第29話 魔導モーター始動! 反応は想定外ね
日差しが柔らかくなり秋の声が聞こえだす頃、わたしが待ち望んでいたモノが完成した。
「本日も、わたくし発案の試作品発表会にお越し頂き、ありがとう存じます。『王都再開発目的会社』関係者にお集まりいただいたのは、世界を変える発明品。『魔導モーター』の試作品が皆さまのご協力で形になりました」
神殿の近く、河川敷に仮設テントを設置。
そこで、今回の発表会を行っている。
……なぜ、河川敷にしたのかは、後で分かる仕掛けなの。それに、『魔導モーター』の外見を見ただけで中身を理解できる人は、まず居ないだろうから、スパイされても問題無しね。
「ティア、絶好調よね。いつもより説明するときの声が嬉しそうですわ」
「ええ、エッタ。わたし、今日。この時を待っていたのです。さあ、皆さま、ご覧くださいませ。これが『魔導モーター」試作初号機です!」
わたしの掛け声に合わせ、苦笑気味のリッカが展示台上のモーターを覆っていた白き布を引きパッと除幕した。
……因みに試作零号機も存在して、そちらは何回ものテストの結果、軸受けのベアリング部分が壊れてしまったの。回転の負荷が予想よりも大きかったわ。
「これが……?」
「何に使うんだ?」
「聖女ねーちゃん。これ、只の箱?」
しかし、観客の反応は薄く、リュカに至れば、ただの箱と馬鹿にしたように言う。
「皆さま。この大変な発明の価値が分からないんですかぁ! しょうがありません。鍛冶ギルド長、アンベル先生。機材を繋いでくださいませ」
「おう、嬢ちゃん」
「ええ、フォンティーアさま」
周囲の反応が宜しくないので、わたしはプンスカしながらドワーフ族の鍛冶ギルド長、そして魔術の先生であるアンベルに作業をお願いした。
「ティア、この仕組みの凄さは動くところを見ないと理解されないと思いますの。ですが、比較的知識のあるギルド長らがこの反応でしたら、間違いなく魔導モーターで天下が取れますの!」
「慰めてくれてありがとう、エッタ。ええ、絶対に魔導モーターの素晴らしさを世界に叩き込みますわよ!」
慰めてくれるエッタの声を聴きながら、わたしは視線を魔導モーターに向ける。
鍛冶ギルド長は、モーターの回転軸を歯車に固定。
アンベルはモーターに魔力の発生源として魔力チャージ済みの魔石を銀線で繋ぐ。
……魔力は、銀や金が通りやすいんだって。逆に鉄と魔術・魔力は相性があまりよくないから、魔剣の製造時には鋼鉄じゃなくて何かとの合金にするそうなの。
「聖女の嬢ちゃん、出来たぜ」
「こちらも接続できましたよ」
「では、アンベル先生。起動を!」
無事、とある機械の中に組み込まれた魔導モーター。
それが起動回転し、機械がガチンガチンと音を立て始めた。
「ひ、ひとりでに機械がハンマーを打ち出したぞ?」
「誰も触らずに動くなんて!」
「すげぇ、すげえ! ねーちゃん、これどうやって動いているんだ?」
ようやく、魔導モーターの威力が分かったのか。
観客から驚く声が続々と聞こえだした。
……リュカくんったら危ないのに、一緒に働いている子どもたちと一緒に機械を覗き込もうとするの。危険だから、リッカに制してもらったわ。
「皆さま。この機械をご覧ください。これは既に鍛冶ギルドに納入しています自動ハンマーです。刀剣などを鍛える際、不純物を飛ばすために真っ赤にまで加熱した金属を、今までは人の手で叩き出していました。それが非常に重労働なのは、皆さま御理解なされているかと思います」
わたしの簡潔な説明と、ガチンガチンとハンマーが金属を叩く様子を見て、陶器ギルド長はふむふむという顔。
陶器や煉瓦を作る際、その過程で粘土を捏ねる必要があるし、器を作るなら、『ろくろ』を回す必要がある。
「陶器ギルドにも、粘土を捏ねる機械、及びろくろを回す機械を納入する予定ですの」
「おお、それはありがたい。聖女さまには、既に磁器製造のアイデアを貰っている上に、こんなにしてもらえるなんて、とても嬉しい話だ」
……良い磁器が欲しくなったので、ボーンチャイナのアイデアを陶器ギルドに流してみたの。元から骨灰は、農地改良にも必要だし、陶器ギルドには道路建設時に随分と協力してもらったもの。
「土木ギルドにも、いずれですが穴を掘ったりする機械を開発して納入したいと思ってますわ。他のギルドにも必要なものがあれば、随時開発します」
「聖女の嬢ちゃんにバンサイ! これで、工事もあっという間に出来そうだ」
……重機は、今後必須だものね。少しでも早く街道建設しなきゃ。
「そうそう、ルナールさん。これは船を動かす動力にもなりますの。すいません、魔導モーターを自動ハンマーから外して水車と繋ぎ変えてくださいませんか?」
わたしは、港湾ギルド長のルナールにも声をかける。
魔導モーターが船舶の動力源になれば、風任せの航海をしなくても良くなるからだ。
「こんなものが、船を動かす?」
……まあ半信半疑なのもしょうがないよね。ちなみに、モーターには回転スピードはあってもトルクが足らないから、そこは歯車を組み合せているの。既に歯車の概念がこの世界にあって助かったわ。そういえば、ゼンマイ式の時計は歯車がなきゃ動かないわ。
怪訝な顔のルナールをよそにして、作業は進む。
一旦、自動ハンマーを止め、今度は魔導モーターを川岸まで運ぶ。
そして、あらかじめ準備していた水車に接続する。
……鍛冶ギルドの若い人たちがギルド長の指示でテキパキ動くの。けど、ドワーフ族の男性は誰もが髭もじゃだから、年齢がよくわからないわ。ドワーフ女性は、逆に可愛い感じで年齢不詳なの。
「ティア。もしかして、あの試験も同時にするの?」
「ええ、その為に態々発表会を川沿いにしましたわ」
こそこそと小声で訪ねてくるエッタ。
彼女には既に、魔導モーターの別の使い道を示している。
科学技術の基本を知る彼女は、すぐに理解してくれた。
……電子、磁気、運動。ファラデーの法則が、魔術にも生かせるか。テストは零号機で試しているから、たぶん成功するわ。
わたしは水車に組み込まれていく魔導モーターを眺め、笑みをこぼした。
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