第25話 未来の話は想定外へ
「ガルダさん。貴方には、今後ともお世話になりますし」
夕方から始まった道路完成パーティ。
酒盛りをする大人たちから逃げてきた甘党ガルダ。
お菓子パーティ中のわたしたちのところに来たので、商談に入る。
「なんだ? いきなり真面目な顔になって? 先に、そこのケーキ食わせろ。話はそれからだ」
「はい、王女自ら給仕しますのよ。ありがたく頂戴しなさい」
しかし、先に甘いものを食べさせろというので、エッタがケーキを小皿の上に載せ、ガルダに渡した。
「はい、ありがたく……。う、うめぇ。甘すぎず、重すぎず。このケーキ作ってんのは、どいつだ。あ、いや何方ですか、殿下? 教えて頂けると感謝いたします」
うやうやしくエッタからケーキを貰ったガルダ。
フォークでケーキを端から崩し、一口食べて大声で美味しさを表現。
そのまま、エッタに向かってケーキ職人を紹介してくれと言い出した。
「うふふ。それは王家専属のケーキ職人の作品ですの。そうですわねぇ、貴方の働きいかんでは定期的に御馳走いたしましょう」
「はい! 男ガルダ、殿下のしもべとなり、何でも致しますです!」
冗談半分だろうが、ケーキ一つで配下を増やすエッタ。
実に悪賢い。
「ね、ティア。こんな風に、甘い物好きに悪い人はいないのよ」
「そんなこと、あるかー! って、ボケツッコミする時じゃないの。ごめんなさい、ガルダさん。貴方とは更に商売の相談をしたいんです」
つい漫才モードになってしまったが、わたしは話を切り替える。
「貴方には、水の濁りを取り除く方法を授けました。商売の方はどうですか?」
「嬢ちゃん。いや聖女さま。おかげで色んな所に水が売れて助かった。港湾ギルド経由で外国に行く船にも水が売れて、大儲けだよ」
ガルダに授けた方法。
それは、「とある」薬物を加えれば、濁った水が透き通るのだ。
「わたくしも、その方法を聞いてびっくりしたわ。まさか、ミョウバンを入れたら水の濁りが固まって取り除けるなんてね」
「俺も、ガルダおっちゃんの手伝いをしてたんだけど、びっくりしたぜ」
ミョウバンを使う浄水方法。
それは、凝集沈殿と言われるものだ。
「上手くいっている様で、良かったわ。スラムにある井戸の水って金気。溶け込んでいる鉄分がとても少ないから、濁りを取り除けば美味しく飲めるの」
……道路を掘った時に気が付いたんだけど、ここの土には砂鉄が殆どみられなかったの。お城の井戸、少し金気があるのよね。だから、汲んでしばらくしたら『さび』で真っ赤になるし。気を付けないと洗濯物も錆で赤くなる。NPO時代にはよく見たわ。
「だが、一体どうして泥が固まっていくのか。不思議でたまらん」
「俺も、知りたい。聖女ねーちゃん、教えてくれよ」
「うふふ。では、説明しますの!」
ガルダやリュカに求められ、わたしは説明に入る。
「これですが、泥とミョウバンの成分がお互いに関係していますの。泥ですが、とても細かい砂粒。難しい言葉でいえば『二酸化ケイ素』が主成分。これはマイナスの『電気』を帯びていて、お互いに反発して中々沈みません。そしてミョウバンには『アルミニウム』が含まれていてアルミはプラスの電気を持っています。泥とアルミが電気的に『中和』。くっついて『フロック』という固まりになって……。え、どうしましたか、エッタ?」
「ティア。その説明、わたくしでも理解するのがギリギリのお話ですの。また説明癖が出ていますわよ」
つい調子に乗ってしまったわたし。
科学的理論をぺらぺらと話してしまうのだが、エッタにツッコミを受ける。
「あ!? そ、そうでしたぁ。ごめんなさい」
「い、いや。説明してくれた内容ってのは俺には理解できんが、話す様子が楽しそうだなぁってのは分かったよ。女神さまの英知、おそるべし」
「ねーちゃんたち、すげぇぇ。俺も勉強ってのをしたら、ねーちゃんたちみたいになれるのかな?」
感心しているガルダ。
そして眼をキラキラさせているリュカと周囲の子どもたち。
……と、とりあえず。凄いって事は通じて良かったわ。
「そうですわね。ティアみたいには難しいかもですが、わたくし程度には誰でもなれますわ。だって、皆さん。わたくしと同じ甘い物好き仲間ですもの。おーっほほ」
「ちょ! エッタ、そんな冗談で話を終わらせないでよぉ。あ、失礼しました。ガルダさんにお願いする商売の話なんですが、スラムに浄水場。王都へ綺麗にした水を供給する施設を将来作りませんか?」
またエッタが脱線するので、ツッコむわたし。
「冗談じゃないのに……」と愚痴るエッタは放置。
強引に話題を元に戻し、ガルダに浄水場建設を提案した。
「浄水場って? 俺が王都の水を賄うのか?」
「はい。将来的にはそうできたらと思います。水処理、水をきれいにする方法や飲んでも病気にならない生水の作り方、綺麗にした水を遠くまで運ぶ方法には心当たり。水の女神さまによる英知がございますの」
既にエッタや司祭長には相談済みなので、二人は口を挟まない。
……エッタは、まだ「甘い物好きの話は冗談じゃない」って未練がましいけど。
王都のインフラを構築する上において、上水道と下水道は必須。
今回、土嚢による簡易舗装に成功したので、次の段階を目指せる。
「もちろんガルダさんだけにお願いする仕事ではございません。他のギルドとも協力しての事業。『王都再開発目的会社』を、全ギルド出資の上で作りたいと思っています」
わたしたちが作ろうとしているのは、王都インフラの改善を目的とする特別目的会社。
教えてくれたエッタによれば、前世世界で特定の事業を運用・管理するために、いくつかの会社が協力。
元々の会社から資産を切り離して事業展開をする形態。
なので、各ギルドの資産には影響を与えにくい形らしい。
……って、エッタに聞いたわたしも、理解半分なんだけどね。
「俺は大歓迎だけど、他のギルドはどうなんだい? 道路工事をするためだけに集まった連中だろ? 工事が終わったら……」
ガルダは、自分以外の参加が難しく、このまま仲間たちは解散するのではと呟く。
「えっへん! その為に新しく企画を上げるんです。本当は今日、発表の予定でしたが、大人たちは全員酔っ払いになってしまいましたので、ガルダに先にお話ししたのです。大丈夫、新しい技術も利益も生み出しますわよ」
しかし、ドヤ顔のエッタは酔いつぶれた大人たちを一瞥後、新たな企画を立ち上げ、「餌」で各ギルドを吊り上げると言い切った。
「ま、まあ。そういう事ですので、お心つもりはなさっていてくださいませ、ガルダさん。実際に浄水場建設までには、こなすべき技術ツリーがいくつも存在しますから、まだお時間がありますので。うふふ、『ローマン・コンクリート』とか『ポルトランド・セメント』とか、『水力発電』とか、魔導ポンプとか。まだまだ先は長いですわ!」
「ティアったら。また、よだれ垂らして暴走していますわよ。はぁ。これでは先が思いやられますわ」
わたしはエッタにツッコまれつつも、この先に「発明」すべき物たちを思いうかべ、ワクワクしていた。
「司祭長のおばちゃん、ねーちゃんたちって賢いんだか、馬鹿なんだか、分からないんだけど?」
「そうねぇ、リュカくん。女の子って秘密がいっぱいなのよ」




