第28話 モータリゼーションは想定外
「あー、楽しぃ! わたしが想像してたこと、大体実現化しそうだもの」
「良かったですわね、ティア。でも、これで『重機』とか作れますから、工事とかも一気に進みますし、発展させて『戦車』とかも開発出来そうですわ」
「正直、兵器開発には気乗りしないけど、国防は必要だからしょうがないよね。抑止力は必須だから」
魔術師ギルドからSPCに参加してくれたアンベルより、魔導モーターの実現が可能なことを聞き、すっかり盛り上がったわたしとエッタ。
そのままの勢いで、エッタの寝室での秘密会議に突入している。
……もちろんアンベルさんにはお帰り願ったの。いくらお優しいお爺ちゃんでも、乙女四人の園には流石にご紹介出来ないわ。
「姫さま、フォンティーアさま。お嬉しいのは分かりますが、お騒ぎになり過ぎませんように。この部屋も防音結界が張られていますが、誰が聞いているか分からないですもの」
「まったく懲りないお二人ですわ。アンベルさまが良い方でしたから問題ありませんでしたが、まかり間違えば大変な事もあり得ました。ティアちゃんったら、困った子です」
はしゃぐわたしたちの事をセリーヌやリッカが制するのだが、それでもわたしは止まらない。
「だって、これで何でも動かせるんですもの。あ! そうか、セリーヌさんもリッカお姉ちゃんも動力機械ってのが分からないのね」
「確かに、わたくしやエッタは『エンジン』や『モーター』が当たり前の世界に住んでいましたけれど、こちらじゃ馬とか牛くらいしか代わりにならないですものね」
わたしやエッタは、モータリゼーションした世界を知っているので、そこへと早く繋がる魔導モーターの開発に力を入れたいのだが、馬車以外の車輪がある車両を見たことが無いセリーヌやリッカら、現地組にはピンとこないのだろう。
「そうですわねぇ。セリーヌとリッカに分かりやすく説明するなら、馬や牛に引っ張られない馬車が魔力を与えると自分で馬と同じくらいの速さで走るとしたら、どう思いますか? 馬車の車輪を魔導モーターが、ぐるぐる回しますの」
ということで、エッタがいたずらっぽい表情で現地組に尋ねる。
「魔力のみを元に単独で走る馬車ですか……。現在は馬の飼料や水の確保無くして遠征は不可能です。それが魔力のみで可能となれば……! それは、素晴らしい発明では無いですか!?」
「……! それでティアちゃんや殿下は、街道整備を優先なさっていたのですね。馬と同じくらい早い乗り物が沢山移動するのを見越されていたなんて」
賢い二人、エッタのヒントでわたしとエッタが何を狙っていたのかをすぐに理解してくれた。
「ええ、お二人の想像通りです。兵站だけでなく、普通に物流。食料や資材などの搬送も早く、楽になります。今ですと、王国南部で生産された食料を王都に運ぶのは苦労していますし、生鮮食料品の移動は困難。これが『冷蔵』。冷やして運ぶことも併用出来れば、一大革命が起きますわ!」
「そうね、ティア。南部のお魚を生で食べられ、新鮮な柑橘類を味わえる世界。ああ、美味しそう」
つい暴走気味に説明してしまうわたし。
食いしん坊な様子をみせつつ、枕もとのサイドテーブルから砂糖菓子をつまんで食べるエッタ。
実に未来は明るい。
「姫さま。今日は、ちゃんと寝る前に歯磨きをしてくださいませ! ですが、食材が豊かになるのは良いですね」
「ティアちゃん。『冷蔵』とは何ですか? 新鮮なお魚が食べられるのには興味がありますが」
なんだかんだいって、セリーヌもリッカもまだまだ成長期。
色気よりも食い気、美味しいごはんには目が無いのだ。
「うふふ。魔導モーター、完成の暁には馬車に詰め込んでの『自動車』に出来ますし。冷却魔術の魔法陣や電撃魔術の魔法陣なんかもアンベル先生に教えて欲しいですわ」
「でも、ティア。今後は金属加工や油も必要になるのじゃないかしら? わたくしでも、『サスペンション』とか潤滑油の大事さくらいは分かりますし」
エッタは、わたしの暴走にストップをかけ、次に必要なものを提案してくる。
「あ、そうですね、エッタ。車軸には『ベアリング』が欲しいですし、『グリース』も必要。確か潤滑油にはヒマシ油が使えるって聞いたことがあるわ」
「へぇ。潤滑油って『石油』じゃなくても良いのね。じゃあ、そのあたりを次回注文ね。鍛冶ギルドにも色々発注しなきゃ」
すっかり楽しくなって、二人で盛り上がるのが楽しい。
未来に向かって、何が今出来るのか。
そこが見えてくるだけでも、ワクワクが止まらない。
「すいません。お二人が何をお話なのか、まったく分かりません。お大事な事かと思いますが、お二人だけで暴走はしないようにお願い致します」
「セリーヌさまのおっしゃる通りです。また勝手な事をなさりますと、陛下や司祭長さまからお叱りを受けますよ」
すっかり放置になっているセリーヌとリッカは、わたしたちの暴走を警戒するのだが、もう止まらない。
「大丈夫ですの、セリーヌさん。リッカお姉ちゃん。わたし、進むべき未来が見えてきました。みんなが幸せになる様に頑張りますわ!」
「ええ、ティアの作る物を、わたくしが国中に広めていきますわぁ!」
深夜まで盛り上がってしまったわたしとエッタ。
0時過ぎ、強制的にセリーヌに談義を止められ、二人して歯磨きをした後、就寝した。
いうまでもなく、翌朝も遅刻寸前まで寝坊。
朝食会で陛下から、二人仲がいいのは良いが、夜更かしはせぬようにと注意されてしまった。
……むぅぅぅ! 王様から注意されるってのは、想定外なのぉぉ!




