第27話 魔術の勉強も想定外
「すいません。今日はわたしとエッタの為に、魔術の特別授業をお願いしまして」
「いえいえ。僕は教えるのが楽しいので構いませんよ」
今日は、いつものパジャマパーティ、もとい作戦会議の日。
王宮に伺ったので、昼間にエッタと一緒にSPC仲間となった魔術師ギルドの上級魔術師、アンベルに魔術講座を受けている。
……わたしは、独学で魔術を学んだから、基本が抜けているのよね。因みに王宮の一室を借りての勉強会なの。一応、盗聴防止の魔術付きね。
「わたくしは、アンベル先生に魔術を小さい頃から教えてもらいましたの。炎系は上級魔術まで使えますわ!」
「それで、エッタがアンベルさまを紹介してくれたのですね。わたしは、四大元素系は水系以外を初級まで。水系だけは特級まで使えます。でも、基本が分からないまま覚えたから、そこをしっかりさせたいんです」
エッタは火の男神さまに、わたしは水の女神さまによって洗礼をうけたので、それぞれの得意術系が炎と水。
……わたしってば、本職の神聖術は基本の祝福とお祓い、下級治癒術しか使えないの。だから巫女なのに、本質は魔術師ね。
魔術の理論は、どこか科学と繋がる部分があって覚えやすかったのだが、神聖術は神さまへの信仰心が大きな要素。
水の女神のイタズラで、前世記憶なんて思い出したがために、苦労しているので、今一つ信仰心が深くならないのだ。
「ほほう。フォンティーアさまは、そのお歳で特級まで修めているとは驚きです。姫さまの上級魔術でも、魔術師ギルドでも使えます者は数少ないですのに」
「でも、他の術は下級どまりで、バランスが悪いと自分自身思っています。また、詠唱魔術に特化していますので、魔法陣を使った術はさっぱり。わたしが、今後開発していきたいものには、魔法陣が必須なのです」
「先生、わたくしからもお願いします。ティアとわたくしは、同じ目的。この国を豊かにするために協力しています!」
アンベルはわたしの優秀さを感心するが、好きで学んだだけ。
科学に飢えていたわたしが、どこか似た魔術に興味を持つのは当然だろう。
「魔法陣に興味がおありとは、今時珍しいですね。大抵の術者は派手で使い勝手のいい詠唱魔術を好みます。事前準備が必要な魔法陣は、戦いなどには向かないので」
「わたしが作りたいものは、戦いのためのものではなく、皆の生活を便利にしていくものなのです。案はありますが、『この世界』の科学技術では実現には百年とかかってしまいます。それでは間に合わないのです」
わたしは正直に思いを告げる。
のんびりしていたら、迫りくる破滅に間に合わないから。
「ティア! ちょっと話し過ぎよ!? この世界だなんて……」
「……なるほど。貴女も姫さまと同じく『夢の世界』の知識を持ち帰った方でしたか。北方への街道整備を重視したのも、来るべき魔族帝国の侵攻から王国を守るためと……」
「あ! しまったぁ」
わたしは、つい自分やエッタに繋がる秘密をアンベルに話してしまったことに気が付いた。
それも、街道整備から軍事侵攻を見抜くほどの知恵者に。
……ど、どうしよう。このままじゃ……。
視界の端では、警護のセリーヌさんが剣を抜きそうになり、リッカは茶器を落としそうになっているのが見えた。
「あ、大丈夫ですよ。元より神殿契約もありますし、それ以上に貴女がたの話される英知に興味があります。可愛い『孫娘』らを泣かせるようなこと、僕はしません。安心してくださいね」
失敗から泣きそうになっていたわたし、そして驚いているエッタの頭を両手で暖かく撫でるアンベル。
「警護の方、給仕の方も御安心を。ここで聞いた話は外部には漏らしません。貴女がたも二人の少女を本当に大事に思われているのですね。実に良き主従関係です」
わたしは、アンベルの暖かい手と言葉に安堵した。
◆ ◇ ◆ ◇
「……なるほど。破滅の未来を知ったから、その回避をお二人で頑張られているのですね。ようやく理解しました」
わたしとエッタは、アンベルに大まかな事を話した。
この先、魔術を使わなければ、技術開発の時間短縮は出来ない。
その為には、アンベルには全面協力してもらわないと難しい。
なので、状況を理解してもらった方がいいと、エッタが判断した。
……のんびり蒸気機関の発明なんて待っていられないの。それにエッタは昔、調子に乗って『夢の世界』の事を随分とアンベルさんに話していたみたい。だから、今更みたいなの。
「なので、急いで技術革新を考えています。さしあたり、いくつかのアイデアがあって、それが実現可能か教えて頂けますか?」
「ええ、良いですよ。この歳になってワクワクする事が増えるのは面白いです」
「ティアのプラン、是非実現したいのでお願い致しますわ、先生」
ということで、わたしは早速昔から思っていたことを聞いてみる。
「ゴーレムは術師から命令された様に動き、その基本は内部に魔法陣の形で掘り込まれていると聞いていますが、本当ですか?」
「ええ。大体は胴体や手足に術式を彫り込んでいますね。それがどうしましたか?」
……やっぱりね。じゃあ!
「でしたら、複雑な動きではなく、簡単な動作。こんな感じに魔力を加えたら、くるくる回るとかは出来そうですよね?」
わたしは、エッタに貰った植物紙にイラストを書き、アンベルに見てもらう。
イラストは、四角い箱の真ん中から細い棒が飛び出していて、それがくるくる回る様子を描いている。
「ええ。そんな簡単な物なら、魔法陣一個で作れます」
「やったー! エッタ、これで動力源には困らないわ」
「そうね、ティア。これで一気に魔導動力革命が始まるの!」
わたしとエッタは、両手を握り合い、思わず踊ってしまう。
わたしが昔から思い考えていた物。
「魔導モーター」が実現すると分かったからだ。
「え? 何か嬉しいのですか? こんな簡単なものが?」
街道整備から軍事侵攻を見抜くアンベルでも、動力機の存在には、まだ気が付かない様だった。




