第32話 妨害工作は想定外
「なんですって! 工事現場で生き埋めが発生したのですか!?」
秋の中頃。
各方面の開発や工事が順調に進みはじめ、わたしが現場へ顔を出す機会も減っていた。
そんな時、事故が発生した。
「で、怪我人は出ましたか、リッカ? 救出は!?」
「幸いな事に怪我人二名は無事救出され、今は神殿の救護室で治療を受けています。他には被害はありませんでした」
神殿の私室で事務作業をしていた時にリッカから突然の報告を受け、わたしはひどく驚いた。
「ああ、命が無事で良かったです。しかし、そんなに深く掘らないはずの工事現場で崩落事故ですか……。よし、現場検証に行きます。司祭長さまにお話を通して、騎士団員を数名お借りして工事現場へ見に行きましょう」
「はい、分かりました、フォンティーアさま」
工事責任者として、最近監視を怠っていたわたし。
反省する前に事故原因を探るべく、現場へと急ぎ向かった。
……SPCの事務が忙しくて、工事監督をさぼってたのが裏目に出たのかも。
◆ ◇ ◆ ◇
「土木ギルド長! 親方さん、いらしていたのですね」
「ああ、聖女さま。担当地区で事故が起きたんなら、現場責任者たる俺の責任ですし」
ドワーフ族にも見間違えそうな髭面の男性。
土木ギルド長が、土砂崩れを起こした穴を覗き込んでいたので、わたしは声をかけた。
……いかにも『親方』さんって雰囲気なので、親方って呼んでるの。
「で、穴が急に崩れたのはどうしてですか? 深さが浅いとはいえ危険なので、事故防止に矢板を掘削面に打ち込んでいませんでしたか?」
矢板とは、穴を掘る工事で掘削した側面を支えて崩れるのを防止するために打ち込まれる板。
これが無ければ、今回のような崩落で作業員は生き埋めになる事故が起きやすい。
……子どもが砂浜で掘る落とし穴って、矢板が無いから結構危ないんだよね。
「そのはずなんですが……。うん? 矢板が折れているぞ。これ、不自然じゃねぇか? 聖女さま、折れた部分を見てください」
「はい……。矢板が中央で折れ、そこから土砂が穴の中に流れ落ちているように見えますが……! あ、ここに斧みたいなもので打ち込んだ跡が見えます。もしや、これは事故ではなく、意図的な事件では!?」
大体三メートルほど長さのある矢板の中央部。
そこから板が掘った穴の内側に向かって折れ、壁面の土砂が穴の中に沢山落ち込んでいる。
……怪我人を救出した跡なのか、一部は取り除かれているみたい。
だが、土砂崩れの中心である複数枚折れた矢板のうちの一本。
板の折れた部分をよく観察すると、板の厚み半分くらいまでは、切断されたかのような切り口になっており、残り半分の土砂に触れる側は、おそらく土砂の圧力で引きちぎれただろう跡があった。
「ギルド長、この折れた矢板を回収して良いですか?」
「ええ、聖女さま。俺は良いですが、一体どうなさるんすか?」
不思議がる土木ギルド長に、わたしは得意げに答える。
「これは意図的な破壊工作。この板は証拠物件として回収します!」
……何処のどいつか知らないけど、わたしとエッタの工事を邪魔した上に、わたしたちのために働いてくださる大事な方を傷つけた罰。その身に受けて頂きますわ!
「ティアちゃん、あんまり興奮しないでね」
ふんす、ふんすと怒りで鼻息が荒くなるのを、リッカに注意されるが、わたしは止まらない。
なんとしても犯人を捕まえてやる。
◆ ◇ ◆ ◇
しかし、その後、警備を増やしても、工事現場での事故や事件が多発。
明らかに工事に対する妨害活動が行われていた。
……夜間のボヤ、回収忘れた工事道具の盗難などなど。火の気の無い夜の工事現場で、矢板から火事なんてあるはずないよ。
「困りましたわね、ティア。国側も王都内の警邏活動は続けていますが、何分人手不足なので、目が届かない部分もありますの」
「神殿騎士団も同様ですね。本来の仕事以外をずっと頼むのも難しいわ。できればSPC直下の警備組織が欲しくなります。うー、早く犯人を捕まえたいですぅ」
現在、スラムでの道路工事は、ほぼ終了。
下町部分での工事に取り掛かっており、工事範囲もかなり広い。
なので、どうしても警備の眼から外れる場所が出来てしまう。
……工事作業員は、継続してスラムの方にお願いしているの。もちろん、新しく働きたいという人も面接の上で採用しているんだけど。
「それって『警備会社』っていうか、『民間軍事会社』になりそうですわね、ティア。今後、北方。国境方面での工事をするのなら、工兵としての活動も考えた方がいいですけれど」
「民間軍事会社かぁ。わたし、彼らにはあんまりいい思い出が無いの。『NPO』時代に護衛をしてくれたんだけど、随分と地元に横暴だったわ」
エッタへの報告を兼ねて、いつものパジャマパーティ。
王女寝室で、事件の報告をしている。
「すいません。お二人のお話しています事が理解不能です。おそらく警備の事だと思うのですが、ワタクシは姫さまの護衛が中心なので、お手伝いできず……」
「セリーヌさま。ティアちゃんや王女殿下が難しいことを考えてくださりますから、ワタシたちはお二人の思いを実現すべく努力いたしましょう」
わたしとエッタが話す内容が前世の知識前提なので、セリーヌとリッカには難しいのはしょうがない。
「ごめんなさい。セリーヌさん、リッカお姉ちゃん。二人をほったらかしにして。今後の予定として警備を増やしたいし、犯人を捕まえたいって話なの」
「わたくしとティアの邪魔をする奴らは許せないの! それに、我が愛する国民を傷つける者には、わたくし自ら鉄槌を落としますわ」
その夜も遅くまで、話し合ったのであった。
「今日こそは、ちゃんと歯を磨きましょうね、姫さま。そしてフォンティーアさま」
「はーい」
「分かりましたぁぁ」
……今日は、わたしも砂糖菓子を食べちゃった。悪いのは、イライラさせてる犯人なの!
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