンね、エッタ」
◆ ◇ ◆ ◇
「お義母さま。いえ、司祭長さま。あの夜に何があったのか、わたしたちに教えて頂けますか?」
「司祭長さま。わたくしからも説明をお願い致します。今回の事業は聖女フォンティーアさま主体の事業ではありますが、共同出資者としてわたくしも、事情を聞く権利があると思いますの」
起床後、遅めの朝食を取ったわたしとエッタ。
アポを取って、司祭長の元へリッカやセリーヌと共に事件のあらましを聞きに行った。
「ええ、ちゃんと説明をしますから。まずは、応接席に座りましょうね」
鼻息荒めに突撃したので、苦笑気味の司祭長。
わたしたちに応接席に座るよう促した。
……ここに来る前に、病室へリュカくんの顔を見てきたの。まだ青白いけどちゃんと息をしていたし、今朝少し目を覚ましたと聞いたから安心ね。
「では、説明をお願いします。まず、司祭長さまにお聞きしたいのは、どうして瀕死のリュカくんを放置して現場に行ったかです!」
「え!? 事件のあらましではなくて、そっちなの?」
「わたくしもティアと同意見ですの。魔神戦争の英雄にて神聖術の権威であられますアウレリアさまでしたら、完全治癒の奇跡。<復活>で治療できませんでしたか?」
わたしとエッタが、司祭長に一番聞きたかった事。
それはリュカの命よりも優先して、武装して神殿を飛び出した理由。
中途半端な理由なら、必殺の「説明」で問い詰めるつもりだ。
……エッタったら、わたしの『説明』癖を精神攻撃か何かって思って居るのは失礼だよね。でも、手段は選ばないわ!
「それに関しては、わたくしの読みが甘かったのを謝罪いたしますわ。リュカくんの傷があそこまで深いとは思いませんでしたし、緊急の事案だったので、あなたたちに任せたの」
「謝って頂けましたし、お帰りになった際にリュカくんに治癒の奇跡を行使なされたそうなので、もう司祭長さまを責めませんです。良いですわよね、エッタ」
「ティアが納得できたのなら良いですわ。それに緊急時案というのも、気になりますし」
司祭長が深く頭を下げて謝ったので、わたしは納得した。
リュカの命は助かったし、司祭長が慌てるほどのことがあったのなら、そちらのことも聞きたい。
……司祭長さま、わたしが気絶中に帰ってきて、リュカくんに治癒の奇跡をかけてくれたそうなの。病室にいた医務神官から話は聞いたわ。
「許してくれてありがとう、二人とも。リュカくんにも悪い事をしたわ。責任をもって、完治までご家族ともども面倒を神殿で見ます。ご両親らも既に、こちらに呼んでいますし」
「そこまでしてくださるんですか? 普通、怪我人に対しそこまでの介護は……」
司祭長の発言に、違和感を感じたわたし。
普通、神殿に怪我人や病人を入院させる場合、介護をする家族の面倒までは見ない。
こと、スラムに住む家族の面倒まで見るというのは、わたし自身聞いたことも無い。
……今回は労災だから、SPCから医療費を出すのは当たり前なんだけど。
「……司祭長さま。リュカくん、犯人を目撃してしまったのですね。そして、その為に家族の命が狙われるかもしれないと」
「え!? そんな事になっているの?」
しかしエッタの推理に、わたしは言葉を失った。
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